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スポーツビジネスとIT の親和性|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(3)

スポーツビジネスとIT の親和性|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(3)

東京オリンピック・パラリンピックの開催が3年後に迫り、スポーツ産業は活況を呈しています。今回は、それぞれ異なるフィールドでスポーツ施設に関わるお二人に、山下PMC川原秀仁がお話を伺いました。お一人は、ZOZOマリンスタジアムを本拠地とし、様々なファンサービスによって観客動員数を増やしたことで知られる、千葉ロッテマリーンズの原田卓也氏。もう一人は、元アスリートで、現在は未活用不動産を利用したスポーツ合宿事業を手掛けるR.project代表の丹埜倫氏。3人の対談を通してスポーツビジネスの展望を考察します。
第3回は、スポーツビジネスとITがどのように融合できるのか。その可能性を探ります。

球場とITの親和性

川原 お二方とも、次世代の展開まで感じられるお話で、非常にわくわくしてきました。先ほど、原田さんが今後はスマートスタジアム化が進むとおっしゃっていましたが、スポーツとITは親和性が高いのでしょうか?

原田 非常に高いですね。様々な理由が挙げられるのですが、今のネット社会、特にサービス産業が充実した都市部において、夜7時に家族揃って自宅でテレビを観るということ自体が少なくなっています。私自身もホームゲームは球場に行きますが、ビジターの試合は電車のなかだったり、食事に出掛けたりしています。そこでパ・リーグでは、2007年から全6球団の試合をライブで動画配信するインターネットテレビサービス「パ・リーグTV」を始めました。今はスマホでも観られるので、居酒屋で飲みながらスマホで観戦というスタイルも普通になりつつあるんですよね。

川原 球場ではどのようにITを活用しているのですか?

[図3]VR配信イメージ

VR配信イメージ

球場内に360度撮影カメラを設置し、試合の模様をリアルタイムで
エンコードして映像化する技術を利用。
[提供:千葉ロッテマリーンズ]

原田 まずは球場のオペレーション自体すべてがIT化されています。売店には当然POSが導入されていますし、どの球場でもポイントカードをつくっていて、その使用履歴を見れば、どういう属性のファンが、いつビールを買って、グッズを買ってというのが全部分かります。今は当たり前にどの球場・球団もビッグデータを活用して運営をしています。そのほか、ビールの売り子を自分の席まで呼べるようなアプリなど、Beaconを使ったシステムの導入も本格化していますし、当球団では昨年、リアルタイムでVR動画を配信する試みを行いました[図3]。観客席内に設置した特殊ゴーグルを装着すると、グラウンドに立ち、選手のすぐ近くで試合を観戦しているような感覚が味わえます。

川原 それは面白そうですね。今、特に力を入れている球場運営に、ITが見事にはまって、サポートしているわけですね。

原田 スポーツビジネスにいち早くITを取り入れたアメリカで、最近話題なのがMLBの「スタットキャスト」です。選手のプレーを瞬時にして細かく数値化し、CGでビジュアル化する画期的な技術なのですが、もともとはミサイルなどを追尾することを目的に開発された軍事技術で、その機能を搭載したビデオカメラを使うことで、選手が何mどのくらいで走ったとか、どういう走路でフライを捕ったのかとか、ほぼリアルタイムでCG化できます。最初はMLB専門チャンネルで導入されたのですが、今ではMLB公式サイトで無料で見られます。それはなぜかというと、野球はルールが難しい。日本でも、ナイター観戦が家族団らんの象徴だった僕たちの世代までは、大抵がルールを分かっていると思いますが、30代以下になると、ルールを知らないのは珍しくありません。それはアメリカでも同じです。

川原 そういう時代なんですか。

スポーツエンターテインメントを高めるためのIT活用

原田 バスケットボールとかサッカーとか、分かりやすいスポーツは別として、たとえばフライを捕るにしても、これがどうすごいのか、分かりやすくプレゼンしないと面白さが伝わらない。そのシステム開発には膨大な費用がかかっているわけですが、アメリカでも、日本でも、現時点ではマネタイズできる有料のコンテンツ価値というよりは、そこでのエンターテインメント性を高めたり、ネットでの露出を高めたりとか、新しい世代へのアプローチにおいて、非常に重要になってきています。ただし、やはり今後はいかにマネタイズできるか、つまりスポーツの産業化を考えなければ継続性がないわけで、スポーツ庁や経済産業省などでも推進しています。スタジアムや競技場をつくって終わりではなくて、欧米では当たり前になっている収益性をどう確保するか。そこには経営力や技術力が必要で、他業界とどうやって融合させていくか、今組み上げているような状況です。たとえば、JリーグはNTTグループと組んで全国のホームスタジアムのWi-Fi 環境整備を進めています。

川原 プロ野球に関しては、先ほどおっしゃっていたソフトバンクや楽天、DeNAなどのIT 関連企業の新規参入が、IT化を加速させたのでしょうか?

原田 そうですね。特に楽天は全くの新規球団なので、ITに限らず、チームやスタジアムの運営についてもアメリカでの成功事例を徹底的に研究して、MLBでもNFLでもNBAでも、ベンチマークにしていました。もちろんアメリカでの成功事例をそのまま日本にもってきても上手くいかないので、それを日本流にアレンジして導入していました。また、千葉で上手くいっても、仙台で上手くいくとは限らない。ITを活用してとにかくローカルに咀嚼して、ノウハウを蓄積し、経営を黒字化していったのだと思います。

合宿事業のIT化

川原 合宿事業のIT化はどのような状況ですか?

丹埜氏

丹埜 ご存知の通り、一般的な宿泊事業は予約やフロント業務もオンライン化され、Airbnb(エアビーアンドビー)が普及するなど、IT化が進んでいますが、合宿事業の方はなかなか難しい状況にあります。たとえば、この日だけご飯を出すタイミングを少し遅くして欲しいとか、アレルギー対応の食事を出して欲しいとか、事前に打ち合わせることがよくあります。合宿専門の旅行代理店経由の予約もありますが、我々の場合は直接の予約が過半数で、それは未だにFAX 文化だったりします。営業もネットで広告を出したり、新規で電話を掛けるというよりは、一度来ていただいたチームの指導者に、他校のサッカー部を紹介してもらったり、同じ学校の野球部を紹介してもらったり。指導者のネットワークは強いので、そういうアナログなつながりが結構重要なのです。ただし、ITでもっと効率化できる部分はあって、拡張する可能性がないとは思っていないでので、今まさに我々はそこにチャレンジしようとしているところです。

川原 今やあらゆるビジネスがITなしには動かない時代です。2020年に向けて、さらなるスポーツの産業化や、引いてはまちづくりまで、いかにITを活用し、融合できるのかが重要になると思います。

進行、文:フリックスタジオ
写真:増田智泰

座談会シリーズ『スポーツ産業の構造変革と新しいライフスタイルの出現』

*この座談会は、2017年5月22日発刊の広報誌UNSUNG HEROES09に収録されたものです。

原田卓也

千葉ロッテマリーンズ 事業本部 企画部 部長/パシフィックリーグマーケティング 取締役
原田卓也(はらだ・たくや)

1990年慶應義塾大学法学部卒業後、15年間IT関連企業に勤務。主にセールス&マーケティングやプロダクトマネジメントを担当。2005年3月千葉ロッテマリーンズ入社。主にメディア/ IT 事業、CRM(Customer Relationship Management)、事業企画等を担当し、現在企画部部長としてマーケティング・メディア事業・商品事業・ファンクラブ事業・IT /CRM等を所管。2007年のパ・リーグ6球団共同出資によるPLM(パシフィックリーグマーケティング社)設立にも参画。IT、コンテンツセールス、CRM等のプロジェクトを担当し、現在PLM取締役も兼務。2010年~ 12年まで江戸川大学客員教授(スポーツマーケティング論)。

丹埜 倫

R.project 代表取締役
丹埜 倫(たんの・ろん)

2001年慶應義塾大学法学部卒業後、ドイツ証券東京支店、リーマンブラザーズ証券東京支店に勤務。日本株トレーダーとして勤務する傍ら、スカッシュの日本代表として世界選手権に出場。2006年に金融業界を離れ、R.projectを設立。現在は千葉県、山梨県、東京都で10事業を展開中。地元地域と深く関わりながら、都会や海外からの人の流れを創出し地方地域の活性化を目指している。現職の他、ロハスインターナショナル取締役、鋸南町観光協会理事、館山青年会議所会員、城西国際大学観光学部講師を務める。

川原秀仁

山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長
川原秀仁(かわはら・ひでひと)

1983年日本大学理工学部卒業後、農用地開発/整備公団、農水省、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年に山下ピー・エム・コンサルタンツに転籍。山下PMCの創業メンバーとして参画し、国内CM技術の礎を築く。CCMJ、認定FMr、一級建築士。主な受賞に2012年国際CMコンクール準グランプリ(武田薬品工業湘南研究所プロジェクト)他。近著に『施設参謀――建設リスクを経営資源に変えるコンサルティング』(ダイヤモンド社)。