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創造系不動産 高橋寿太郎+COEDOビール朝霧重治「川越発のビールを世界へ発信する拠点に」

創造系不動産 高橋寿太郎+COEDOビール朝霧重治「川越発のビールを世界へ発信する拠点に」

2016年6月3日、「施設建設をめぐる新たな取り組み」をテーマに、山下ピー・エム・コンサルタンツと、創造系不動産の二つの会社によるトークイベントが開催されました。今回は、COEDOビールの新工場リノベーション・プロジェクトについて、これに参画した創造系不動産社長・高橋寿太郎氏と、事業主である協同商事社長・朝霧重治氏のお話をお届けします。

ビール文化の素晴らしさを伝えたい

高橋 この新工場建設プロジェクトでお会いする以前から、朝霧さんのお名前は存じ上げていました。大手5社が市場シェアの大半を占めるビール業界の中で、味にこだわったクラフトビールという分野を確立したパイオニアが朝霧さんです。そのビールは世界の品評会で数多くの賞を獲得しています。

また朝霧さんは名経営者としても知られ、ニューズウィーク日本版「世界が注目する100人の経営者」にも選ばれています。どんどん活躍され、COEDOビールの売上も伸ばされました。いよいよ生産が追いつかなくなったため、埼玉県東松山市にある4階建ての某社の研修施設だった建物を改修し、クラフトビール工場につくり変えることになったのです。

コエドビール

朝霧 実はビールの市場規模は、1999年をピークに今では20%以上縮小しています。なぜでしょう。生活が豊かになり、モノがあふれ、選択肢がどんどん増えていく中で、ビールの相対的地位が低下したのだと私は思っています。「とりあえずビール」という指名の仕方には、「どれも大差ない」という皆さんの期待の薄さがあらわれています。

私たちのような小さな会社がビールをつくることは、1994年まで法律で禁止されていました。バブルが崩壊し、地域経済を盛り上げるために「地ビール」が誕生し、一時的に話題になりましたが、定着はしませんでした。ビール職人も不在のまま、ブームに乗って、いわば「観光土産」の位置づけでビール造りをしていたからです。その結果、中小のビールメーカーは、2003年に最低の販売量を記録します。

朝霧重治氏

けれどもそれを境に、売上げは年々伸びていくようになります。それは、小さなメーカーが「食品」として美味しいビール造りを目指し、こつこつ真面目に努力しはじめたからです。

私たちの会社は、かつて「小江戸」と呼ばれた川越の地で、1996年からビールづくりを始め、今年で10年になります。「ビア ビューティフル」という、文化としてビールの素晴らしさを知ってもらうイベントを各地で積極的に展開しています。

その成果もあり、クラフトビールの個性を楽しむ方が日本でも増えてきました。食品というのは本来、手づくりの世界です。ビールも工業製品のように一気に大量生産されるものではなく、食文化の楽しさを伝えるべく、小さな会社がこつこつ生産するのが本来の姿です。たくさんの方に、その原点に気づいて欲しいと思っています。


私は「グローカル」という言葉が好きです。地域の価値観や生活様式が世界で、点と点でつながり、お互いに尊重し理解しあうという意味です。日本の、川越発のビールの味を、新工場稼働を機に、世界にもっともっと発信していきたいと考えています。

旧施設をリノベーションし巨大ビールタンクを搬入

高橋 私たち創造系不動産もまた、小さな不動産コンサルタント会社です。私が朝霧さんから仰せつかったのは、COEDOビールの新工場をつくるために優秀な建築士を集めてチーム編成すること、そして設計の進め方を決めることでした。

高橋寿太郎氏

設計の進め方で、一般的によく採用されているのが「コンぺプロポーザル」方式です。複数の設計事務所に依頼して案を出してもらい、審査選定するというもの。しかし発注側にしてみると、これは相当難しい方法です。なぜなら多くの場合、建て主は建築計画については経験が少ない素人だからです。集まったたくさんの案の中から自社の考えにマッチしたものを選ぶというのは、大変な経営判断を要します。


同時並行設計方式のイメージ

複数の建築士が分野ごとに同時並行で課題を検討し、その都度、発注者の経営判断を仰ぐ。最終的に一つの案に合成する。

複数の建築士が分野ごとに同時並行で課題を検討し、その都度、
発注者の経営判断を仰ぐ。最終的に一つの案に合成する。

私は必死に考えた末、「同時並行設計」という、これまで1度もやったことがない方法を採ることを決断しました。建築士を何人も集め、各人が新築案やリノベ案、構造や設備などの分野ごとに同時並行で課題を考え、途中で朝霧さんにその都度、経営判断を下してもらう。そうして一つの案に合成していく形です。

想像されるように、苦労の多い方法で、検討を始めてから設計の最終案に至るまで、約2年かかりました。途中で不安に襲われたこともありました。けれども「これしかない」という確信が私にはありました。

高橋 設計チームの編成は、まずリノベーションを得意とする構造設計のプロを最初に選定しました。また、もとの研修施設だった建物を熟知した方に設備設計チームに入ってもらいました。そのほか建築の法規に精通した方にも加わっていただき、その全体を朝霧さんが統括する形を採りました。


大手企業の研修施設だった建物を購入し、
煉瓦の雰囲気を活かして、ビール工場へと
リノベーションした。
(写真提供:創造系不動産)

万が一、計画が頓挫した場合に備え、改修と新築を混合させたプランなど複数の案も考えてもらいました。しかし最終的には、一番難しいリノベーションに挑戦することに決まりました。COEDOビールの10年先、20年先の成長規模を考えると、持てる資産を有効活用して、将来への投資にも備えておく必要があったからです。

巨大なビールタンクを学校校舎のような建物に設置する――それには、普通に考えれば構造補強が必要になるため、大手ゼネコンの試算でも多額の費用がかかるということでした。

しかし、このプロジェクトでは構造設計担当の先生の指示で、構造的に力が余っている床や壁を抜いていき、既存工場にあるタンクの2倍にあたる1万2000リットルもの巨大ビールタンクの搬入に成功しました。建築士の皆さんが設計段階でしっかり計算してくれていたので、大丈夫と確信していたものの、実際に設置を終えたときは感無量でした。

その後も工事は順調に進んでおり、待望のCOEDOビール新工場はあと3カ月ほどで完成します。

文:三上美絵
写真:鈴木愛子

トークイベント「施設参謀」シリーズ

朝霧重治

株式会社協同商事 代表取締役社長
朝霧重治

1973年埼玉出身。Beer Beautifulをコンセプトとする日本のクラフトビール「COEDO」のファウンダー・CEO。地元川越のサツマイモから製造した「紅赤(Beniaka)」をはじめ、日本の職人達によるものづくりやビール本来の豊かな味わいの魅力を「COEDO」を通じて、発信している。モンドセレクションはじめ数々の世界的な賞を受賞し、海外からの評価も高い。ビールは現在、アメリカや中国、シンガポールなどに輸出され、積極的に海外展開をしている。

高橋寿太郎

創造系不動産 株式会社 代表取締役
高橋寿太郎

1975年、大阪生まれ。京都工芸線維大学大学院 岸和郎研究室修了後、古市徹雄都市建築研究所勤務を経て、東京の不動産会社に転職。2011年、創造系不動産を設立、「建築と不動産のあいだを追究する」を経営理念とし、建築家やデザイナーと協働してプロジェクトに取り組むことで顧客の利益を創造する。著書に『建築と不動産のあいだ そこにある価値を見つける不動産思考術』(学芸出版社)がある。