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経営者×施設参謀トーク「発注者の“悩み”に耳を貸せる建築不動産業界たれ」

経営者×施設参謀トーク「発注者の“悩み”に耳を貸せる建築不動産業界たれ」

2016年6月3日、「施設建設をめぐる新たな取り組み」をテーマに、山下ピー・エム・コンサルタンツと、創造系不動産の二つの会社によるトークイベントが開催されました。それぞれの事例から見えてきたのは、事業者の施設に対するマインドの変化です。事業者の施設への思いを業界としてどのように受けとめていくべきか、トークセッションが展開されました。

登壇者(敬称略)

  • 高橋寿太郎 
    (創造系不動産株式会社 代表取締役)
  • 朝霧重治  
    (株式会社 協同商事 代表取締役社長)
  • 篭橋雄二  
    (現・一般社団法人SSCIネット事務局長 東京工業大学特任教授)
  • 川原秀仁  
    (株式会社 山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長)
  • 木下雅幸  
    (株式会社 山下ピー・エム・コンサルタンツ 取締役常務執行役員)

「内」から「外」か、「外」から「内」か?

二つのプロジェクトの話を聞いて、お互いに感想や質問などありますか。

川原 朝霧さんは、企業の研修施設だった建物をCOEDOビールの新工場としてリノベーションされたそうですが、全体の事業運営の中で、製造ラインなども含めたこの施設の建設に、どのくらいの比重をおいていらっしゃいますか?

COEDOビール新工場は、大手企業の研修施設だった既存の建物を購入し、煉瓦の雰囲気を活かしてビール工場へとリノベーションしたもの。

COEDOビール新工場は、大手企業の研修施設だった既存の建物を購入し、
煉瓦の雰囲気を活かしてビール工場へとリノベーションしたもの。

朝霧 COEDOビール新工場の建設は、100年先を見据えたプロジェクトであり、着手した3年前から今まで、時間も力も相当に注いできました。比重としては半分を超えていると思います。ラインに関しては、ビールの製造技術自体が当社ですでに確立されているので、頭を悩ます要素は少なかったと思います。

通常の工場新設であれば、設備に合わせて建物を建てます。今回は私の強い思いから、それが逆になり、既存の建物を使うことを最初に決めてから、そこにビール工場として必要な設備を入れていくことになりました。そのため、多くの方にご苦労をかけてしまいました。

木下 僕は建築設計をしていたことがあるのですが、その頃はハードが重要とされ、まず「外側」を考え、それから「内」のソフトを考えていました。けれども施設参謀として活動していくと、「内」から「外」を考えていかざるを得ないのです。

COEDOビールさんのプロジェクトでは、既存の施設である「外」があり、そこから入っています。「内」から入るのを常道とするわれわれが、もしこのプロジェクトを担当していたら、はたしてどのようなことを考えたのだろうと、非常に興味深かったですね。

朝霧 私は学生の頃、海外をよくバックパックで旅行していました。ヨーロッパでは既存の建物を形は残し、用途変更して長く使う習慣があり、いいことだと思っていました。そういう過去もあり、埼玉県東松山のあの煉瓦造りの建物を最初に見たとき、とても気に入ったのです。

一般に食品工場は建物の外装にまでお金をかけられません。けれどもビールというのは極めて情緒的な製品ですから、こういう雰囲気ある建物を工場にすれば、たとえば見学に訪れる方にもアピールできる、と考えました。

篭橋 発注者として、こういう施設が欲しいと伝えたいのに、思いが大きすぎて言葉にならない――そんな経験をされたことはありますか。

朝霧 ありますね。高橋さんに編成してもらったプロジェクト・メンバーそれぞれに共感していただくには、私が率先して方向性を伝え、各人のベクトルを合わせていかないといけない。しかし、感覚が近い人なら、言語化されない抽象的な部分まで共有できることはあると思いますが、すべての人に同レベルで理解して頂くのは難しいと感じています。

高橋 篭橋さんのお話で興味深かったのは、製薬工場建設のため、ワークショップをやり、せっかくまとまりかけたものを「社員が悩んだ跡がない」からと、発注者サイドでありながら自らダメ出ししたくだりです。そのときのことを、詳しくお伺いしたいのですが。

篭橋 救われない人たちが救われる世界を、私たちはつくっていかなければならない。それをやるのは施設ではなく人なのです。施設建設を契機に、私が本当につくりたかったのは、そういう思いを持って本気でやる集団です。それなのにそこを飛ばして、「外側」の形だけが出来てしまったから、それは違うと。人を育てていくのはプロセスだと私は思っています。

高橋 残念ながら現在の建築業界は、たとえば組織や人材をつくるという目的に対し、本気で設計者がコミットして施設をつくる――その方法論をまだ確立できていません。だからお話を聞いてすごいと思いました。

木下 お客様のことを考え抜いているからこそ、高橋さんの話に出た「同時並行方式」のように、借り物でない独自の方法論に辿り着くものなのだな、と思いました。実は我々にも、当初意図したものではないものの、結果的に同じ方法で進めたプロジェクトがあるのです。同じゴールに向けて、同じように悪戦苦闘している“変わった人”がいると知って、今日はとても楽しかったです。

設計者である事を一度忘れ、クライアントの立場に身を置くこと


会場で質問のある方はどうぞ。

会場 事業者側のビジネスを能動的に読み込み、提案するという意識が、今の建築業界にはまだ乏しいと感じています。設計者がクライアントのビジネスに提言できるようになれば、設計者もまた「施設参謀」的な役割をこなせます。どうすればそうした能力が育まれるのでしょうか?

川原 いったん設計者という立場を忘れることです。設計者の意識があるからクライアントに「条件をください」と、つい言ってしまうのです(笑)。うちの社員は設計出身者や施工出身者がほとんどですが、「全くのゼロから顧客の立場で考え直さないと通用しない」と常々言っています。

高橋 確かに、違った立場に立つことで、見えなかったものが見えてきます。私も設計者から不動産業界に転職してみて、両者の間に壁を発見し、創造系不動産という会社を興すきっかけをつかみました。転職はおすすめです(笑)。

会場 篭橋さん、朝霧さんに質問です。CM(コンストラクション・マネジメント)会社や、不動産コンサルタント会社に依頼しようと判断されたのは、何か参考にされた事例などがあったのでしょうか?

篭橋 実は私は、昔からレストランをつくるなど、さまざまな建設プロジェクトに関わってきました。20数年前にCM会社の評判を聞いてその存在を知り、以来、必要なときには相談するようにしていました。依頼すれば効果はあります。実際に建設コストは下がりました。しかし当時から5年、10年経って、こちらのニーズも変わってきます。普通のCMではない、もっと踏み込んだ支援が欲しくなり、今日の話につながるわけです。

朝霧 一生の間に家を何軒も建てる人は少ないでしょう。企業も同じです。しかも建設プロジェクトに精通した人材はなかなか社内にいません。高橋さんに出会うことができ、おかげでスムーズに事を運ぶことができました。

建築不動産業界に起こっている変化の兆しを感じてほしい

最後に登壇者の方に、今日、お話を聞かれての感想をお願いします。

篭橋 発注者は悩んでいます。しかも一緒に悩んでくれるパートナーがいないのです。建築不動産業界の皆さんにとっては、今日は顧客を獲得するための大きなヒントになったのではないでしょうか。

朝霧 その業界の「こうあるべき」「こういうもの」という常識から外れていくと、考え方も自由になり、気も楽になるのではないか、というのが今日の感想です。それよりも「こうしたい」を優先されてはいかがでしょう。私からのおすすめです。

川原 冒頭で、山下PMCは「施設のiPhone化」を目指すといいました。iPhoneはスマートなデザインですが、人々はそのデザインだけで購入しているわけではありません。iPhoneの機能が欲しいのです。施設もそういう風にしていきたい。形だけに執着するのではなく、内のシステムのよさそのものが伝わる施設をつくっていきたいのです。

木下 「設計者や施工者がもっとお客様に近づくこと」の大切さを感じました。お客様ニーズと、建築業界のズレが生じているこの状況は、両者がもっと接近する事で改善できるはずです。そのとき、われわれ山下PMCは、ようやく“変わった人”からただの“普通の人”になるのです。そういう時代をぜひ、先頭を切ってつくっていきたいと思っています。

高橋 川原さんから『施設参謀』という本を書いたと聞いて、これは勉強しなければと、読みました。日本を代表するCM会社の社長が本を書くことなど、これまでなかったからです。読んでみると、僕のフォーマットと似ている……と感じました。

フォーマットは、システムを走らせるときの基盤です。川原さんと僕がやろうとしていることには、そもそもフォーマットがありませんでした。だから自分たちでつくっていくしかない。

川原さんがさまざまな課題に直面し、考え、つくったフォーマットは山ほどあるはずです。私たちも、不動産仲介業と設計事務所の会社にはこれまでなかったフォーマットを、長年バージョンアップしてきました。川原さんのこの本を読むと、その二人のフォーマットが、どこか似通っているように感じられたのです。

私と川原さんの会社は業界が違います。規模も違います。でも、目指している方向は近い。どちらもまだ地図がないところに進んでいこうとしています。たぶん、そこから日本の建設・不動産業に大変革が起こっていくのだと思っています。その変化の兆しを、今日、ここで感じ、考えて頂けたらと思います。

今日は、経営者と“施設参謀”の双方から、貴重なお話を伺うことができました。どうもありがとうございました。

文:三上美絵
写真:鈴木愛子

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