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「おもてなし」をシステム化 – 観光立国のための世界基準 | 星野佳路氏×川原秀仁対談(1)

「おもてなし」をシステム化 – 観光立国のための世界基準 | 星野佳路氏×川原秀仁対談(1)

1991年に星野佳路さんが軽井沢の老舗旅館を継いでから、わずか27年で国内外に36か所のリゾート施設を運営する企業に成長した星野リゾート。ホテル、旅館、リゾート施設を所有せず、運営「MC」(マネジメントコントラクト)に特化した日本における最初の企業です。所有が常識だった当時の概念を破壊した背景を伺いました。

世界的リゾート施設は所有と運営が別である

観光立国という言葉は、50年代に松下幸之助さんが使っています。

星野佳路

川原 これまでにいくつかのプロジェクトで、星野リゾートさんとお仕事をさせていただきました。かねてからの疑問、観光立国・日本の未来像などについて、お伺いしたいと思います。

星野 観光立国という言葉は、1954年に松下幸之助さんが『文藝春秋』に発表した論文の言葉です。

川原 そうなのですね。今、これだけインバウンドが盛り上がっている背景に、日本の地域の魅力を広める星野リゾートの存在は大きいと感じます。星野リゾートさんはリゾート施設を「所有」せず「運営」に特化した日本初の会社です。その背景を教えてください。

星野 私が31歳で実家の『星野温泉旅館』を継いだ時期にバブル経済が崩壊。施設は供給過剰になっていました。そんな時代に新しい施設を作るのはリスクだと感じましたし、現場に目を向ければ、運営する人がいなくて困っているところが多くありました。これはチャンスだと思い、施設運営を主にした経営戦略を立てたのです。

川原秀仁

川原 その背景には、コーネル大学留学時に世界のホテルのスタンダードを見たことが関係しているのでしょうか?

星野 1984年にコーネルに行ったとき、世界の有名ホテル会社は運営に特化していると肌で感じました。J・W・マリオットやハイアットのオーナーであるプリツカーに会い、彼らと話をしても、所有と運営は分離して当然だと思うようになりました。

川原 当時の日本の常識を考えると革命的な発想です。

星野 みんな「所有」したがりますからね。運営は掃除、料理、接客という地道な仕事。日本のリゾート事業の特徴は、開発、経営、運営を同じ人が行っています。すると拡張が個人の範囲内になり、限界が出てしまうのです。

川原 それらを分離するメリットはどこにあるのでしょうか。

星野 まず、投資家がリゾート事業に参入できるようになることです。私たちは2005年からゴールドマン・サックスと提携し、さまざまなリゾートホテルや温泉施設の再生を手がけています。これは運営に特化してきたからできたことだと感じています。

星野リゾート

1904年軽井沢に創業した老舗旅館。1991年、星野佳路氏が社長就任以後、世界的な企業に成長を遂げる。リゾートや温泉旅館の経営と運営のほか、ブライダル事業、エコツーリズム事業など、その事業内容は多岐にわたる。

個人の能力に依存した「おもてなし」は間違い

川原 他にも日本と世界の常識に乖離がある概念はありますか?

世界基準のリゾート開発の仕組み

世界基準のリゾート開発の仕組み

星野さんによる、世界的なリゾート業界の仕組み図。
それぞれに特化した4つのプレイヤーが、リゾート事業を成立させて
いることが分かる。「所有と運営の分離」により、運営者は運営に
特化して戦略志向、顧客志向になることができる。

星野 投資家のカンファレンスでコーネル大学の同級生に会いました。そのときに「君の国には〝おもてなし〞という武器があるそうだが、それはどういうものか?」と質問されました。私はあまり深く考えず、「気遣い、先回り、顧客への心遣いだよ」と説明しました。すると彼は「そんなことか! それをやっていてはダメだ」と真剣に語るのです。

川原 どういうことですか?

星野 世界的なホテルチェーンはどんな人でも同じ結果を出せるようにシステムを構築しています。日本の「おもてなし」は、各人のスキルに頼っているから、立ち行かなくなるということです。

川原 世界基準かつ、個人の能力に依存しない「おもてなし」とは、どのようなものなのでしょう?

星野 それは、提供側のこだわりを顧客側に伝えることです。主客に上下があってはならず、主客対等が基本にあります。

川原 それは衝撃的です。でも、「おもてなしの仕組み」を作ってしまえば、世界中に日本旅館を作れます。星野リゾートでは、実際、「おもてなし」としてどのようなことをしているのですか?

星野 たとえば、『星のや』ブランドの客室にはテレビを設置していません。ここでは、テレビがない時間の流れを感じてほしいという私たちのこだわりです。そして食事のメニューがないこと。その日のベストを味わってほしいという思いから、あえてメニューは置きません。「おもてなし」の定義を変えてから、顧客満足度は上がりました。やはり、主客対等でサービスを提供すると、互いに尊敬の念が湧き、それが世界基準のサービスになっていくのだと思います。

インバウンドをブームで終わらせないための3要素

言葉にならない感覚を数値化することの大切さ

星野佳路

星野リゾート 代表
星野 佳路(ほしの・よしはる)

1960年、長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。1991年星野温泉旅館(現在の星野リゾート)社長に就任し、先代より事業を引き継ぐ。日本の観光産業振興のカギを握る経営者として注目され、国内外に36のリゾート、旅館を運営。

川原秀仁

山下PMC 代表取締役社長
川原 秀仁(かわはら・ひでひと)

国内における建築・建設分野のプロジェクトマネジメント(PM)、コンストラクションマネジメント(CM)のトップランナーで、国内を代表するメガプロジェクトを多数手がける。PM/CMを普及させている草分け的存在。著書に『施設参謀』(ダイヤモンド社)がある。

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