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スポーツ合宿×未活用不動産のベストマッチング|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(2)

スポーツ合宿×未活用不動産のベストマッチング|原田卓也氏×丹埜 倫氏×川原秀仁座談会(2)

東京オリンピック・パラリンピックの開催が3年後に迫り、スポーツ産業は活況を呈しています。今回は、それぞれ異なるフィールドでスポーツ施設に関わるお二人に、山下PMC川原秀仁がお話を伺いました。お一人は、ZOZOマリンスタジアムを本拠地とし、様々なファンサービスによって観客動員数を増やしたことで知られる、千葉ロッテマリーンズの原田卓也氏。もう一人は、元アスリートで、現在は未活用不動産を利用したスポーツ合宿事業を手掛けるR.project代表の丹埜倫氏。3人の対談を通してスポーツビジネスの展望を考察します。
第2回は、丹埜氏が手掛ける未活用不動産を利用したスポーツ合宿ビジネスについて伺います。

R.projectが手掛ける未活用不動産を使用したスポーツ合宿事業とは?

丹埜 現在、我々が手掛けている事業は2つあり、1つは、地方のスポーツ施設も含めた未活用不動産を利用して、スポーツ合宿を中心に受け入れる宿泊施設の運営です。約10年前、会社設立の翌年にスタートし、現在、合計7市町村で展開しています。最初につくったのが千葉県南部、内房の鋸南町でした。それを含む5件が千葉県で、去年初めて山梨県で事業を始めました。

川原 スポーツ合宿と言えば、夏の高原リゾート地が思い浮かびますが、「千葉県」というところに何かポイントがありますか?

丹埜 もともとは個人的な縁で、幼少期、オーストラリア人の父が九十九里浜を気に入り、東京で生活しながら、毎週末は千葉で過ごしていました。山を開拓して、畑をつくって。その頃から自然が好きで、スポーツが好きでした。高校の部活では陸上をやっていたのですが、高校中退後、トライアスロンをやってみたいと思って入った大学でスカッシュに目覚めて、卒業後は、昼間、証券会社で働きながら、夜はトレーニングという生活を数年間続けました。日本代表としてアジア選手権や世界選手権に出たりもしたのですが、20代後半になると序々に選手としてのピークが見えてきて、新しいことにチャレンジしようと証券会社を離れました。その時、スポーツにはこれからも関わっていきたい、特にスカッシュの普及活動をやってみたいと思っていたのと、東京近郊にあまり使われなくなった公的施設が多くあって、もったいないと感じていて、この2つを上手くつなげられるのではないかと考えて「R.project」という会社を立ち上げました。

最初は八ヶ岳や伊豆などでも物件を探しましたが、やはり千葉の房総は東京湾アクアラインのおかげで都心からの利便性が抜群にいい。移動で一日が潰れることもないので、週末でも十分に合宿ができるのです。

川原 通年で集客できるわけですね。

丹埜 合宿は競技力の強化だけが目的ではなくて、数日間でもチームの雰囲気が変わったりするので、大事な試合の前に入れたりもします。その場合、あまり移動に時間をかけたくない。合宿を受け入れる側としても、夏の一局集中より、小規模でも通年の方が雇用を生みやすく、経済効果が期待できます。

[図2] R.projectが手がけたプロジェクト「サンセットプリーズ保田」

R.projectが手がけたプロジェクト「サンセットプリーズ保田」

R.projectが2007年にオープンした最初のプロジェクト「サンセットブリーズ保田」。
東京・千代田区が所有していた臨海学校施設を譲り受け、フットサル&スカッシュ
コート付きの合宿施設に。2012年にはコテージ棟の「サンセットビレッジ」を増設。
[提供:R.project]

そんな時、小学校で鋸南町にある臨海学校に行ったことを思い出して訪ねてみたら、閉鎖されていたんですね。千代田区の施設なのですが、海に面した敷地で、宿泊所も残っていて、スカッシュコートが建てられるようなスペースもある。そこを千代田区から購入することから始めて、宿をリノベーション、スカッシュコートは新築して、2007年にサンセットブリーズ保田としてオープンしました[図2]。当初はスカッシュ事業がメインだったのですが、フットサルコートをつくれるスペースもあったので、サッカー合宿もできるようにして。あとは地域の公民館や野球場、体育館も活用しながら、序々に宿泊客数を増やしていきました。

川原 合宿ニーズが高まっているということですか?

丹埜 近場にあるから合宿の回数を増やしたというチームもありましたが、1つ言えることは、毎年各地域から数軒ずつ合宿所がなくなっていて、需要と供給のバランスが崩れていることです。既存の合宿所は民宿やペンションが多く、バブル景気の時に、当時30代くらいの方が脱サラしてテニスやスキー向けに始めたものです。そういった合宿の受け入れ先のオーナーの方が、今、60、70代を迎え、後継者不足という問題が出てきています。また千代田区のように、自治体が財政難や少子化などを理由に林間・臨海学校施設を閉鎖する傾向があり、合宿が組めないというようなチームも出てきています。我々は大型の合宿所を増やしているので、そこに一定の貢献ができているのかなと思います。合宿所に人が集まることで、過疎地域の活性化にもつながっているのかなと。もちろんプロスポーツのキャンプ地とは比較にならないと思いますが。

原田 プロ野球には相当な施設・設備が必要なので、そう簡単には手を出しにくいと思います(笑)。少なくとも球場がサブとメインで2つ。屋内練習場とブルペンも必要で、日本では基本的に自治体がそれら全てを用意します。そのかわりにパブリシティ効果が得られるという仕組みです。キャンプはマスメディアでも取り上げられますし、現在、当球団のキャンプ地は石垣島ですが、台湾からのインバウンドを狙っています。去年は台湾のプロ野球チームと交流試合を開催してホテルが満杯になったそうで、今年も開催しました。

地方にインバウンドを波及させる仕掛け

丹埜 我々のもう1つの事業がまさにインバウンド向けで、2015年から始めた「バジェットトラベル事業」です。

川原 予算を切り詰めた旅行、という意味合いですね。

丹埜 そうです。要はバックパッカーを対象とした、一般的にホステルと呼ばれる比較的簡易な宿泊所の運営で、都内に3件あります。一見、合宿事業と関係ないように見えるかも知れませんが、地方で宿泊施設を運営していると実感するのは、日本全体ではここ5年くらいで急増していると言われるインバウンドが、ほとんどの地方には波及していないことです。南房総ではほとんど見かけません。でも、たまにインターナショナル・スクールとか、海外の大学の利用があるのですが、鋸南町の自然や食べ物、お寺など、日本人以上に喜んで楽しんでいるんですよ。施設では自転車も貸し出しているのですが、遠くまで行って、なかなか帰ってこないくらい。季節外れでも海に入ったりします。

原田 千葉の自然の豊かさは、日本人にもなかなか知られていませんよね。もちろん、この幕張周辺は南房総ほどではありませんが、ご覧の通り、日本の球場で、周囲にこれだけ土地があって、海がこんなに近いところは、他にはありません。今後は、球場周辺をもっと有効利用してサイクリングやジョギング、潮干狩り、キャンプをパッケージングして、それに野球をプラスして楽しんで貰えるような、千葉ならではのボールパーク化の方向性を今、検討しているところです。

丹埜 それはいいですね。他にも、知名度はないけど外国人が来うる場所というのが、日本にはたくさんあると思います。ポイントはどうやったら実際に来てもらえるかで、そこで我々は都内でインバウンド向け施設を運営して、「鋸南町という素晴らしいところがあるんだけれども、来てみない?」とダイレクトに誘うわけです。まだオープンして間もないので、施設を稼働させることに注力しているのですが、自由気ままに旅行をしている方の利用が多いので、ゆくゆくは地方に行くという足掛かりをつくっていきたいと思っています。

座談会に登場する各施設マップ

座談会に登場する各施設マップ

R.projectが東京都内で手掛けるバジェットトラベル事業

(1) IRORI Nihonbashi Hostel and Kitchen(中央区)
2015年にオープンしたバジェットトラベラー向け宿泊施設第1弾。

(2) Train Hostel 北斗星(中央区)
運行廃止となって姿を消した寝台列車「北斗星」をイメージした、JR馬喰町駅直結のホステル。設計&デザインは、公共施設のリノベーションに定評のあるOpenAで、2段ベッドや個室寝台など、一部の実車パーツを内装に再利用。2016年オープン。

(3) Shibamata FU-TEN Bed and Local(葛飾区)
葛飾区の旧柴又職員寮をリノベーションし、全客室個室型の宿泊施設に。2017年3月オープン。


R.projectが千葉県内で手掛ける合宿事業

(4) 昭和の森フォレストビレッジ(千葉市緑区)
千葉市のキャンプ場&ユースホステルを借り受け、2014年より運営開始。

(5) アルビンスポーツパーク(長柄町)
もとは都内私立学校の所有で、その後は企業が運営していたスポーツ施設付きの保養所。企業から借り受け、2014年よりスポーツ施設併設の大型合宿施設(収容人数290名)として運営。

(6) サンセットブリーズ保田( 鋸南町)
東京・千代田区が所有していた臨海学校施設を譲り受け、フットサル&スカッシュコート付きの合宿施設に。2012年にはコテージ棟の「サンセットビレッジ」を増設。

(7) アカデミーハウス館山(館山市)
もとは東京農工大学の合宿施設。R.projectが賃料を払う形で運営を行い、学生を優先的に受け入れながら、一般客の集客も行う新しいモデルで2014年より運営。

(8) 白浜フローラルホール(南房総市)
海辺に立つ市営の音楽ホールと福祉施設をリノベーションし、ダンス合宿・音楽合宿向けのホール&宿泊施設として運用。2016年オープン。

上記の他、山梨県にて本栖湖スポーツセンター、清風荘山中湖も運営。

進行、文:フリックスタジオ
写真:増田智泰

座談会シリーズ『スポーツ産業の構造変革と新しいライフスタイルの出現』

*この座談会は、2017年5月22日発刊の広報誌UNSUNG HEROES09に収録されたものです。

原田卓也

千葉ロッテマリーンズ 事業本部 企画部 部長/パシフィックリーグマーケティング 取締役
原田卓也(はらだ・たくや)

1990年慶應義塾大学法学部卒業後、15年間IT関連企業に勤務。主にセールス&マーケティングやプロダクトマネジメントを担当。2005年3月千葉ロッテマリーンズ入社。主にメディア/ IT 事業、CRM(Customer Relationship Management)、事業企画等を担当し、現在企画部部長としてマーケティング・メディア事業・商品事業・ファンクラブ事業・IT /CRM等を所管。2007年のパ・リーグ6球団共同出資によるPLM(パシフィックリーグマーケティング社)設立にも参画。IT、コンテンツセールス、CRM等のプロジェクトを担当し、現在PLM取締役も兼務。2010年~ 12年まで江戸川大学客員教授(スポーツマーケティング論)。

丹埜 倫

R.project 代表取締役
丹埜 倫(たんの・ろん)

2001年慶應義塾大学法学部卒業後、ドイツ証券東京支店、リーマンブラザーズ証券東京支店に勤務。日本株トレーダーとして勤務する傍ら、スカッシュの日本代表として世界選手権に出場。2006年に金融業界を離れ、R.projectを設立。現在は千葉県、山梨県、東京都で10事業を展開中。地元地域と深く関わりながら、都会や海外からの人の流れを創出し地方地域の活性化を目指している。現職の他、ロハスインターナショナル取締役、鋸南町観光協会理事、館山青年会議所会員、城西国際大学観光学部講師を務める。

川原秀仁

山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長
川原秀仁(かわはら・ひでひと)

1983年日本大学理工学部卒業後、農用地開発/整備公団、農水省、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年に山下ピー・エム・コンサルタンツに転籍。山下PMCの創業メンバーとして参画し、国内CM技術の礎を築く。CCMJ、認定FMr、一級建築士。主な受賞に2012年国際CMコンクール準グランプリ(武田薬品工業湘南研究所プロジェクト)他。近著に『施設参謀――建設リスクを経営資源に変えるコンサルティング』(ダイヤモンド社)。