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ソフトと連動する、柔軟な施設づくり|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(5)

ソフトと連動する、柔軟な施設づくり|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(5)

東京オリンピック・パラリンピックの開催が3年後に迫り、スポーツ産業は活況を呈しています。今回は、それぞれ異なるフィールドでスポーツ施設に関わるお二人に、山下PMC川原秀仁がお話を伺いました。お一人は、ZOZOマリンスタジアムを本拠地とし、様々なファンサービスによって観客動員数を増やしたことで知られる、千葉ロッテマリーンズの原田卓也氏。もう一人は、元アスリートで、現在は未活用不動産を利用したスポーツ合宿事業を手掛けるR.project代表の丹埜倫氏。3人の対談を通してスポーツビジネスの展望を考察します。
第5回は、施設というハードだけではなく、ソフトの面を考慮した柔軟な施設づくりについて考察します。

ハードとソフトが連携したスポーツ施設のこれから

川原 これまでお話を伺って、みなさん共通した方向に向かおうとしていると改めて感じました。企業経営においても、これまでのバランスシート主義というか、資産や資本をもっていればいいという時代から、オペレーション主義、つまり運営によって持続する利益を生み続けることが重視される流れに変わってきています。

我々は施設というハードを主体にしてきたのですが、丹埜さんのようなソフトの世界と結び付け、運営を支援する施設のあり方を常に考えるようになりました。ソフトとハードを完全に緊結するような役割ということで「施設の参謀」という言い方をしています。ここ数年でスポーツにも関わることが増え、以前は建物単体が多かったのですが、今はラグビーの世界大会の会場整備や、ここの隣りに予定されている日本サッカー協会(JFA)のナショナルフットボールセンターなど、群で展開するようになってきました[p.11]。千葉ロッテさんはもちろん、県や市とも連携して、賑わいのある複合ビジネスを実現できる場になるよう、我々も支援しようと実践しております。

千葉ロッテマリーンズの本拠地、ZOZOマリンスタジアム

千葉ロッテマリーンズの本拠地、ZOZOマリンスタジアム。県立幕張海浜公園内に位置し、同公園内、右手の敷地に日本サッカー協会の(仮称)ナショナルフットボールセンターの設置が予定されている。球場の奥に見えるのが幕張メッセ。

[写真:Vertical / PIXTA]

原田 そうですね。私たちも一緒に盛り上げていきたいと思っています。ここに限らず、スポーツの未来という点においては、今後は構造的にフレキシブルなスタジアムが求められると考えています。個人的にイメージするのは、新宿駅のように常にどこかを工事しているような、未完成なスタジアム。ここも当然、新しいシートなどをつくらないと陳腐化してしまうので、毎年どこかは改修しているのですが、構造がいかんともし難くて、やりたくてもできないということが多々ある。バリアフリーのためのスロープですら設置することが難しい。

原田氏

ニーズは常に変わるので、スタジアムがライフスタイルや地域のハブになるという概念であれば、野球だけでなく他のプロスポーツも時々はできるようにする必要もあります。常にニーズを付け足していけるような、ずっと未完成のままのスタジアムがあってもいいんじゃないかと、個人的には思っています。

丹埜 アマチュアスポーツにおいては、スタジアムまでいかないにしても、総合運動公園が全国各地にあり、毎年行われる国体や、目下はオリンピック事前合宿誘致で、新たな施設づくりが続いています。しかし地方でつくられるのはプロスポーツや国際大会の誘致にはちょっと設備が足りない施設が多くて、そこに何十億も投資したり、膨大な維持管理費が毎年かかっている。そういう施設づくりや運営の柔軟さを自治体に求めつつ、地域と地域外をいかに共存させるか、我々も良い提案を考えていきたいと思います。地域外をある程度、限定で受け入れることで、経済効果が地域に生まれるという大きな仕組みの転換ができるといいと思っています。

日本のスポーツのこれから

川原 日本は「技術先進国」で「健康長寿社会」ではあるのですが、まだまだ社会先進国とは見られていません。今、インバウンドでせっかく日本が世界から注目されているので、「社会先進立国」に向かうきっかけにすべきだと思っています。

丹埜 同感です。

川原氏

川原 日本は、昨年のリオオリンピックでは史上最多となるメダルを獲得し、トップアスリートを数多く輩出していますが、世界に通用するようなスポーツビジネスには挑戦できていません。今日は、原田さんのプロ野球や我々のクライアントである日本サッカー協会など、トップアスリートの世界から、丹埜さんが手掛けているようなアマチュアスポーツ支援や市民スポーツの推進、さらには地方創生まで、トップアスリートを頂点に「ブレイクダウン・ストラクチャー」するような、スポーツ世界の裾野の広さを改めて感じました。これからは、各ジャンル・地域間でネットワークを拡げ、縦横がシームレスにつながる世界を構築できれば、日本も社会先進立国に向かうのではないかと思います。今日、お二方のお話を伺って、潜在的にその方向に向かっているのではないかと確信しました。

スポーツ関連施設における山下PMCの「施設参謀」

1997年、日本初のPM/CM会社として創業した山下ピー・エム・コンサルタンツ。幅広い業種のクライアント企業の「施設参謀」として施設づくりをサポートするなかで、日本における建設生産システムの健全化、社会基盤の品質向上、さらには「社会先進立国」実現に貢献することを理念としています。その1つの柱が「スポーツ立国」です。その実現に向けても、プロスポーツや教育、自治体などで取り組まれているプロジェクトを通じて、山下PMCは支援していきます。

[Project 1] (仮称)JFAナショナルフットボールセンター

サッカーの事業支援・計画支援を通じて新たなスポーツ文化の発展・普及に寄与する

(仮称)JFAナショナルフットボールセンターの配置図山下PMCが提案している、
「(仮称)JFAナショナルフットボールセンター」
の配置図。

千葉県立幕張海浜公園内に建設予定されている、日本サッカー協会(JFA)の短期トレーニングセンターを、企画段階から支援しています。日本代表チームの強化や、コーチ、レフェリー育成のための施設構成および配置・建築計画に加え、プロ野球球団拠点が隣接する立地を活かした「サッカーを通じた豊かなスポーツ文化の創造」にもチャレンジしています。その実現のため山下PMCは、自治体や近隣等との関係者調整、事業として成立させるための企業への事業参画スキーム構築などを、JFAに提案しています。

[Project 2] 立教大学 新座キャンパス
室内温水プール・陸上競技場・大学雨天練習場 建設プロジェクト

施工者選定支援を通じて学院のスポーツ施設更新計画を推進

立教大学 新座キャンパス 室内温水プール50m×10コースをもつ室内温水プールは、25m×
2面への転換も可能で、水深も6段階に設定できる。
競泳用の国内基準プールとしても公認されている。

立教学院が埼玉県新座市に有するキャンパス内のスポーツ施設更新計画において、施工者選定支援を行いました。2014年に竣工した陸上競技場、2015年に竣工した室内温水プールは、いずれも立教大学と立教新座中学校・高等学校の共用施設で、スポーツを通じた中高大連携教育の促進を図る整備計画です。山下PMCは、各スポーツ施設に適した施工者候補のリストアップや発注条件の整理、施工者による見積書の査定と交渉などを行い、コスト抑制とプロジェクト推進をサポートしました。

[Project 3] ラグビーの国際試合開催に向けた会場整備

試合会場の基準・ルールづくりと、各会場への反映をサポート

ラグビーの国際試合開催に向けた会場整備[写真:Rodrigo / PIXTA]

国際的なスポーツイベントであるラグビーの世界大会開催に向けて、全国の試合開催会場の整備を支援しています。新築される一部施設を除き、ほとんどが全国各地にある既存のスタジアムを利用して行われるため、複数の施設に適用できる標準仕様が必要になります。山下PMCは、その基準・ルールづくりから、工事等における与条件設定の支援、改修方法についての技術的な検証、検討、ソリューションの提供などを行ってきました。今後の設計・施工段階では、大会の確実な成功をサポートするべく、発注・調達戦略の策定・実行、コスト抑制、スケジュール管理、関係者間の調整など、プロジェクトマネジメントを行っていく予定です。

[Project 4] 南魚沼版CCRC推進プロジェクト

スポーツとヘルスケアによる、地方創生に向けた官民協創の仕組みづくり

南魚沼版CCRC推進プロジェクト山下PMCが提案した、
南魚沼版CCRC(生涯活躍のまち)の実施イメージ。

新潟県南魚沼市が全国に先駆け、地方創生プロジェクトとして取り組んでいる「南魚沼版CCRC※」の推進支援を行っています。健康で生涯活躍できるまちづくりを通し、人口減少への対応と、雇用の創出を目指しています。山下PMCは南魚沼市と協力して「スポーツとヘルスケアによる健康拠点づくり」というコンセプトを立案するとともに、連携実施事業者の候補者選定支援、アイデアコンペの実施など、事業実現に向けた支援を行っています。


※CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは「継続的な介護・医療を提供する高齢者向けコミュニティ」を意味する。CCRCの先進国アメリカでは、中高年齢者が元気なうちに移住し、健康状態に合わせて最適な介護・医療サービスを受けながら、人生最期までを過ごせる生活共同体を指す。一方日本では、高齢者のニーズが知的欲求の充足や消費行動にも広がっていることから、「生涯活躍のまち」として様々なサービスと連携したCCRCが検討されている。

進行、文:フリックスタジオ
写真:増田智泰

座談会シリーズ『スポーツ産業の構造変革と新しいライフスタイルの出現』

*この座談会は、2017年5月22日発刊の広報誌UNSUNG HEROES09に収録されたものです。

原田卓也

千葉ロッテマリーンズ 事業本部 企画部 部長/パシフィックリーグマーケティング 取締役
原田卓也(はらだ・たくや)

1990年慶應義塾大学法学部卒業後、15年間IT関連企業に勤務。主にセールス&マーケティングやプロダクトマネジメントを担当。2005年3月千葉ロッテマリーンズ入社。主にメディア/ IT 事業、CRM(Customer Relationship Management)、事業企画等を担当し、現在企画部部長としてマーケティング・メディア事業・商品事業・ファンクラブ事業・IT /CRM等を所管。2007年のパ・リーグ6球団共同出資によるPLM(パシフィックリーグマーケティング社)設立にも参画。IT、コンテンツセールス、CRM等のプロジェクトを担当し、現在PLM取締役も兼務。2010年~ 12年まで江戸川大学客員教授(スポーツマーケティング論)。

丹埜 倫

R.project 代表取締役
丹埜 倫(たんの・ろん)

2001年慶應義塾大学法学部卒業後、ドイツ証券東京支店、リーマンブラザーズ証券東京支店に勤務。日本株トレーダーとして勤務する傍ら、スカッシュの日本代表として世界選手権に出場。2006年に金融業界を離れ、R.projectを設立。現在は千葉県、山梨県、東京都で10事業を展開中。地元地域と深く関わりながら、都会や海外からの人の流れを創出し地方地域の活性化を目指している。現職の他、ロハスインターナショナル取締役、鋸南町観光協会理事、館山青年会議所会員、城西国際大学観光学部講師を務める。

川原秀仁

山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長
川原秀仁(かわはら・ひでひと)

1983年日本大学理工学部卒業後、農用地開発/整備公団、農水省、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年に山下ピー・エム・コンサルタンツに転籍。山下PMCの創業メンバーとして参画し、国内CM技術の礎を築く。CCMJ、認定FMr、一級建築士。主な受賞に2012年国際CMコンクール準グランプリ(武田薬品工業湘南研究所プロジェクト)他。近著に『施設参謀――建設リスクを経営資源に変えるコンサルティング』(ダイヤモンド社)。