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地域産業を盛り上げるにはコレが必要|向井永浩氏×西澤明洋氏×川原秀仁座談会(2)

地域産業を盛り上げるにはコレが必要|向井永浩氏×西澤明洋氏×川原秀仁座談会(2)

地方創生に直面する現場を持つ、3人の経営者による座談会。第2弾の今回は、それぞれの事業を通じて見えてきた、地方が抱える課題に迫ります。東京・高知・インドの拠点でAI対話エンジン開発を行うNextremer向井永浩氏、地方企業のブランディング実績を多数もつエイトブランディングデザイン西澤明洋氏、企業や自治体の保有施設をマネジメントする山下PMC川原秀仁が、地方創生を経営的視点から見直します。

地方の一企業が成功するだけでは生き残れない

特定の商品にとどまらず、地方には魅力的な人材や企業も「点」で存在しているかもしれません。それらをつないでいけば、地域全体の力を盛り上げる力になりそうですが、川原さんはどう考えていますか。

川原 当社は、あらゆる業態の建物や事業に関するマネジメントを手掛けていますが、そのなかで、特に地方の仕事を通じて感じてきたのは、一施設あるいは一事業者の成功だけでは、これからの時代は厳しいだろうということです。本格化する少子高齢化の時代に生き残っていくには、もっと複数が連携して、地域内で相乗効果を発揮していくべきではないかと。

近年では当社の携わるプロジェクトにも、そのことを意識した事例がいくつか実現していて、新しい地域連携のあり方の芽生えを予感しています。たとえば、地方の中核都市で手掛けた放送局の建替えです。老朽化した施設の建替えにあたり、クライアントと意見を交わすなかで、単なる建替えではなく、地域全体を潤すような潜在力を持った施設に生まれ変わるべきだろうという話になりました。

そこで、街中にあった現地での建替えではなく、移転を提案しました。移転先は、最寄りの鉄道駅に接した鉄道会社の遊休地です。地域交通の拠点で多くの人が行き交う鉄道駅とつながった施設にすれば、地方全体の活性化を導くポテンシャルになると思ったからです。

その実現に向けて、私たちはクライアントと鉄道事業者との橋渡し役を務め、様々な事務手続きから、実際の施設づくりまでのマネジメントを手掛けました。次世代のデジタルインフラと、鉄道という地域のインフラ、二つの産業を組み合わせたわけです。この事業は、単なる施設の連携ではなく、地域の事業者をつなげたという意味でも価値があったと捉えています。以前は、それぞれが「点」だった施設や事業者を、ソフトとハードの両面で連携させることで、地域を潤す力に相乗効果を引き出せると思います。

そのほかにも、地域産業の生き残りに向けた資金調達のハブを目指す地方の金融機関の建替え関連事業や、東日本大震災で被災した町での官民一体の復興事業など、地域内連携の事業が、今も進行中です。

私たちが活動する建築分野は、とかく建物というハードの仕事と見られがちです。もちろん、かつては建物をつくるだけでよかった時代でした。しかし、すでに企業経営や事業運営というソフトと一体的に建物も考えていく時代に入っており、当社も初めからその点を標榜して取り組んできました。最近、力を入れ始めた地方都市にあっては、地域の産官、あるいは学も連携して、様々な取り組みを集約・統合して、将来に備えていくべきではないかと考えています。

山下PMCの現場:地方銀行本店の建替えプロジェクト

地方都市の中心市街地にある銀行本店の建替えにあたり、山下PMCが基本計画段階からCMとして参画。建替え後の施設を、地域のポテンシャルを掘り起こす交流の場として計画。そこから芽生える新しい事業や活動などを、金融機関として資金面で支援しながら広く発信することで、地域内の資金の流れを活性化させる。

「うどん県」は なぜ注目された?

地域の「点」が連携して、みんなで盛り上げていこうとするとき、そのための場づくりが必要になります。たとえば、まちづくりではエリアマネジャーのような場づくりをデザインできるプレーヤーが、各地で活躍し始めています。そうした場づくりについては、どう考えますか?

西澤 みんなが集まりやすい場は必要ですよね。まずハードとしての場があり、運営しやすいソフトがあること。そのうえで必要なのが、地域の人たちのモチベーションを上げる仕掛けづくりではないかと思います。たとえば、地域の高齢者が日常的にふらっと立ち寄れるような動機付けがあるとか。

新しい場をつくれば、若い人は集まるし、使いこなすでしょう。でも、どうしたら高齢者もその場に加わってくれるか。その辺りはどうですかね。

川原 確かにエリアマネジャーのような人が、もっと各地で活躍できるようになったらいいですよね。

西澤 先日、コミュニティデザイナーの山崎亮さん(Studio-L代表)に会う機会がありました。彼は、伊東豊雄さんが設計している信濃松本新聞社の松本本社(長野県松本市)で、設計段階からワークショップを開き、オープンしたときにはどんどん市民に使ってもらえるような仕掛けづくりをしています。そうした「モチベーション・デザイン」のようなものがあってもいいのかもしれませんね。

私は頻繁に地方に出張しますが、先日、高知市の「ひろめ市場」というところに行く機会がありました。飲食店に囲まれた真ん中にテーブルを並べただけの空間なのですが、地元の人ですごくにぎわっていました。それも、勉強している高校生がいるかと思えば、お年寄りが楽しそうに飲んでいたりする。古くからある施設ではないはずなのに、すっかり地域に浸透している雰囲気でした。聞くところによると、ひろめ市場のにぎわいぶりを見て、近県の自治体が同じような施設をつくったけれど、うまくいかなかったそうです。

向井 高知県は、コンビニエンスストアのお酒コーナーが日本一広いらしいですからね。いずれにしても、地方創生を進めるには、そういう地域の特性を踏まえることが大切でしょう。

私たちが取り組む人工知能の研究開発は高知にフィットしたし、新しい産業を見つけてブランディング化し、コンパクトシティのようなものをつくっていくという方向性もあり得ますよね。

西澤 何を目的に地方創生するのかも大切だと思います。多くの人に訪ねて来て欲しいのか、移り住んで欲しいのか。あるいは、若手の流出を抑えたいのか。

たとえば、外から人を呼び込みたいのならば、そういうモチベーションをつくらなければいけない。「ここはいいよ」とか「来たらわかる」と言葉でいくら繰り返してもダメで、来たことのない人にはリアルに伝わりません。そのためにも目的をはっきりさせて、それに即した地域の魅力を拾い上げ、コミュニケーションの力でデザインしていく。そろそろ地方の行政は、そういうデザインをしたほうがいいと思っています。

川原 西澤さんの仕事にも同様の事例がありますか?

西澤 実際には、まだ行政との仕事はほとんどありません。というのも、行政は平等主義が基本ですが、ブランディングには差異化が必要だからです。その辺りの理解がまだ十分とは言えない状況です。

ブランディングというのは伝言ゲームのようなものです。伝言ゲームをするときって、端的に伝わる簡単な言葉を選びますよね。たくさんの言葉を平等に並べても伝わらない。ブランディングもそれと同じです。

座談会はエイトブランディングデザインのオフィスで収録。西澤さんがこれまでに手掛けた数々の商品を前にして、会話がはずむ。 座談会はエイトブランディングデザインのオフィスで収録。
西澤さんがこれまでに手掛けた数々の商品を前にして、会話がはずむ。

たとえば、香川県は「うどん県」というコピーを打ち出して全国的に注目されましたよね。うどん以外にも魅力はあるのに、あえて誰もが知っていて親しみやすい「うどん」に絞った。まずは、うどんで多くの人たちを香川県に呼び込み、実際に来てもらうことで、うどん以外の魅力も発見してもらうという図式です。

地方創生では行政も大きな役割を担うはずですから、どこかに集中的に力を注いで、そこから一気に広げていくという発想も欲しいですよね。

進行:高木伸哉(flick studio)
文:松浦隆幸
写真:増田智泰

座談会シリーズ『経営的視点で見直す地方創生』

*この座談会は、2016年3月1日発刊の広報誌UNSUNG HEROES08に収録されたものです。

向井永浩

Nextremer 代表取締役 CEO
向井永浩(むかい・ひさひろ)

1977年岐阜県中津川市生まれ。金沢大学卒業。2012年10月に株式会社Nextremerを設立。Nextremerは対話テクノロジーを軸に、幅広いアプローチで人工知能における研究開発を行うスタートアップ。対話エンジンの開発や対話サービスの提供、そして市場に新たな価値を提案するオープンイノベーション事業の推進を行う。AIと人の新しいコミュニケーションチャネルの創出を目指し、実用化を進めている。2015年4月に高知AIラボ設立、2016年8月には100%子会社として人工知能技術開発の為の学習データを提供する株式会社ataremerを立ち上げ、AIを高知の新産業とする人”高知”能計画を推進中。

西澤明洋

エイトブランディングデザイン 代表
西澤明洋(にしざわ・あきひろ)

1976年滋賀県生まれ。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手掛ける。主な仕事に川越のクラフトビール「COEDO」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、iPhoneアルバムスキャナ「Omoidori」、ドラッグストア「サツドラ」、料理道具店「釜浅商店」など。グッドデザイン賞、PENTAWARDSをはじめ、国内外の受賞多数。著書に『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)など。

川原秀仁

山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役
川原秀仁(かわはら・ひでひと)

1960年佐賀県生まれ。1983年日本大学理工学部建築学科卒業。農用地開発/整備公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年に山下ピー・エム・コンサルタンツに転籍。山下PMCの創業メンバーとして参画し、国内CM技術の礎を築く。主な受賞に2012年国際CMコンクール準グランプリ(武田薬品工業湘南研究所プロジェクト)ほか。2015年10月、著書『施設参謀――建設リスクを経営資源に変えるコンサルティング』をダイヤモンド社より発行。