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山下PMC 木下雅幸+元製薬会社役員 篭橋雄二「イノベーションを生む施設のつくり方」

山下PMC 木下雅幸+元製薬会社役員 篭橋雄二「イノベーションを生む施設のつくり方」

「施設建設をめぐる新たな取り組み」をテーマとして開催された、山下ピー・エム・コンサルタンツと創造系不動産によるトークイベント。当日の模様をご紹介する記事の第2回は、山下PMCが「施設参謀」を標榜する契機となったプロジェクト事例について、同社・木下雅幸氏と、当時クライアントだった篭橋雄二氏との対談をお届けします。

山下PMCは、風変わりな集団?

木下 「あなたたちは、変わった人たちですね」という言葉で、篭橋さんとわれわれの出会いが始まりました。

当時、篭橋さんはある製薬企業の工場建て替えプロジェクトを担当されており、山下PMCに相談にみえたのです。私と社長の川原は、そう言われて、いたく感激しました。篭橋さんのプロジェクトを、何が何でも成功させたいという強い思いを持ちました。

篭橋 私は今年3月まで、中規模の製薬企業の専務をしており、その施設展開を担当していました。自社のこれからの市場戦略や研究開発の方向性に責任をもって考え、決断する立場にあったのです。

工場はすでに築30数年経っていたため、新工場をどのようなものにするか、社内でいろいろ検討しましたが、出てきた案に私はどうしても違和感が残りました。一流の製薬企業の設備を手掛けたコンサルタント会社にも相談しました。種々の制約条件の中で、第一級のスペックのものを提案してもらったと思いますが、それでも私は「本質的に違う」と感じたのです。

篭橋雄二

相談に乗ってくれるところをいろいろあたった末に、山下PMCに出会いました。川原社長や木下さんと話をしていて、すごく嬉しかったのを覚えています。雑談の中で、30年後にどんな世界をつくるか、という熱い話も飛び出しました。こんな人たちにパートナーになってもらいたい、という思いから出たのが、「あなたたちは変わった人たちですね」という言葉だったのです。

30年先に、どのような優れた製品を生み出せば自社が存続できるかを模索していた私は、その悩みを共有できる誰かが欲しかったのだと思います。世の中を、会社を前進させるエンジンが欲しい。しかし、そのエンジンを生み出すために「こういう施設が欲しい」と、明確にスペックアウトできなかった。それを正確に翻訳してくれる人たちに出会ったのです。

ネットワークの真ん中に“患者さん”がいる施設を目指す

会社の将来を真剣に考えてもらおうと、経営層から若手までを対象に、毎週開催されたワークショップの様子。会社の将来を真剣に考えてもらおうと、経営層から若手までを対象に、
毎週開催されたワークショップの様子。

木下 篭橋さんが抱えていた悩みは、今の日本の共通した課題だと思います。人口は減り、全体のパイが減る中で、新しいイノベーティブなモノづくりに取り組まなければ生き残れない。そのための事業戦略と施設戦略とを結びつけるプロジェクトでした。1年間、一緒になって考えさせてもらい、ワークショップを毎週開催して、経営層の方から若手までいろいろな立場の人の話に耳を傾けました。

篭橋 自社の若手には、ディスカッションの前に「自分たちの将来がかかっている。未来は自分でつくれ、思いをぶつけろ!」と話して送り出していました。

木下雅幸

木下 ワークショップを積み重ねて、その成果を篭橋さんに見せたところ、「これでは駄目だ」と言われ、再度やり直しをすることになりました。ショックでした。が、篭橋さんから「社員がまだ自分のこととして悩んでいないから」と理由を聞いて、ハッとしました。

篭橋 私はこのプロジェクトを前にして、徹底的に悩みました。若手にも、自分たちのプロジェクトだということを本気で感じて欲しかった。だから議論が拡散してもいいから「悩め」と言い続けました。ところが、いつの間にか議論を集約することが目的化してしまっていた。だから少しメンバーを変えて、会社の将来をもう一度深く考えてもらいました。

木下 篭橋さんは、医療現場や学会などとのネットワーク機能を施設に持たせたい、と考えておられました。紆余曲折の末、単に工場をつくるのではなく、施設に研究・開発・生産機能を持たせ、さらに農林水産省や経産省、文科省、学会などいろいろな外部とつながっている「ネットワーキングのためのハブ拠点」というコンセプトを打ち出しました。

重要なのは、その中心にあるのがお客様だということです。ふだんの業務で、エンドユーザーとの接点が薄い人も、この施設内においてやっているすべてがお客様に向けた活動であることを意識できる施設を目指したのです。

ネットワーキングの相関図

単なる工場ではなく、研究・開発・生産機能を持ち、外部とつながっている「ネットワーキングのためのハブ拠点」をイメージした。
そして、それぞれのネットワークの中心に「顧客」を据え、すべての活動が顧客のためであることを意識できる施設とした。

篭橋 ネットワークの真ん中にお客様がいるという、このイメージがすべてのキーです。実は、私たちのお客様というのは、アレルギーの患者さんと、医療従事者です。アレルギーは今のところ症状を抑える薬はあっても、根本的な治療法はありません。保険点数も低く、市場もない。しかし、アレルギーで苦しんでいる人々は世界にたくさんいます。患者さんの会に参加して、その苦しみを知り、涙が出ました。

この人たちが暮らしていける社会にしなければいけない――というのは、皆が共通して思うことでしょう。だから患者さんは、この図の真ん中にいるのです。製薬会社である私たちはこの患者さんに向けた市場をつくっていかなければならない。それができれば、われわれも生き残ることができます。まさにそのイノベーションを生み出すためのネットワークハブ施設をつくりたかったのです。

木下 皆さんが施設をつくろうと考えたときに、どんな建物にするかその条件を考える前に、会社や組織を変えたい、もっとブランド力を強化したい、シェアを上げたい、というさまざまな「本当の目的」があるはずです。このプロジェクトを経験させてもらい、私たちはその「変わりたい」と切望する経営者、そして従業員の方に寄り添い、変革のための解決策をともに考えていく「参謀」役こそが、自分たちの使命であると考えるようになりました。

これからも“変わり者”として、さまざまなプロジェクトで、課題解決のためのお手伝いをしていきたいと思っています。

文:三上美絵
写真:鈴木愛子

トークイベント「施設参謀」シリーズ

篭橋雄二

一般社団法人SSCIネット事務局長 東京工業大学特任教授
篭橋雄二

1954年岐阜出身。1980年東京工業大学大学院機械工学専攻修了し、日本専売公社(現JT)入社。たばこ製造関係業務に従事した後、同社の新規事業開発に一貫して携わる。ファーストフード事業を歴任した後、人事部にて採用・研修を担当。1999年より医薬事業部で研究開発から生産までを担当。2006年より製薬会社にて主に研究開発を担当。2016年3月に同社専務取締役を退任。現在に至る。

木下雅幸郎

株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ 取締役常務執行役員
木下雅幸

1968年茨城出身。1994年神戸大学大学院工学研究科建築学専攻修了。山下設計に入社し、超高層オフィスビルなどの大型プロジェクトに従事。大手生命保険会社不動産投資グループのアセットマネジャーを経て、2010年より山下PMCに入社。事業推進本部長の立場で、事業会社の参謀としてビジネスモデル創出型のサービスを展開。主な受賞に、日本コンストラクションマネジメント協会CM選奨。
トップコンサルタントのノウハウをまとめた「3分間マネジメント」を連載中。