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地方を牽引する新たなプレーヤーとは|向井永浩氏×西澤明洋氏×川原秀仁座談会(3)

地方を牽引する新たなプレーヤーとは|向井永浩氏×西澤明洋氏×川原秀仁座談会(3)

地方創生を経営的視点から見直す座談会の第3弾。今回は、企業と地方の新しい関係を探ります。高知を拠点にAI対話エンジンを開発するNextremer向井永浩氏、地方企業のブランディングを多数手掛けるエイトブランディングデザイン西澤明洋氏、企業や自治体の保有施設をマネジメントする山下PMC川原秀仁が考える、地方創生の先鋒となる新しいプレーヤーとは?

高知で進む、人工知能の産官学連携

向井さんは、会社のウェブサイトでも地方創生を謳っています。人工知能の会社で、東京にも拠点はあるのに、高知のことも前面に出しているのはなぜですか?

向井 理由はいくつかありますが、一つは地の利を得られることです。さきほども言ったように第三次産業の発達が遅れていて、一方で高齢者が多い。人工知能の「教育」や、近い将来のパラダイムシフトをしやすい条件が揃っています。そんな高知が地域を創生していく力になりたいという思いがあります。

もう一つ挙げるとすれば、スタッフの地域愛でしょうか。高知にはUターン、Iターン双方のスタッフがいますが、みんな高知のために頑張ろうという気概を持って働いています。

川原 勤王の志士のような感覚ですね。

向井 その気持ちは圧倒的に強いんです。

しかもチーム力も強い。ちょっとずるいかもしれませんが、高知のようなスケールの都市だと、拠点を設けてから半年くらいで会社の名前が地元に浸透するのです。すると、今までならば東京に出ていたような地元の優秀な高校生などが集まってきます。実際、当社でも地元採用を始めているし、なかにはITの高いスキルを持つ「神童」のようなスタッフもいます。

東京で優秀な人材を採用しようとしたら、何百社、何千社で競わなければならないでしょう。でも、高知だと競争なしで3人も採れたりします。彼らからすれば、愛着のある地元で、新しい産業に職を得られるのだから、モチベーションは上がりますよね。地元のためにも、人工知能のためにも頑張ろうという気持ちになるから、地元の活力と人工知能の発展とが活動の両輪になっています。そういうチームの力って圧倒的に強いなと、最近つくづく感じます。

Nextremer の現場:
対話ロボット「AI-Samurai」

2015年、同社が開発した「AISamurai」は、画像と音声をリアルタイムに認識して人間と対話するロボット。また、処理は速いが忘却も速い「短期記憶」と、処理は遅いが忘却も遅い「長期記憶」の二つの記憶回路を持ち、対話を効率的に進める。英語での簡単な対話、個人の顔認識、腕や首による応答が可能。この刀を持たない侍が、2016年3月以降、世界各地を“行脚”する予定。(写真提供:Nextremer)

川原 やはり仕事がないといけませんよね。

それと、産官学の連携も、地域が力を発揮するためには必要だと私は思っています。向井さんの場合、その辺りの連携はどうですか?

向井 産学との連携はけっこう進んでいます。

さきほども話した神童のような天才プログラマーは、地元の高校からのインターンです。大学で博士課程の学生もいます。教育機関との連携は大事で、私たちも非常に助かっています。

一方、官との連携は今、頑張っているところです。私たちは、人工知能を県名に引っ掛けて「人高知能」と言ったりして、わりと派手に活動しているので、すでに行政にも名前は知られています。我々がきっかけとなり、高知がAI県(人工知能特区)を目指せたらいいと思います。

そのほかに、地元のデザイナーなどとの連携も深まっています。たとえば、高知の偉人ジョン万次郎に対話AI を組み込んで、公共施設に設置してもらうという企画を練っていて、キャラデザインなど地域のデザイナーとの協働も始まっています。

西澤 「人高知能」というネーミングは素晴らしいですね。さきほども言ったようにブランディングは伝言ゲームのようなものだから、ネーミングは重視します。誰もが覚えやすい、印象に残るというのは大切なことです。

川原 それと、私が地方の仕事でいつも思うのは、やはり自治体の首長によるところが大きいという点です。マーケティング感覚やブランディング感覚の備わった人が積極的に動いて、各方面の人たちをつなげていく必要があると思います。

西澤 市町村では最近、若い首長が増えていて、常に広くアンテナを張っていますよね。彼らはブランディングの議論ができるので、そういう首長がいる自治体から講演に呼ばれたり、コンタクトがあったりします。

地方創生の先鋒となる新しいプレーヤーとは誰?

先日、川原さんは『施設参謀』という書籍を上梓されました。簡単にご紹介ください。

川原 この本は、事業のために施設、つまり建物を必要とする人に向けて書いたものです。施設というのは社会のインフラですが、施設を設計したり施工したりする本はたくさんあっても、それを活用したい人に向けた本はありませんでした。

書籍「施設参謀」

今、多くの事業者は、建物が企業運営の根幹を成すことに気付いています。けれども、これまで多くの事業者と向き合うなかで痛感したのは、既存の建設産業のサービス体系が「事業」と分離していて、事業主の思いが建物に直結しにくくなっているということでした。

当社は、事業と直接、結び付いた建物をつくるためのPM(プロジェクト・マネジメント)を手掛けていますが、それはあらゆる面で従来の建設産業がやってきた仕事とは異なります。個々の事業運営に即した形で、建物を設計・施工する仕事をカスタマイズしています。そして、これから始まる連携や統合の時代に向けて、さらに変わっていこうと提言しています。建物を経営資源として活かしたい、という事業者の方々からのニーズに応える形で、サービスを洗練させてきたのです。私たちのような職能があることを多くの事業者にぜひ知っていただきたく、今回『施設参謀』を出版しました。

私は若い頃から病気のように音楽が好きで、ディスコのDJをしていたこともあります。その音楽を見ると、1980年代まではロックとかジャズとかブラックといったジャンルに特化したミュージックシーンに分立していました。ところが90年代に入ると、いろんなジャンルが融合した音楽が出始めます。その音楽を操るDJも出てきました。

同じように、産業界も業種を超えて連携したり、統合したりするボーダーレスの時代を迎えていて、そのために乗り越えるべき課題を解決するプレーヤーが必要です。向井さんや西澤さんも、その一人だと思います。そうやって、いろんな人たち、いろんな事業者がネットワーキングを繰り返すことで、明日の統合を生んでいくのではないかと感じています。

西澤 それは大事なことだと思います。私たちのブランディングも、プロジェクトに適した専門家を迎えて進めることが多いんです。たとえば、工場のような施設をつくるときは、投資や借入れが大きいから、施設運営や最小限のリスクの取り方も事業プランに織り込んでブランディングしていく必要があり、専門家の協力は欠かせません。各分野の専門家が連携したチームで事業を動かすという潮流は起こり始めていて、間違いなく今後の主流になるでしょう。

私たちを含め、それら専門職は旧来から存在しますが、地域やプロジェクトによっては、新参者とも言えましょう。そんな新しいプレーヤーが、その地のリソースを掘り起こす、地方創生の先鋒として必要な気がします。

向井 多様性ということも、地方創生には必要かもしれません。というのは、米スタンフォード大学で発表された有名な学説に、こんなものがあります。多様性が低いほどイノベーションは起こりにくいが、リスクも低い。逆に、多様性が高いほどリスクも大きくなるけれどイノベーションが起こる可能性も高くなるというのです。

当社の高知のチームは、UターンもIターンもいて、高校生もいる。実際に、そういう多様な人間が集まる空間ができてみると、それは地方にイノベーションを起こすうえでも意義があるのではないかと感じています。

高知とNextremer 海外法人(インド)間でテレビ会議を行ったり、春には外国人インターン生を受け入れることも決定しました。国籍やバックグラウンド、価値観など弊社の多様化はどんどん進んでいます。本当の意味で多様性のある人材とは、このような環境の変化に対応できる人のことを言うのかもしれません。社会がめまぐるしく変化する今こそ必要とされる力ではないでしょうか。

川原 様々な人や企業の連携、統合が進むと、いろんな隙間も出てくるはずです。すると、今度はその隙間に移動して、新しい交流が生まれることで、地方創生にもつながる次世代のビジネスも見えてくるでしょう。

座談会を終えて

おそらくこれからの地方創生の流れのなかで、既存の価値や状況を再評価、再構成することが一つの重要な鍵となっていきそうです。リソースを発見する、あるいはそれを俯瞰し再統合する。今、そのようなプレーヤーが希求されていますが、既存の枠組みのなかには見当たりません。そこに地方創生の課題があるのでしょう。しかし今回参加いただいた二つの企業は、まさにそのようなプレーヤーと言えるのではないでしょうか。そこには、これまでになかった企業と地方の新しい関係が見えています。

進行:高木伸哉(flick studio)
文:松浦隆幸
写真:増田智泰

座談会シリーズ『経営的視点で見直す地方創生』

*この座談会は、2016年3月1日発刊の広報誌UNSUNG HEROES08に収録されたものです。

向井永浩

Nextremer 代表取締役 CEO
向井永浩(むかい・ひさひろ)

1977年岐阜県中津川市生まれ。金沢大学卒業。2012年10月に株式会社Nextremerを設立。Nextremerは対話テクノロジーを軸に、幅広いアプローチで人工知能における研究開発を行うスタートアップ。対話エンジンの開発や対話サービスの提供、そして市場に新たな価値を提案するオープンイノベーション事業の推進を行う。AIと人の新しいコミュニケーションチャネルの創出を目指し、実用化を進めている。2015年4月に高知AIラボ設立、2016年8月には100%子会社として人工知能技術開発の為の学習データを提供する株式会社ataremerを立ち上げ、AIを高知の新産業とする人”高知”能計画を推進中。

西澤明洋

エイトブランディングデザイン 代表
西澤明洋(にしざわ・あきひろ)

1976年滋賀県生まれ。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手掛ける。主な仕事に川越のクラフトビール「COEDO」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、iPhoneアルバムスキャナ「Omoidori」、ドラッグストア「サツドラ」、料理道具店「釜浅商店」など。グッドデザイン賞、PENTAWARDSをはじめ、国内外の受賞多数。著書に『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)など。

川原秀仁

山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役
川原秀仁(かわはら・ひでひと)

1960年佐賀県生まれ。1983年日本大学理工学部建築学科卒業。農用地開発/整備公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年に山下ピー・エム・コンサルタンツに転籍。山下PMCの創業メンバーとして参画し、国内CM技術の礎を築く。主な受賞に2012年国際CMコンクール準グランプリ(武田薬品工業湘南研究所プロジェクト)ほか。2015年10月、著書『施設参謀――建設リスクを経営資源に変えるコンサルティング』をダイヤモンド社より発行。