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「おもてなし」をシステム化 – 観光立国のための世界基準 | 星野佳路氏×川原秀仁対談(2)

「おもてなし」をシステム化 – 観光立国のための世界基準 | 星野佳路氏×川原秀仁対談(2)

1991年に星野佳路さんが軽井沢の老舗旅館を継いでから、わずか27年で国内外に36か所のリゾート施設を運営する企業に成長した星野リゾート。ホテル、旅館、リゾート施設を所有せず、運営「MC」(マネジメントコントラクト)に特化した日本における最初の企業です。所有が常識だった当時の概念を破壊した背景を伺いました。

自分の街にインバウンド客が来ている意味を考えよう

川原 今、インバウンドの形がかつての爆買いから、日本の文化を楽しむ方向に変わっていると感じます。ブームで終わらせないために何をすればいいのでしょうか。

星野 私たちがインバウンドを意識したのはかなり前です。その後、創業100年の節目である2014年に海外の若者100人を日本に招待する『100TRIPSTORIES』というプロジェクトを始めました。

10年後、20年後に「また来たい国」になるために

星野リゾートが開業100周年にちなみ、日本を旅してみたい20代の旅人100人を募集。アジア、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアと多くの国と地域から参加者が訪日した。彼らのありのままの旅行記には、インバウンドをブームで終わらせないためのヒントがあふれている。
『100 TRIP STORIES』
https://www.hoshinoresort.com/100stories/

川原 拝見しました。日本のいいところも悪いところもご本人の言葉で書いているのが新鮮でした。

星野 あのプロジェクトの背景にあったのは、インバウンドに対してネガティブな印象をもっている日本人がいることに気が付いたからです。お風呂の入り方がなっていない、話す声がうるさいなど、文化の違いがあるのは分かるのですが……。

川原 地元の人たちとの触れ合いにより、登場する外国の若者たちの日本への印象が変わったことが伝わりました。言葉も文化も違うのに、個人レベルで理解していることが、感動的でした。

星野 互いを知ることはとても大切です。これも松下幸之助さんの言葉なのですが、「観光立国を目指せば世界平和につながる」と言っています。日本とアメリカはかつて戦争をしていましたが、今は仲良くなっている。お互いに行き来が増え、日本人もグアムやハワイに行き、お互いを知ることで親近感をもつようになりました。このように、ひとりひとりの相互理解を醸成するのは旅行産業の役割だと感じています。

川原 旅行産業が平和産業といわれるゆえんですね。これを読めば、インバウンドの受け入れが変わってくると思いました。

星野 そうなのです。だから、日本人はもっと、インバウンドが自分の街に来ている本当の意味を考えたほうがいいと思います。

川原 経済的な数値だけでは測りきれない部分が多いと。

星野 そもそも、訪日外国人旅行客数が2900万人という数字はでき過ぎています。この背景には、チュニジア、エジプト、イラク、フランスなどの有名な観光国にテロの影響で行けないこと、それに円安などさまざまな要素が重なっている結果だと感じています。30年前まで、外国旅行する人にとって、安全はあまり考慮されませんでしたが、今はとても重視されるようになったことの現れでしょう。

川原 では、テロが終息し、円高になってしまえば、訪日客は減る可能性もあるのですか?

星野 元の実力に戻ったときに、どうなるかを、今から考えなくてはいけないと思います。今、ハワイに多くの日本人が旅行しているのは、かつて文化的に洗練されているとはいえなかった日本人を、現地の人が温かく迎え続けてくれたからです。

川原 SNSなどで情報が拡散しても、顧客を大切にしないと、ツケが回るということでしょうか。

星野 観光国としての実力がなければお客様は来ません。かつてのスキー産業がいい例です。今、多くのゲレンデには外国人旅行客の姿が目立ち、日本人の姿が少ない。それは、1980年代のスキーブーム時代に来ていた学生や若者を大切にできなかったからだと思います。スキーは子連れで楽しむレジャーじゃないというイメージが定着し、ブーム後、衰退してしまった。この反省を活かして、インバウンドも継続的な成長につなげようと考えることが大きな課題です。

山口県長門湯本温泉で社会実験、都市では、観光ホテル「OMO」始動

観光事業に新機軸を打ちたてる星野リゾート。 最新の事業は、山口県長門湯本温泉と連携した「長門湯本みらいプロジェクト」だ。これは「星野リゾート×温泉街」というコンセプトが斬新。夜間照明やそぞろ歩きなど、温泉街の魅力を最大限に引き出す。そして都市型観光ホテル「OMO(おも)」もスタート。旅のテンションを上げ、街を楽しむためのホテルが登場した。


  • 長門湯本みらいプロジェクト
    地形や観光資源など土地の魅力を引き出すリノベーションを行い、「全国温泉ランキングTOP10」に入る温泉街を目指す。

  • OMO
    2018年4月28日に北海道の旭川に、5月9日に東京の大塚にオープン予定。「街を楽しむホテル」という
    コンセプトも新しい。

川原 ところで、星野さんは2017年12月21日に白馬スキー場に近い『界 アルプス』をリニューアルオープンしました。

星野 そこには、温泉旅館に初めてスキー乾燥室を設けました。冬の稼働率が劇的に上がったのでリニューアルできたのです。企画段階から乾燥室は広い面積を確保しました。でも、現場の担当者はそんなにスキー客が増えるわけがないと、内心反対しているのです。すると、おもしろいことに、検討会議のたびに、乾燥室の面積が5平米くらいせまくなっているのです。

川原 私も身に覚えが……そういうこと、よくあります。

星野 経営側は、これから温泉旅館に宿泊し、スキーを楽しむ人を増やしたい。そのようにマーケティングをしていくから、そのときに足りなくなるよりは、改築時に広い面積を確保したいのです。

川原 現場の担当者が納得しないと起こりがちですね。ところで、星野さんは、海外展開をされています。私たちも海外へと挑戦中なのですが、その際の注意点などを教えてください。

星野 海外の案件は、先方からさまざまな案件をいただいて参加しています。私たちが会社のミッションとしてやっていきたいのは日本旅館の展開です。これは私たちが主体となってやっていきたいですし、日本旅館として海外に出て行かなければ、僕のコーネル大学の同級生たちに胸を張れない。そこを自分の大切な成長戦略にしていきたいと思っています。つまり、日本企業の海外進出時には、世界中から日本の要素を期待されます。そこを忘れ、西洋の真似ばかりしていては、うまくいかずに帰ってくるという結果になってしまう。80年代の日本のホテル企業の反省から学び、それを踏まえて戦略を立てなくてはと考えています。

川原 インバウンドの流れを確実にし、内需を大きく廻して、クールジャパンの国づくりをしていくためには、リゾートホテルや観光施設の整備だけではなく、空港や港湾をはじめ地域を結ぶインフラの整備、地域固有の文化やスポーツなどを集約したインテグレーションも欠かせません。その為には官民が一体となり大きなチェーンを形成することがカギになってくると考えています。私たちもこれまでの経験を活かしそのお手伝いができればと思っています。

世界基準の観光立国のヒント世界基準の観光立国のヒント

星野佳路

星野リゾート 代表
星野 佳路(ほしの・よしはる)

1960年、長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。1991年星野温泉旅館(現在の星野リゾート)社長に就任し、先代より事業を引き継ぐ。日本の観光産業振興のカギを握る経営者として注目され、国内外に36のリゾート、旅館を運営。

川原秀仁

山下PMC 代表取締役社長
川原 秀仁(かわはら・ひでひと)

国内における建築・建設分野のプロジェクトマネジメント(PM)、コンストラクションマネジメント(CM)のトップランナーで、国内を代表するメガプロジェクトを多数手がける。PM/CMを普及させている草分け的存在。著書に『施設参謀』(ダイヤモンド社)がある。

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