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人工知能時代の「仕事力・人間力」| 幅允孝氏×川原秀仁対談(1)

人工知能時代の「仕事力・人間力」 | 幅允孝氏×川原秀仁対談(1)

「本と人とのよりよい出会い」をテーマに活動を続けるブックディレクター・幅允孝さん。
世界中の施設でライブラリーや書店を手がけている幅さんと、山下PMC代表取締役社長・川原秀仁の特別対談です。本というメディアの価値を、あらゆる角度から考え続けた幅さんと、施設の在り方を考察し続けた川原が共鳴。そこで見えた“未来”について語ります。

ポジティブな躓きで本と人との出会いを促す

 私が代表を務める「BACH(バッハ)」は本にまつわるあらゆることを扱っています。書店を作る、本を流通させるだけでなく、企業、病院、学校、行政施設などのライブラリー、そのほか、実際の本の編集も行っています。

川原 活字離れが叫ばれて久しいですが、本には私たちを惹きつける力があります。かつて幅さんは、六本木にあった書店・青山ブックセンターに勤務されていたと伺いました。

幅允孝氏

 はい。2002年まで在籍し、建築、デザイン、洋書の売り場と仕入れを担当していました。

川原 そうでしたか。私はその時期、毎日のように通っていたので、幅さんの担当された書棚を一心不乱に見ていたかもしれません。デザイン関連の本の中に、建築の書籍が置かれていたりして、行くたびに新鮮な驚きがありました。

 ありがとうございます。それはおそらく私が担当していた書棚です。あの編集的な陳列は意図的でした。当時、書店の書棚はNDC分類法という区分法に則っていましたが、人の好奇心はもっと幅広いものだと考えていました。そこで関連する本を入れ、〝ポジティブな躓(つまず)き〞を作ったのです。その瞬時に分かる違和感は、書棚を通り過ぎた人の足を止め、本と人との出会いを促すのです。

川原 なるほど。それが独自の魅力になっていました。夜中、アイデアに詰まったときに、青山ブックセンターに行くと、いい発想がひらめいたこともありました。

 建築のコーナーにグラフィック関連書や、ペーパーアーキテクトの本を置いていました。ニール・ディナーリ(1957年生・米国の建築家)、レベウス・ウッズ(1940年生・米国の芸術家)、ピーター・クック(1936年生・英国の建築家)などが描いているデッサンがグラフィカルで面白く、そんな本もシャッフルして置いていました。

川原 覚えています。そしてあの書店でしかできなかった 〝既視感を超える〞という経験は、知的好奇心を刺激してくれた。今、このことは、あらゆる仕事に求められていると感じます。

 私もそう思います。これからの時代は、シンギュラリティ(※1)に向かって加速していきますので、さらにフィジカル面が重視されるようになっていきます。肉体的な〝心地よさ〞の価値が高くなるのです。体が気持ちいい状態を作ることもまた、好奇心を誘発します。

(※1)シンギュラリティ(技術的特異点)……人工知能の発達が、人間の知性を超えることで、人間の生活に大きな変化が起こるという概念を指す。

 

Webが発達した時代に、わざわざ体を運ぶ魅力的な施設

川原 私たちは企業の本社ビル、宿泊、商業、スポーツほか多くの施設を手がけています。ここ数年、快適性とコミュニケーションの活性化が重要視されていると強く感じています。

 買い物から仕事まで、生活の大半がWeb上で済んでしまう時代に、わざわざ体を運ぶ場所には、相応の魅力が必要です。

川原秀仁

川原 施設の魅力や、快適性について、どのようなことをお考えですか?

 ひとつは〝動と静の混在〞です。フィンランドのトゥルクにある市立図書館は、1階で子供が走り回って遊べるようになっています。本棚やテーブルなどの什器もすべて子供仕様で。壁面のしつらえも子供が気持ちいいようになっており、授乳も含めた飲食も可能です。パブリックスペースとして機能しているのです。

川原 大人のエリアはどのようになっているのでしょうか。

 回廊を登っていくと、2階からは荘厳な〝静〞の世界。大人のための図書館です。そこに入ると気持ちがピリッとする。最初の建築構造から、動と静について考え抜かれているのです。

川原 ひとつの施設で、両方のニーズを満たす……日本の公共サービスにも、この視点は必要です。

 日本は快適性を重視している施設が少ないように感じます。特に図書館はそうかもしれません。

川原 今、多くの公共施設が建て替え時を迎えています。少子高齢化などを考慮し、快適性も含め、見直しの時期が来ているのではないかと感じています。

幅允孝

ブックディレクター / BACH代表
幅 允孝(はば・よしたか)

有限会社バッハ代表。ブックディレクター。未知なる本を手にする機会をつくるため、本屋と異業種を結びつける売場やライブラリーの制作をしている。その活動範囲は本の居場所とともに多岐にわたり、編集、執筆も手がける。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』(晶文社)など。

川原秀仁

山下PMC 代表取締役社長
川原 秀仁(かわはら・ひでひと)

国内における建築・建設分野のプロジェクトマネジメント(PM)、コンストラクションマネジメント(CM)のトップランナーで、国内を代表するメガプロジェクトを多数手がける。PM/CMを普及させている草分け的存在。著書に『施設参謀』(ダイヤモンド社)がある。

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