専門分化が進むほど重要度増すマネジャーの存在
建築プロジェクトにおけるマネジャーの重要性が高まったのは、2000年代に不動産証券化が広がった時期と重なる。証券化案件では、従来のプロジェクトに比べて、投資家への説明責任が厳しく要求される。プロジェクトの各段階に必要な専門家を起用することと、その選定根拠を示すことが鍵となる。適切な能力を持つ専門家を見極めて選抜し、彼らを統率してコーディネートする人材の需要も高まった。
そうした背景から、外資系不動産投資会社が持つ発注ノウハウの導入が進んだ。設計者や施工者に加えて、環境や構造などの各種エンジニアリング会社やマネジメント会社、デザイナー、専門工事会社などに、それぞれの業務を個別に発注する手法だ。多様な関係者の役割分担を明確にする交通整理が必要となるため、プロジェクト全体を見渡すことができる、マネジャーの手腕が問われる〔図1〕。
[図1]
複雑なプロジェクトを交通整理
かつては発注形態が大まかで関係する会社も少なかったが、近年は専門性が重視され、担当領域や工事区分の細分化が進む。発注プロセスや工程が複雑化し、発注者は交通整理ができる人材を求めている
複雑な事業のけん引役
ここではマネジャーをプロジェクトマネジャー(PMr)という職能に限定せず、広い意味での建設プロジェクトの推進役と定義する。当社社員のようなマネジメントの専任者だけではなく、大規模なプロジェクトに携わる設計者や建設会社の監理技術者なども当てはまるだろう。
マネジャーの仕事の醍醐味は、巨大な船を操縦する船長に例えられる〔図2〕。船長が海図を参照し、潮の流れや風の流れを読みながら適切な判断を下すのと同様に、マネジャーは建設プロジェクトにおいて、常に状況を捉えながら関係者の意見をくみ取り、手順やスケジュールを管理し、発注者の目指すものへと導いていく。いわば船を組み立てる仕事よりも、船を動かすことに興味がある人に向いていると言える。
マネジャーに求められるスキルは、大きく(1)テクニカルスキル、(2)マネジメントスキル、(3)ヒューマンスキルに分けられる。(1)は建築関連の技術や知識、(2)はプロジェクトを推進する技術、(3)は「人間力」と呼ばれるような、信頼感や安心感を抱かせるパーソナリティーだ。設計や施工の経験がある程度あれば、(1)は身に付いているだろう。マネジャーを務めるには、残りのスキルを鍛える必要がある。
[図2]
マネジャーは巨大な船を目的地まで導く
様々な困難を乗り越え、状況を見渡し、的確なプロセスを選ぶ。発注者に寄り添い、要望を汲み取って、目的の場所に向かって舵取りする役割がマネジャーだ