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人工知能時代の「仕事力・人間力」| 幅允孝氏×川原秀仁対談(2)

人工知能時代の「仕事力・人間力」 | 幅允孝氏×川原秀仁対談(2)

快適な図書館とは?

―日本の公共図書館数は1987年の1743施設から、2017年は3292施設(日本図書館協会調べ)と倍増しています。快適な図書館についてのお考えをお聞かせください。

 図書館は、単に本を貸し出す場所ではなく、自治体を存続させるための文化施設でもあります。快適性について、考えたほうがいい施設は多々あります。

川原 現場の司書さんやスタッフの多くは、本に詳しくとも、建物や感性の専門家ではありません。

 そうなのです。だから伝わりにくい。私は様々な建築家らと仕事をしてきたので、床材から図書館を考えています。新刊書のコーナーは、多くの人が来るから床を硬めにし、滞在時間が長くなる哲学書のコーナーは軟らかい床にする。重い図版や大型本が多い自然科学書コーナーの椅子は低くする……。こうして施設に使用する建材や什器から戦略的に計算して、本を差し出さないと、スマホに慣れてしまった現代人に本というメディアは届きにくくなっています。

川原 まさにそれは私たちの仕事です。あらゆるケースを想定し、考え抜き、施設を作り運営して〝既視感を超える〞。そして、現場の方にヒアリングし、可視化していないニーズをすくいあげていきます。

 行政に限らず、日本の組織は縦割り過ぎますから、横断する役割が必要です。図書館に限らず、快適性や、次世代以降の未来を考えていない施設は、生き延びていけない時代になっています。

川原 現在と未来を〝一続き〞として考えることが、今の時代に必要です。だからこそ図書館も増え、本というメディアの存在価値が再発見されているのだと感じます。

 そう考える方が増え、企業図書館の依頼が増えています。電子書籍ではなく、紙の本は多くの人と〝共有〞できるから文化醸成に役立つのです。

川原 企業図書館は内容、冊数、スペースが限られています。どのような本を選ぶのですか?

 説得力がある本です。作者や編集者の偏った熱情が噴出している本を選ぶようにしています。本はデジタルとは違い、後から修正ができません。推敲を重ね、完成度を極めている本には、怨念のようなものがこもっていて、それは手に取るとすぐに分かります。そういう本は時代の荒波に打ち勝つほど、強度ある内容やビジュアルを持っている。だからこそ、人の心に深く刺さるのです。

川原 マニアックな人の愛情や執着心からの成果物は、AIが進化しても作ることはできません。

 偏愛からの産物は人の心を打ちます。本は実にそれがよく現れる〝遅効性〞のメディア。読んだ内容は、数値化も類型化もできず、知識さえもすぐに活かせないことが多い。でも、時間を経て、知らぬ間に血肉化していく。だからこそ、存在意義があります。

川原 私も20代の頃に読んだ本、青山ブックセンターやパイド・パイパー・ハウス(※2)で出会った本が、ブレイクスルーのきっかけになったことが多々あります。ただ、気になるのは今は本が嗜好品のように扱われていることです。

 読書は特別なことではなく、生活習慣の一部。今、そのことを子供たちに伝える活動もしています。

川原 読書は〝潜在的な起爆装置〞を心に仕掛けるようなものです。

 そうなのです。まず、子供たちに本を面白いと感じて欲しい。気になる本を手に取り、読める所まで読んだら終わり。読了という概念をあえて教えません。重要なのは読んだ冊数を競うことではなく、本に書いてあるアイデアや文章が心に刺さり残ることだからです。

川原 本を読み、思考が巡ることは気持ちがいいものです。

 それを知らずに読書に苦手意識を持つ人も少なくありません。

(※2)パイド・パイパー・ハウス……1975~1989年、南青山にあった伝説のレコードショップ。山下達郎氏ほか、多くのミュージシャンやクリエイターが常連だったことでも有名。

 

インバウンドをブームで終わらせないための3要素

言葉にならない感覚を数値化することの大切さ

どれだけ深く考察できるか

川原 幅さんは本に軸足を置きながら、仕事の守備範囲が広いです。

 本と人との出会いを促すことであり、その活動を積み重ねるうちに、世界が広がっていました。

川原 私たちも同じく、活動が建築にはとどまらなくなっていました。幅さんの仕事の進め方を教えてください。

 スーツケースに何十冊も本を詰め込み持って行き、その施設の利用者の方と、徹底したインタビューをすることから始まります。

川原 私たちの仕事も、現場に行き、お話を伺わないと分からないことだらけ。幅さん同様、ヒアリングを重視しています。

 去年、神戸市立神戸アイセンターの中にあるビジョンパークという視覚障害者の方の総合的なケアをする施設内ライブラリーの選書を手がけました。多くの本を持って行きましたが、この、写真家・篠山紀信さんの『アイドル 1970―2000』は、とても好評でした。美しい写真がビビッドに印刷されており、視力が低い方にも「見たい」と思わせてくれます。また。進化した香料印刷で、家庭のカレーの匂いを楽しめる『おともだちカレー』や、電車が動く様子を擬音のみで表現した『でんしゃはうたう』という絵本も、インタビューから得たひらめきで加えました。

川原 固定概念や常識の先にある〝何か〞を見つけて現実化することが、これからの仕事だと改めて感じました。

 数量を競うのではなく、どれだけ深く考察できるかということが、仕事のエッセンスになっていきます。これは、人間だけができることだと思います。

川原 今日はありがとうございました。今度、図書館をはじめとする本にまつわる施設作りをご一緒させていただきたいです。

 ぜひ! そのときはよろしくお願いいたします。

幅允孝

ブックディレクター / BACH代表
幅 允孝(はば・よしたか)

有限会社バッハ代表。ブックディレクター。未知なる本を手にする機会をつくるため、本屋と異業種を結びつける売場やライブラリーの制作をしている。その活動範囲は本の居場所とともに多岐にわたり、編集、執筆も手がける。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』(晶文社)など。

川原秀仁

山下PMC 代表取締役社長
川原 秀仁(かわはら・ひでひと)

国内における建築・建設分野のプロジェクトマネジメント(PM)、コンストラクションマネジメント(CM)のトップランナーで、国内を代表するメガプロジェクトを多数手がける。PM/CMを普及させている草分け的存在。著書に『施設参謀』(ダイヤモンド社)がある。

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