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2020年、日本の宝の山はココにある | 藤村龍至氏、田中元子氏、川原秀仁座談会

2020年、日本の宝の山はココにある

藤村 龍至 (ふじむら・りゅうじ)

1976年生まれ。建築家、ソーシャル・アーキテクト。東洋大学専任講師。住宅や集合住宅、教育施設の設計と共に、公共政策や国土計画の構想に精力的に取り組む気鋭の建築家。大規模な国土開発の歴史を批判的に捉えながら、JRの区分けに基づく経済圏やインフラ輸出を提案し、注目を集める。さらに東京郊外を舞台に、老朽化した公共施設の再編成に行政や住民とともに取り組み、ソーシャルデザインに役立てるプロジェクトを推進している。共著に『現在知vol.1郊外その危機と再生』(2013/NHKブックス)などがある。

田中 元子

田中 元子 (たなか・もとこ)

1975年生まれ。ライター・クリエイティブファシリテーター。1999年、青山アパートの再生プロジェクト『DO+ project』を設立。ロンドン生活を経て、帰国後の2004年に大西正紀と共にクリエイティ ブユニット“mosaki”を設立。建築を中心とした各種プロジェクトの企画・制作を行う。2010年よりチーム「けんちく体操」のメンバーに加わり、ワークショップを全国、世界へと展開。2014年日本建築学会教育賞(教育貢献)受賞。主な連載に 『妻・娘から見た建築家の実験住宅』(2009-2011/ミセス・文化出版局)ほか。

川原秀仁

山下PMC 代表取締役社長
川原 秀仁(かわはら・ひでひと)

1960年生まれ。山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長。1983年日本大学理工学部建築学科卒業。農用地開発/ 整備公団、農水省、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年に山下ピー・エム・コンサルタンツに転籍。山下PMCの創業メンバーとして参画し、国内CM技術の礎を築く。

川原 今回のテーマは「日本の魅力」、そしてそれを「伝える」ことだということで、まず私から口火を切らせて頂きます。

私個人の考えになりますが、世界から見ても日本は魅力たっぷりの国です。一流の製造業があり、一流のコンテンツ産業があり、その一方で環境問題対策でも群を抜いている。現政権が掲げる政策「国土強靭化」でも、世界トップクラスです。単に強い建物、都市を作るというだけではなく、災害が起きたとしてもものすごいスピードで回復してしまう。

健康・長寿の分野も一流です。日本はこの分野では世界のトップランナーですよ。日本は少子・高齢化時代を迎えつつあるのですが、短期成長を果たした国はどこでも同じ運命にあって、その中で日本は一番最初に少子・高齢化時代を迎えるわけです。世界でもいち早くノウハウを蓄積できる「課題先進国」とも言えます。

いま日本では社会問題についてネガティブな声も多いのだけれども、オプティミカル(楽観主義的)に見ていくと、この国は宝の山だなと、改めて思うんです。これらをいかに融合・統合させられるか、一大内需を興して、さらには世界へ外販できるかが問われている。

「2020年」を見据え、社会・経済も変化

川原 特に2020年の東京五輪開催を境にして、開催までの約6年間と、開催後で、2つのステージが生まれると見ています。

いま、五輪開催にあたってのインフラ整備に始まって、スポーツ施設、競技場もどんどん作っていかなければいけないという状況があります。それは一つの産業として大事なんだけれども、その前に、そこに向けての日本のあり方をもっと魅力的にしよう、整備しようというマインドもある。そこから新たな社会・経済のあり方が生まれてくるように感じるんです。

私はオリンピックより、パラリンピックが同時にやってくることに注目したい。日本の都市において、健常者にもハンディキャッパーにも平等に使いやすい、ユニバーサルデザインをいかに根付かせるか。健康・長寿国家、高品質国家として世界を生き抜くため、日本をどんなふうに向けていくかが問われています。オリンピック・パラリンピック施設は、それを具現化したものとして生まれていくべきだと思うんです。

増える訪日外国客、米仏並みの水準も

藤村 2020年が転機になるというのは本当にそうだと思います。日本の魅力を海外に売り込むということでいえば、例えばインバウンド方向としては、観光産業ですね。観光目的の訪日外国客が2013年に1000万人を超えたのですけれども、フランスと比較すると、フランスは8000万人を超えているんですね。

川原 8300万人ですよ。

藤村 それを考えると日本はまだまだ発展途上で、開拓の余地があると思うんです。

内需に関して言えば、インフラの再編成ということがこれから必要になってくることですので、それに向けてどういう準備をしていくのか。それが本格的に始まるのが2020年以降じゃないかと私は言っているんですけれども。

川原 インバウンド、つまり訪日外国客数について、日本政府は2020年目標を2000万人、2030年目標を3000万人としています。ところが先ほどの話しの通り、フランスにはすでに8300万人来ているわけです。ちなみにアメリカへは6500万人。それと比べると、目標が遠慮し過ぎですよ。2020年目標を5000万人と、目標を今より2.5倍くらい上げてしまっていいんじゃないかと私は思ってるんです。

田中 日本の魅力は、外国の一部の方には感じてもらえる状況になっていると思います。しかし、フランスやアメリカに比べると、出来上がったイメージがまだ少ないと思うんですね。京都、ニンジャ、ゲイシャ、富士山みたいなところから、その先は急に「オタク」に飛んで行く。極端なんですね。その中間にある、日本独特の町並みですとか、自然の豊かさですとか様々な表情については、一部を除くと共通言語のように語られていないのが現状ではないかと。 そういうところを押し出せる素材って、実はたくさんあるんじゃないかな、と個人的には感じますね。

ドイツのバウハウス大学に招待されまして、「けんちく体操」のワークショップをやったことがあります。ほとんどがドイツ人の参加者だったのですが、その中にスウェーデンの方が混じっていて、自分の国に持って帰ってやりたいということで、スウェーデンでやってくれたりもしました。ドイツの方もスウェーデンの方も、地元の建物に対してはすごく詳しいんです。彼らが彼らの地元の建物を「けんちく体操」で表現すると、「ここはこうなってる」「中はこんな感じ」と、すごく積極的に、大人たちが建物を慈しむように「けんちく体操」のポーズを考えてくれるんですね。ここでは、外国に発信する、海外の方に自分たちの魅力を感じ取ってもらう際には、まず自分たちが自分たちの国の魅力をよくわかっているということが大事だということを痛感しました。

そう考えると、例えば、日本の建物についても、日本人もよく知らないということが多いのが現状です。だからまずは日本人自らが改めて日本の魅力に気づき、再発見するということも大事なんだなと思っています。

アジアのお客さんが「渋谷」に集まる理由

藤村 田中さんは先ほど、日本のイメージがフジヤマ・ゲイシャ的なものに集約されていると言われたけれども、入り口というのはわかりやすい記号で良いんじゃないですか。

我々も例えば初めて沖縄に行くなら、最初は首里城とか美ら海水族館とかから始めて、だんだん慣れてくると奥の方に入っていきますね。同じことで、2回め、3回めともなると、どんどん奥へ来てくれると思うんです。

いまは訪日外国人の人たちの一番の目的地は東京ですよね。人気のある街に渋谷があるのですが、アジアの人々にとって渋谷には未だにファッションのイメージがあって、80年代に生成されたブランドのイメージがいま消費されている。

今や渋谷には「渋谷ヒカリエ」が出来て、地下鉄に直結された容積率1200%もの超高層ができてしまうと、もはや利用者はわざわざ駅を出て、例えば丘の上のPARCOの方まで上がらないだろう。そんな声もあったんです。ところが案外そうでもない。PARCOの1階は今、タイとかアジア諸国からものすごい人数のバイヤーの人たちが買い付けに来ているんです。例えばBAOBAOってブランドがあるんですが、いまタイで爆発的な人気があって。エスカレーター脇の小さなスペースで驚異的な売上を叩き出したりしている。

一概に駅ビルだけが一人勝ちかというと、そんなことないんですね。インバウンドは不思議な、点的な展開をしますね。

川原 そうしたインバウンドに釣られて、国内、内需が再編成されるという面もあるでしょうね。ハブ空港の整備など、この流れをさらに加速させるインフラ整備も、国として重要度を増していますね。

「東京」の価値はどう高めるか

田中 お2人にお話しを伺いたいところなんですが、東京って意外と広くて、ロンドンやパリに比べて見どころが散らばっていますよね。ロンドンなら地下鉄の「ゾーン1」内をぐるっと巡ればかなり満足できるんですが、東京って渋谷があって、新宿があって、浅草があって、地理的に散っていますよね。そのなかで、人口がどんどん少なくなっていったり、オリンピックが来たりして、都市を再編成する段階に入りました。これからの東京はどんな風に形が変わっていくといいと思いますか。

藤村 オリンピックの開催計画を見ると、晴海を中心として半径8kmの円に収まっていて、この円の内側にインフラの投資が集中していくのかな、と思わされますね。渋谷、新宿はこの円の外側で、だんだんショッピングの街になるんだろうなという感じがしています。海外から来た人たちがそちらへ行く。新しい海の手と山の手の関係ができて、山の手のほうは観光やショッピング、それをターゲットにしてやってきた人たちが奥の方へ入っていくという流れができるのかなと。

川原 いまみたいに分散された状態でいいんじゃないですか?

私は個々の魅力の集合体が東京だというのを逆に売り込めばいいと思っていて、言うならば「伝統と最新が共存するカオスの世界」。建築家から見ると良し悪しがあるのでしょうが、最新の超高層の裏に古びた神社があって、何百年も残っているだとか。いかにも日本らしい。

ただし食と宿泊、おもてなし自体は、日本クオリティでしっかりやる。そうすれば世界でも類を見ない魅力ある都市になれますよ。

藤村 東京に直下型巨大地震が一発来たら、日本はアウト、とも言われていますよね。その辺りはどうお考えになりますか。ニューヨークでもいま、湾岸の高潮対策というものが叫ばれるようになっているのに、日本の湾岸では、高潮にはあまり対策されていません。

川原 東京一極集中では、例えば企業のBCP(事業継続計画)が成り立たないという意見ですね。ただ余程の施策転換が起きない限り、東京はそう簡単に国内都市ダントツ一位の座を明け渡さないですよ。

藤村 大災害に遭ってからじゃないと動かないのかもしれないと危惧するところもあります。

川原 東京都のGDPは、日本の1/3を占めている実態があります。最初にお話した「強靭化」は、これを大前提に複合的に考えていかなければ。個人的には、札幌、仙台、名古屋、京阪神、福岡といった都市は、来るべき道州制における中心都市です。これらの都市が東京に負けない競争力を有するべきだと思っていますが、まだ現実感はないのが実情ですよね。

合意形成の場を設計する「鶴ヶ島プロジェクト」

藤村 都市間競争ということで少し自治体の話をしたいのですが。そもそも各自治体は、どれだけの数の施設を持つべきなのか。全体のアセットマネジメントという考え方がいままでなかったのですが、最近になって全部の資産を持ち続けることはできないということがわかってきて、どう統廃合していくかという話を始めています。なにしろ公共施設の老朽化という、すでに直面している課題があるんです。

私としてはこれに研究として取り組みながら、もう少し効率のよいノウハウを確立できないかと。住民の人にそのルールをどう伝えるかというところで、それが単なるサービスダウンではなくて、住民の自分たちの街を作り変えることによって新しいコミュニケーションを生むんだ、あるいは新しい自治の場を作っていくんだ、そういうきっかけになる場所とする機会にしようということをもう片方で言っています。

少子・高齢化が進む中、「日本を縮小する」ということにどう向き合っていくか。2020年までの6年間というのは、その準備期間として非常に重要かなとも思えます。

田中 その代表例が鶴ヶ島プロジェクトですね。

鶴ヶ島プロジェクト2012

「鶴ヶ島プロジェクト」とは、東洋大学で教鞭を執る藤村氏が中心となり、東洋大学理工学部建築学科の設計演習の一環として、埼玉県鶴ヶ島市の小学校と公民館などをモデルに市民意見を反映させながら地域の将来像を市民が検討したもの。人口の急増に伴い同時期に建設された公共施設の建物は、改修や建て替えの時期が、これから集中すると見込まれている。特に学校施設や公民館などは、老朽化だけでなく高齢化などの社会状況の変化により様々な課題を抱える。また、改修や建て替えには膨大な費用がかかる。この問題に東洋大学は授業として取り組み、2012年5月より5回にわたり市民と一緒に考えるワークショップ形式の公開講評会「パブリックミーティング」を実施。市の財政状況調査や地域の方々の意見などを反映させながら設計案を進化させ、将来像をまとめた。現在もそこから派生的に生まれた複数のプロジェクトが進行中だ。


1 パブリックミーティング。学生の提示する9案に対し投票を行う公開ミーティング。住民とともに合計5回開催し、案を発展・淘汰させた。



2 鶴ヶ島市役所1階ロビーにて行われた展覧会。「公共建築から鶴ヶ島の将来像を考える」と題し、その最終日に藤縄善朗市長、根本祐二氏、工藤和美氏を招いて開催されたシンポジウム(2012年9月14日)。学生や市民のみならず多くの市役所職員や市議会議員にも成果を発信した。



3 展覧会の最終日には、鶴ヶ島市役所1階ロビーでシンポジウムが行われた。

写真提供:東洋大学建築学部

藤村 少しお話させていただくと、発注者である市役所と、住民、そして大学生たちが一緒になって施設のあり方を考えるワークショップを行っています。例えばひとつの施設の建て替え計画についてなら、3000万円ならこれくらい、5000万円ならこれくらい、1億円ならこれくらいと、大まかな予算別にメニューを用意して、選んでもらう。私は「民主主義の練習」と言っているんですけれど、これまでの日本の公共施設というのは、住民が望んだから与えるという一方通行のものでした。

ところが施設は使わないで放っておいても維持管理費がかかるんですね。実は住民負担が継続的に発生するわけです。必要性が低い建物なら、なくしてしまった方がいい。

川原 藤村さんとまったく同じことを、我々は民間企業とやっているんです。企業が有する全体の施設を俯瞰して、固定資産を減らしてROA(総資産利益率)を高めていこうと。企業戦略としては当然ですから。統廃合を有効な形で実施していく、サービスレベルを落とさずに、技術レベルをさらに上げて、ブランディングレベルも高める。 我々もPRE(公的不動産)戦略のコンサルティングを受けているところがありますので、将来的には藤村さんが行っておられるような方向に持っていかなくてはいけないのかもしれません。

藤村 EU統合後のヨーロッパ、アメリカでもそうなのですが、都市間競争は住民格差を拡大する一方、首長のクリエイティビティ次第で都市をダイナミックに変革しますね。

川原 気の利いた首長が、有力な民間企業とタイアップし、どういう地域を今後育成していけるのかが、本当にカギになっていると思います。

まず最初にやってくるのは耐震改修促進法。不特定多数の利用者が訪れる用途の旧耐震の建物では、耐震診断が義務化されました。例えば旧来からの大型旅館・ホテルといった施設は、勝ち組と負け組にはっきり二分されると思うんです。その際、勝ち組が地域をどう育むか……。その地域、自治体も都市間競争に晒されている。

健康・長寿という、国家のテーマもある。これまで医療法人や社会福祉法人にしかできなかったことが、異なる業種の会社がパートナーを組むことで、少し幅を広げた自由度のある施設体系が出来上がっていくんじゃないかということをすごく感じています。

例えば中心市街地に個性ある市庁舎を建設した長岡市など、首長の力量で盛り上がる例もある。

藤村 首長の個性が際立った例ですね。

2つのメガプロジェクトは、何に成功したのか

川原 少し戻って、我々の本業である建設業の将来について話しましょうか。我々は2013年まで、2つの大きなプロジェクトを手がけました。1つは武田薬品工業の研究開発施設。31万㎡、予算約1500億円というメガプロジェクトです。何しろ巨大な施設ですから、日本の建築生産技術における粋を集めなければなりませんでした。

もともと日本の建設業は、職人とかすべての人材が、お客さんのためにいいもの作ってやろうと思っています。「できるだけやりたくない」という感覚は基本的にないんです。そういったやる気のベクトルをより一つに向けることをまず考えました。

様々な契約・立場の人たちが、同じ方向に向いたことで、チームワークの醸成へとつながっていきました。日本の建設業の良さを仕組みに昇華させたことで、国際CMコンテストでは、ジャパンオリジナルだと、非常に評価されました。

最近ではアメリカでもヨーロッパでも、設計・施工一括発注方式、我々がデザインビルド方式と呼ぶ契約形態が隆盛となっていまして、これは日本の良いシステムを何とか実現できないのか、ということが始まりなんです。欧米が何でも良いと思われがちですが、あちらは契約社会ですから、契約の不備が時には顧客と協力会社との対立関係をもたらすこともある。日本より厳格な契約書を作っているにもかかわらず、なかなかプロジェクトが進まないという側面もあるそうです。それが、他国の事例を参考にと世界を見渡した時、日本だけは違うぞと再評価されている。

一方、日本という国はあうんの呼吸とよく言いますが、不文律で動く社会です。これを見える化し、制度設計すれば、世界で戦えるノウハウになる。これが武田薬品工業プロジェクトの成功の真価だと思うのです。

もう1つはとある製造業の企業様とのプロジェクトです。その分野では世界に冠たる日本メーカーとして、世界中に進出し、各地で様々な製品を作って売っている。ただ「知恵は日本に残したい」という強い要望がありました。そしてマーケティング機能も残したいと。


武田薬品工業 湘南研究所

武田薬品工業 湘南研究所


こちらの企業では、日本にたくさんあった工場を統廃合しつつあり、すでに海外に多数の拠点を抱えるなかで、日本拠点との関係性を見直す時期にきていたのです。そこで日本と海外拠点との関係を考えるにあたり、海外のホテル運営会社の運営委託方式(マネジメントコントラクト/MC方式)を参考にしました。例えば世界的なホテル運営会社、ヒルトン・ワールドワイドやマリオット・インターナショナルなどは、施設を保有しない「持たない経営」を行っています。MC方式で日本に進出する場合、建物は日本の事業者が保有し、ホテル側は運営ノウハウ持つ支配人を送ります。さらに送客プログラムで集客をバックアップしています。

この仕組みをモデルにして、工場の所有権は海外の有力企業に持ってもらって、製造ノウハウ、人材育成だけは日本でやる、製造業版MC方式のようなことができないかと考えました。知恵の施設を日本に、製造施設は海外に、加えて教育施設で現地の作業員にノウハウをきちんと伝授することで、世界戦略のハブとなる施設を実現しました。

これはこのプロジェクトに限らず、世界で戦う多くの企業の経営者の方が考えており、地殻変動が起こっているのではないかと感じています。

藤村 製造業と建設業を比較した場合に、建設業の海外移転というのはせいぜい10%くらいですよね。製造業の方が圧倒的に海外移転が進んでいて。川原さんは、建設業の海外進出についてはどう思われますか。

川原 単体の建物で言えば、日本ほどすごい建築はないと、世界中が評価しています。それだけの生産システムがあるわけです。ただし、世界へ外販していくには、ただいま申しあげた日本の建設業の良さそのものを持っていく仕組みが必要ですね。

藤村 日本の成長戦略としても唱えられている、例えば新幹線などのインフラ輸出においても、日本とは異なる生産システムがネックとなって進展していない印象があるんですけれど。

川原 建設セクターにも、海外と日本を互いに補完するような、国際的な教育システムが必要かもしれません。日本に有力者を呼んできて、高い教育をして、また世界に放つと。

藤村 日本にもっと教育現場が必要だということですね。いま日本では現場が少ないので、職人もそうですしゼネコンの若い現場スタッフもそうですが、現場経験がある年代の方々に比べると圧倒的に少なくて、教育の機会が少ないという面があるんです。そういう意味では、現政権の「三本の矢」にも含まれる国土強靭化なんですけれども、この計画で出てくる工事を”教育現場”として、ここでノウハウを身につけた人が海外に行くという、相補的な関係も構築できるのではと思っているのですが。

世界も評価した日本の建設生産体制の強み



川原 その通りで、2020年以降に世界へ打って出る仕組みづくりはとても重要です。

設計作業を進めながら、資材の調達計画まで含んだ生産計画を立てる、同時並行的にムダなくプロジェクトが動き、建物が完成していく….。2020年の東京五輪はそんな日本の建築生産システムの良さを、うまく世界にアピールするチャンスなんです。

設計と施工を分離発注する、または設計・施工を一括発注するというだけではなくて、バリエーションを持った契約手法を使って、そういったものが育まれるようにならないかなと思っています。

藤村 具体的にはどのような契約形態があり得るのでしょうか?

川原 例えば一括発注(デザインビルド)だと、一般的には設計段階から施工者が主体だというイメージですが、そこに組織設計事務所、アトリエ事務所とコンソーシアムを組む道筋をつける方法がありますね。

藤村 日本は大工の伝統もあるのか、建築というと施工者のイニシアティブが強いように思いますね。コンソーシアム型の組織にすることで、もっと融和していくということですか。

川原 端的な例が建物のデザイン後に行う、工事段階に向けた二次設計、つまり実施設計ですよ。設計事務所が描く実施設計は、工事発注における根拠資料のための設計で、なかなか実現しないのが現実ですよね。施工発注前の時点で、バリュー・エンジニアリング(VE)を受けてほとんどの描き込みが駆逐されていきます。私たちは本当に実現する実施設計、手戻りなく、ムダが発生しない、そういう状況を生み出したいんですよ。

これを実際にやっているのが製造業。自動車産業が特にそうですね。トヨタ自動車の「カイゼン」が代表例ですけれど、設計過程から製造現場まで総出で、ムリ・ムダ・ムラをどんどんなくしていく。

自動車も広大な裾野を持った産業なんですけれど、合理性があってムダが少ない。日本の建設業というのは、設計者にせよ施工者にせよ、結構ムダがあるんです。

藤村 手戻りが多い。

川原 そう。手戻りをなくすだけで誰も損しない建築生産はできると思うんですよ。

自動車産業でも、ピニンファリーナ、ジョルジェット・ジウジアーロといった工業デザイナーが大手自動車メーカーと組んで、個性的で、かつ大量生産可能なスポーツカーを次々に生み出した時期がありますね。そういうやり方もあるわけです。

一方、取り分け尖っていたり、考えさせられたりする建物、そうした「一品物」の建築が文化施設として必要なのも当然です。これは区別されるべきですよ。

藤村 創造性を求めるところは集中したほうが良い、基本的にはさらにシステム化を進めるべきだと……。

川原 システム化というのではなくて。デザイン、より良いプランニングというものは求めるんですよ。ただ現状では、「一品物」ほどの高度なデザイン性が求められていない建物も、右往左往しながら出来上がっているんです。完成するまでに、発注者が「もう勘弁してくれ」と音を上げたりしている。そろそろ、日本の高品質製造業を牽引してきたシステム、例えば自動車産業に習うべきじゃないかなと。

藤村 確かに私自身、設計事務所を主宰していますが、実施設計というのは一体何なんだろうと思うことが確かにあります。

川原 単に設計者、藤村さんが下手くそだと言いたいわけじゃないんですよ。それを言うなら、日本全国、実施設計図書を描く設計者は誰もが下手くそなんです。

なぜゼネコンのVEが優先されるかと言えば、彼らは一元的に責任を取るからですよ。設計を間違えたからといって追加の建設費を要求することはできないからです。

田中 トライ・アンド・エラーが内部で吸収できる仕組みができているということですね。それならば、アーキテクトはもっと基本設計に向き合って行けば良いと。

川原 私は設計者の業務報酬基準を定めた、建築士法告示15号から何から、制度を変えてしまうべきだと思うんです。組織設計事務所が基本設計や設計監修だけで食べられるという状況を、きちんと生み出さないと。

藤村 実態とはかなり乖離していますね。

川原 業務報酬基準に定められた報酬を得るため、いったん設計事務所が実施設計図書まで作成し、それを施工者が丸ごと描き直す……。いい加減やめにしたいですね。こんなことが起きないように、我々の主力業務たるコンストラクションマネジメントがあるわけです。

藤村 今回の五輪招致成功が、そういう仕組みの契機になるといいと。

川原 本当にそうですよ。発注者である官公庁でも、手戻りのないスムーズな発注がどうすればできるのか考えているんですから。

新国立競技場で話題の建設書。発注者目線での改革

藤村 2013年末まで話題となっていた新国立競技場なのですが、提案コンペが行われて当初1300億円と言われていたものが3000億円もかかるという試算が出て、その後いつの間にか1700億円になって、この騒動は何だったんだということになりましたけれども。設計の現場にいる我々からすると、この程度のブレはよくあることなんですよね。

川原 そうそう(笑)。本当によくありますね。

藤村 2倍、3倍にまでズレることすらあるわけです。今回の騒動は、設計・発注って実はそういうものなんだよ、そんなイメージを、社会が共有した出来事だったのではないかと思うんです。構造計算書が偽造された姉歯事件と同じで、建築業界って実はこんな感じですよということが明るみに出た。

五輪には間に合わないかもしれないんですけれど、その後に来る社会では、そんな予算増減が問題になったことがあったんだという認識のもとに、発注のシステムを改善して欲しいですね。

川原 実態に合った形で、双方合意ある商習慣として成り立つ状況を作っていくべきですね。今がラストチャンスかも知れません。ゼネコン、設計事務所、今の段階で発注者目線に立ってお互いに変革していければ、必ず明るい未来を展望できるはずなんです。

※この座談会は、2014年2月24日発刊の広報誌『UNSUNG HEROES』06に収録されたものです

取材・文=池谷和浩⁄写真=楠瀬友将

・株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツは、2018年4月1日に、株式会社山下PMCに社名変更しました。
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