週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

経営課題を解決するファシリティ・
CRE戦略マガジン

税金を使わない施設運用|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(4)

税金を使わない施設運用|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(4)

東京オリンピック・パラリンピックの開催が3年後に迫り、スポーツ産業は活況を呈しています。今回は、それぞれ異なるフィールドでスポーツ施設に関わるお二人に、山下PMC川原秀仁がお話を伺いました。お一人は、ZOZOマリンスタジアムを本拠地とし、様々なファンサービスによって観客動員数を増やしたことで知られる、千葉ロッテマリーンズの原田卓也氏。もう一人は、元アスリートで、現在は未活用不動産を利用したスポーツ合宿事業を手掛けるR.project代表の丹埜倫氏。3人の対談を通してスポーツビジネスの展望を考察します。
第4回は、PRE(公共不動産)をいかに有効活用するのかを探ります。

アマチュアスポーツの可能性

川原 人口の点で言えば、プロよりもアマチュアの方が多いと思いますが、合宿事業にはどのようなポテンシャルがあると感じていますか?

丹埜氏

丹埜 その地域にもよりますが、我々が2014年から運営している千葉市の「昭和の森フォレストビレッジ」は、千葉市最大の公園内にあり、合宿施設・キャンプ場・多目的広場からなる複合施設です。周辺の人口も多いので、スポーツスクール事業が成り立つと思っています。ただ、野球とかサッカーとか、子ども向けのスクールというのは既に地域にあることが多く、少子化等の影響からチームが成り立たなくなってきている状況もあるので、そこに新規参入するつもりはなくて、今考えているのはシニア向けのスクールや合宿所ですね。ヨーロッパなどでは地域スポーツ拠点づくりが盛んで、介護が必要となる年齢を先延ばしするための「未病産業」が確立しつつあります。高齢者の健康の維持・増進が社会的な課題となっている日本でも、同様の取り組みが始まっています。

川原 全くその通りですね。日本は、総人口の四分の一以上が65歳以上の高齢者という超高齢化社会です。これまでのスポーツビジネスの中心は若者世代でしたが、シニアスポーツはまさに成長市場のひとつです。我々も今、南魚沼市のCCRCプロジェクトをお手伝いしています[p.11]。そこでは、新たにたくさんの建物をつくるというような事業ではなくて、たとえば二地域居住などを推進してここに人を集め、健康が長続きするようなコミュニティをつくるという取り組みです。そのなかに、スキーなどを含めたスポーツ振興を入れ込んだり、プロスポーツもアマチュアスポーツも複合して一体的に事業化できないかと考えています。さらに、これまで「岩盤規制」と言われてきた医療・介護保険制度の大改革が、今ようやく始まろうとしています。これが前兆となり、医療・介護と深い関係のある「健康長寿」や「スポーツ振興」がいずれは国の制度や法律に入ってきて、補助金が出るようになったり、地域がサポートして、産業化すると思っています。

日本の教育とスポーツ

丹埜 日本では学生時代はスポーツを経験することが多いと思うのですが、それを離れると、すごく距離が出てしまう。本当は社会人になってからもやるべきだし、やりたい人は確実に増えてきていますよね。自転車ブームもそうですけど、何かきっかけや仕組みがあれば始める人は多いですし、ビジネスの可能性もたくさんあると思います。

川原 これまでの教育制度における「体育」という概念が大きく阻んでいたと思うんですよね。そこには「Fun to Sports」の視点が欠如していました。けれども、日常のサイクルのなかでスポーツを楽しむ動きがようやく出てきたので、これを上手く経済につなげることが、今の一番のミッションじゃないかなと思います。

PRE(公共不動産)の有効活用

丹埜 シニア向けにすることのメリットはもう1つあり、最初の施設は買い取りましたが、現在運営している他の施設は、我々が賃貸で借りているケースがほとんどです。それらは地域の方々が昔通っていた学校や、思い入れのある公的な建物が多くて、廃校や閉鎖になったとは言え、地域外の民間に貸し出すことに抵抗を感じる方もいます。そういう時、我々が施設を完全に独占利用するのではなく、地域にも開いていくことで、受け入れられやすいし、利用もされやすい。あと最初は、行政の反応も非常に鈍かったですね。行政がそれまでやっていた維持管理は我々がやるので、行政も楽になるし、合理的な提案だとは思うのですが、一民間に貸すということにハードルが非常に高かった。

川原 今は、先ほど原田さんがおっしゃっていた「指定管理者制度」という2003年9月施行の改正地方自治法により導入された制度があり、これまで地方自治体の出資法人や公共団体などの公益法人等に限定されていた「公の施設の管理運営」に、民間企業やNPOなど、幅広い団体が参入できるようになりましたが、それでもダメだったんですね。

丹埜 当初はそうでしたね。NPOなどは違ったかも知れませんが、民間の参入は少なかった。でも、自治体からすれば、指定管理料を払っている時点で赤字なわけですよね。我々の場合は、維持管理もコストを含めてもつので、行政からすると、赤字がピタッと止まって、さらに賃料が入ってくると。改修コストも、光熱費や修繕費なども基本的にはこちらがもって、普通に事業として独立採算でやっているというのがポイントになったのだと思います。

原田 この球場も、利用料金収入および自主事業収入で指定管理業務の運営費用をまかなっているので、千葉市からの委託料はゼロでやっていますね。

川原 今はどの自治体も財政的に厳しくなってきているので、渡りに船ですね。

丹埜 ここ3年くらいで、自治体の考え方は大きく変わったと思います。総務省が力を入れて公共施設の利活用を各自治体に奨励をしているのもありますが、総務省に言われるまでもなく、税収が落ちてきていますから。今一番注目しているのは総合運動公園とか、大きい施設ですね。近くにある廃校を宿泊施設として活用したり、場合によっては新築して、どうにか宿泊施設を用意して運営していきたいなと。そのような形で合宿事業を拡げていこうと考えています。

川原 高度経済成長期に建設された公的な施設が、今、一斉に償還を迎えているんですよね。これまではスクラップアンドビルドの時代でしたが、今後の税収を考えると、こういったビジネスで上手く利活用していくか、新たにつくり変えるにしても、市民サービスやいろいろな事業を混合させて、税収に頼らない公共施設にしていくか。そういうことを考えていかないと、日本の未来がなくなるような時代にきていますよね。

原田氏

原田 昨年できた市立吹田サッカースタジアムは、Jリーグのガンバ大阪のホームスタジアムですが、建設費用を自治体に頼らず、クラブ主導で集めた寄付金でまかなったことが話題になりました。施設を新しく建てるか、既存のものを使うかは別として、根本はみんな同じで、いかに有効活用して、マネタイズしていくか。

川原 丹埜さんのビジネスがまさにそれですよね。


原田 そうですね。ここも同様で、自治体としては税金を使って建てたものなので、先ほど丹埜さんもおっしゃっていたように、1つの民間企業に対して有利な条件を出せないんですよね。なので、私たちは常に、スポーツ振興や教育といった社会貢献的なスタンスで、私たちが市民の役に立っているというのを示していくとことも非常に重要だと思っています。

進行、文:フリックスタジオ
写真:増田智泰

座談会シリーズ『スポーツ産業の構造変革と新しいライフスタイルの出現』

*この座談会は、2017年5月22日発刊の広報誌UNSUNG HEROES09に収録されたものです。

原田卓也

千葉ロッテマリーンズ 事業本部 企画部 部長/パシフィックリーグマーケティング 取締役
原田卓也(はらだ・たくや)

1990年慶應義塾大学法学部卒業後、15年間IT関連企業に勤務。主にセールス&マーケティングやプロダクトマネジメントを担当。2005年3月千葉ロッテマリーンズ入社。主にメディア/ IT 事業、CRM(Customer Relationship Management)、事業企画等を担当し、現在企画部部長としてマーケティング・メディア事業・商品事業・ファンクラブ事業・IT /CRM等を所管。2007年のパ・リーグ6球団共同出資によるPLM(パシフィックリーグマーケティング社)設立にも参画。IT、コンテンツセールス、CRM等のプロジェクトを担当し、現在PLM取締役も兼務。2010年~ 12年まで江戸川大学客員教授(スポーツマーケティング論)。

丹埜 倫

R.project 代表取締役
丹埜 倫(たんの・ろん)

2001年慶應義塾大学法学部卒業後、ドイツ証券東京支店、リーマンブラザーズ証券東京支店に勤務。日本株トレーダーとして勤務する傍ら、スカッシュの日本代表として世界選手権に出場。2006年に金融業界を離れ、R.projectを設立。現在は千葉県、山梨県、東京都で10事業を展開中。地元地域と深く関わりながら、都会や海外からの人の流れを創出し地方地域の活性化を目指している。現職の他、ロハスインターナショナル取締役、鋸南町観光協会理事、館山青年会議所会員、城西国際大学観光学部講師を務める。

川原秀仁

山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長
川原秀仁(かわはら・ひでひと)

1983年日本大学理工学部卒業後、農用地開発/整備公団、農水省、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年に山下ピー・エム・コンサルタンツに転籍。山下PMCの創業メンバーとして参画し、国内CM技術の礎を築く。CCMJ、認定FMr、一級建築士。主な受賞に2012年国際CMコンクール準グランプリ(武田薬品工業湘南研究所プロジェクト)他。近著に『施設参謀――建設リスクを経営資源に変えるコンサルティング』(ダイヤモンド社)。