The Report #26 “良いデータセンター”をつくるためにCMができること
以前の記事「The Report #09 第4次産業革命期におけるデータセンター整備」でもお伝えしましたが、データセンターの建設ラッシュはまだまだ続いています。
今回は、“良いデータセンター”をテーマに、大規模データセンターのプロジェクトを推進しているプロジェクト推進本部 プロジェクト推進第二部門 3部 ユニットリーダー 青山 悠が、データセンター特集第2弾をお届けします。
“良い建築”や“良いデザイン”をテーマにした記事は目にしますが、“良いデータセンター”について語られることは少ないと思います。プロジェクトの最前線を支援するマネジャー考える“良いデータセンター”とは何なのでしょうか?

“良いデータセンター”とは?
私たちの生活の安定とイノベーションを支えるデータセンターは、現代社会に不可欠であるものの、普段、その存在は意識されないインフラです。一方、データセンターを所有・運営する事業者視点では、それ自体が大きな価値の源泉でもあります。
データセンターを開発する発注者は大きく、不動産会社、通信事業者、データセンター事業者の3つに分けられます。
事業フェーズはさまざまですが、現在私たちは、多くのデータセンター関連のプロジェクトを推進しています。国内および外資系の不動産会社/通信事業者/データセンター事業者など、発注者ごとに開発の目的や求める価値、“良いデータセンター”像は異なるため、それぞれの特性に合わせて、私たちもアプローチを変えています。
不動産会社が求める価値
昨今、データセンターは不動産投資として人気の対象です。
不動産会社とデータセンターを契約するテナントは、データセンター事業者、クラウド事業者や通信事業者が中心であるため、長期間にわたって安定したテナント収益が期待でき、ポートフォリオの中核となりえます。
情報需要の爆発的な増加により、データセンターをREIT(不動産投資信託)やファンドに組み込む動きも進んでいます。立地や契約形態によって資産評価が左右されるものの、景気変動そのものには左右されにくいため、投資対象として利点であると言えます。
ただし、課題もあります。IT技術や機器の進化に伴い、施設および設備のライフサイクルの更新や再構築を行う必要が生じます。また、それによって融資を行う銀行が、事業のキャッシュフローの妥当性を適切に評価することが難しくなっているという課題もあり、資金調達方法も含め、初期に計画とコンセプトを明確にしておくことが非常に重要です。
通信事業者が求める価値
通信事業者から見るデータセンターは、2つの視点があります。
一つは、自社ネットワークの中核を担い、自社サービスの強化を図ることと自社利用だけでなく、他社へのスペース貸与による副次的収益化です。 最近では、生成AIを活用したサービス展開に向けた地方での大規模開発が見受けられます。
もう一つは、ブランディングによるデータセンターの収益化です。他社利用の需要も想定し、トラフィック処理やエッジコンピューティングの拠点として、5G・IoT時代の通信需要への対応や災害時にも通信を維持するための冗長性や耐震性、地理的分散によるリスク分散など、社会インフラとしての高い信頼性を持っていることをアピールすることで差別化につながります。
このように、通信事業者でも異なる視点があるため、PM/CMである私たちは、プロジェクトごとに発注者がどちらを求めているのか、整理をしています。

山下PMCがPM/CMを支援した「ソフトバンクモバイル新ネットワークセンター」。ソフトバンクモバイル株式会社(現:ソフトバンク株式会社)が、携帯電話サービスに関連する通信機器類を設置するために埼玉県さいたま市に新設したネットワーク拠点。大都市ではトラフィックが増大しデータ通信が集中することから、首都圏や関西には複数の中継拠点を設けている。このセンターも、関東エリアのサーバルームの不足を補う目的で建設された。
一方、東日本大震災以降、同社はBCP(事業継続計画)の観点から全国のネットワークセンターの分散化を進めており、その一環として計画された施設でもある。
新たな発想や技術を取り入れた最先端施設とするため、事業創造から推進、プロジェクト管理までの一連のサポートを行うパートナーとしてCMrが導入された。
【プロジェクト・ストーリー】https://www.ypmc.co.jp/stories/story05/
データセンター事業者が求める価値
データセンター事業者(DCオペレーター)は、完成した建物にテナントとして入居し、必要な設備はデータセンター事業者自身が設置・工事を行うケースと、データセンター事業者が単体で建物を含むすべての開発を行うケースがあります。
データセンター事業者が、最終的にクラウド事業者やその他企業(利用者)へサービス展開を行うため、施設のニーズの把握や対応への可否判断はデータセンター事業者自身が行います。
データセンター事業者は、高密度サーバー対応、冷却効率、電力効率、セキュリティや監視体制の高度化など、運用面での技術的優位性を重視します。なぜならば、施設の信頼性の高さが競争力の源泉となるからです。
将来的な設備増強や拡張に対応可能な設計は、ハイパースケール型施設への対応にもつながりますが、需要に応じた柔軟な拡張性は非常に重視されます。
誰が、何のために、どんな価値を求めているのか?マネジメントで重要な視点
発注者ごとにデータセンターに求める価値、“良いデータセンター”像が大きく異なるからこそ、プロジェクトマネジメントにおいては、「誰が、何のために、どんな価値を求めているのか」、前提の整理が不可欠です。
私たちは、プロジェクトの初期段階からお客さまの目的を明確にし、経済性・社会動向・技術の視点を中心にマネジメントを行うことで、価値の最大化とプロジェクトの成功につなげるための支援をしています。
私たちは、敷地選定支援から竣工まで、さまざまなフェーズで多様なサービス提供が可能です。現在、進行しているプロジェクトについても、事業企画のスタート時からご相談いただいたものが多いのですが、プロジェクトの成功とは、ただ完遂するだけでなく、「お客さまが求める価値を、私たちの支援によってどこまで高めることができたか」であると私は考えています。
では、ここから、“良いデータセンター”をつくる、データセンターの価値最大化のためのマネジメントのポイントをご紹介します。
事業企画(コンセプト策定):良いデータセンターとは?
データセンターは、「事業性」の高さはもちろん、自然災害の多い日本においてBCPの視点も重要です。さらに通信設備の更新に合わせた可変性も含んだ施設の「信頼性」の高さ、また、環境対策・エネルギー効率も重視されるので、電力使用効率の指標「PUE」の低減、この3点は“良いデータセンター”のマスト条件です。
私たちは、「事業性」「信頼性」「低PUE」のベストバランスを考え、発注者が求める価値を最大化するためのコンセプトを策定します。

データセンターの完成までワンストップでサービスを提供
基本構想、発注戦略:データセンターの本質は“設備”
事業計画の段階では、建物とそこに設置可能なサーバーを可視化し、どのようなデータセンターにするか、事業としての骨格をつくります。次の段階では、計画の実現に向け、設計、特に設備計画(システム構成、機器スペック設定)を中心に行い工事区分設定や発注戦略を構築します。
データセンターの本質は“建物”ではなく、その中に設置される“設備”ですので、“良いデータセンター”は、設備計画およびその計画を実行するサブコン、メーカーの選定が肝になります。
私たちは、発注者の商習慣・特性を踏まえつつ、スケジュール・コスト・責任範囲、計画内容に配慮しながら、複数の選択肢の中から、合理的で無駄がなく、発注者およびプロジェクトに最適な発注戦略・生産方式を提案しています。

発注方式および工事区分の例。
事業の目的、発注者の事情に沿って、さまざまな選択肢の中からベストな戦略を提案。建築・電気設備・機械設備の分離発注はもちろん、セキュリティ・システムの発注支援、機器調達支援まで、幅広く対応可能。上記は一例であり、機器の発注も発注者側で対応するケースも多くある。ベストな戦略のためには、DC事業者のニーズ(仕様)を正確に把握することが重要だ
プロジェクト推進体制構築と推進:いつ、どこで、何が?
データセンターの本質は“設備”であると述べましたが、プロジェクトは、発注者・データセンター事業者だけでなく、設計者、建築ゼネコン、電気サブコン、機械サブコン、セキュリティ・システムの開発者・メーカー、機器メーカーやコミッショニングオーソリティのコンサルタントなど、参画者が多岐にわたります。
そのため、構築した発注戦略を実行するためには、「いつ」「どの事業者と事業者が」「どんな打ち合わせを行い」「何を決め」「それをどこに展開していくか」、そのための仕組みづくりと調整が必須です。

プロジェクト体制の例。
データセンターの建設に必要な知見と技術力をもつプロジェクトマネジャーでチームを構成し、発注者・データセンター事業者、設計・施工者ほか関係者と連携・支援
経営、情報通信技術、建設の異なる領域を相互に横断しながらプロジェクトが進行しますが、データセンターを専門分野とするプロジェクトマネジャーである私は、常に各分野の価値観をもった方々と理解を深めながら、共通認識をもってプロジェクトを推進しています。
冒頭で述べたとおり、私たちは、全国各地のデータセンターのプロジェクトを支援しており、加えて新規プロジェクトのご相談も多数いただいています。まだまだ続く建設ラッシュに向け、一緒に“良いデータセンター”をつくるメンバーを募集していますので、経験者の方は、ぜひご応募ください。
山下PMC
プロジェクト推進本部 プロジェクト推進第二部門 3部
ユニットリーダー
青山 悠
次回の「The Report」は、山下PMC 安田 孝がお届けします。
・記載されている内容は、掲載当時の情報です。予告なく変更する場合もございますので、あらかじめご了承ください。
・記載されている会社名、商品名は、各社の商標、または登録商標です。なお、本文中では™、®マークは基本的に明記していません。
山下PMCの理念