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未来の建設事業者のための建設学 未来の建設事業者のための建設学

新たな事業推進方式への進化

現在の事業は、投資タイミングと時間との勝負である。企業に限らず投資ファンドを含めて、現在は事業(プロジェクト)単位でその投資効果が判断される。永続的にその事業あるいはその施設を継続・存続させるために、いかにその事業が「賢明な投資」であるかにかかっている。そして、投資タイミングの旬は長くは続かない。

中でも建設事業は、膨大な投資金額を伴うために、成功を確実にする確かなプログラムと、リスクを高いレベルで回避・軽減できるような推進手法が強く求められる。これまで、建設事業推進のほとんどは、設計者の設計・監理業務における付帯サービスとしてか、あるいは利益相反の利害関係者である総合建設会社(設計施工を含めて)による進行に委ねられてきた。しかし、これでは事業者が多大な投資を払って行う英断に見合った選択とはいい難い面がある。

本来、事業者自らが主体となって建設事業を推進していくのが最良の手法だが、事業者内に建築の専門家を多く抱える場合はまれで、加えて建設生産の中身と旬の技術を熟知して、首尾よく事業をコントロールしていくとなると、それは至難の業でもある。そこで必要になるのが、事業者の側で事業者の利益のために建設事業を取り仕切り推進していく専門的解決者の役割である。近年になって、この役割の担い手がCM 会社の中からちらほら出現するようになった。当社山下PMC もその中の数少ない1社と認識されている。

山下PMCでは、「事業者の総合的利益をいかに最大化し、リスクをいかに最小化するか」を実現するプログラムやマネジメント手法を、多くの時間を費やして開発し標準化させてきた。その中でも性能発注方式を活用した「早期の事業コミットメント技術」は、事業者が建設事業を行う際の大きな武器であり、山下PMCの大きな特徴のひとつにもなっている。今回は初回ということもあり、これを取り上げてみたい。

1. 性能発注方式の登場

建設事業において、設計者が基本設計と実施設計を行って、実施設計図書により各種の仕様などを詳細に取りまとめたうえで工事の発注を行って、工事施工会社を選定し、工事施工会社が工事の施工を行う、という従来どおりの方式が「仕様発注方式」である。

これに対し、事業者が求めるサービス、あるいは満たすべき水準を明らかにし、企画図書または基本設計図書にその性能を規定したうえで、設計と工事をセットにした発注を行い、設計/施工者を選定し、設計と工事施工をひとまとめにして行う方式が「性能発注方式」である。この「性能発注方式」は、早くから製造業の生産・研究施設を中心に行われてはいたが、2000年代に入ってPFI 事業に代表されるような、民間活力による創意工夫の発揮や運営の早期実現を目的とする事業に導入され、にわかに注目を集めるようになった方式である。設計や工事施工の広範なアイデアや技術提案を採り入れることができるため、最近ではかなりの拡がりを見せている。

2. フロント・ローディング概念の浸透

フロント・ローディングは、一般に製品開発のプロセスで業務の初期工程に負荷をかけ、作業を前倒しで進める手法のことであり、できるだけ早い段階で多くの問題やリスクを洗い出してこれをつぶし、初期段階から設計品質を高めておこうというものである。

この考え方と並行して、コンカレント・エンジニアリングという概念がある。世界に冠たる日本の工業製品にみられるような生産・製作技術を企画や設計の早い段階から取り入れて、顧客満足度や製品品質を飛躍的に向上させる考え方である。

コンカレント・エンジニアリングが、製造や試作など設計以外の部門の仕事を同時並行的に処理しようとするものであるのに対し、フロント・ローディングは設計部門内での品質検討業務の前倒しが主な目的である。ただしコンカレント化を進めれば、他部門からのフィードバックも当然早まり、必然的にフロント・ローディングに帰結していく。したがって両者は不可分の関係になる。

建設事業においても、2000年代に入ってこのような考え方が浸透し、3次元設計を進める狙いの一つとして、多くの企業で恒常的に取り組まれようとしている。

近い将来、BIM(Building Information Modeling)システムの普及で、この考え方はさらに加速する方向にあるといえる。

3. 早期に事業をコミットメント(制約)する

山下PMCでは、前述したように性能発注方式とフロント・ローディング/コンカレント・エンジニアリング手法を統合的に組み合わせた「ニュー・スタンダード・フロー」による事業推進手法を開発し、現在ではこれが主力業務のひとつとなっている。

これは、簡単に言えば、建設事業に不可欠な3要素である「品質Q」「コストC」「納期D」を計画の早い段階で確定してしまって、高度なマネジメントによりこれを完成まで保持することで事業を成功へと導く手法である。企画または基本設計段階までに、事業者の要求事項をハード面だけでなくソフト面(運営などを含む)までの全容を洗い出し、これを設計図書をはじめとする発注図書にまとめ上げる。ここまでで、3要素である「品質Q」「コストC」「納期D」を90~95%の確定度レベルで構築することになる。これには従来の設計図書だけではなく、資産・運営管理・業務・工事に関する所掌区分や事業推進上の各種取決め、さらに契約条件など、図1・図2に示す、+αの図書が必要になる。

図1 ■フロント・ローディング概念
図2 ■なぜフロント・ローディングなのか!? その背景

これをもとに性能発注を執り行い、複数の設計/施工者に技術提案(VE:バリューエンジニアリングを含む)と事業費見積りを募り、これを総合評価などにより判定して特定の設計/施工者を決定する。このとき、先の「品質Q」「コストC」「納期D」がほぼコミットメント(制約)される。そして、その設計/施工者に設計と工事施工をまとめて実行してもらうというものである。

図1のように、従来の建設フローに比べて、事業のコミットメント(制約)時期を飛躍的に前倒しすることが可能になり、事業見通しを大きく向上させることができる。

また図2に示すように、これまで従来の建設フローで、よく起こりがちだったさまざまな不具合、たとえばコストの上ぶれや工程遅延あるいは資産価値の低下といったものの、かなりの部分を解消することができる。

4. 新たな事業推進(ハンドリング)技術によって達成する

合わせてこのニュースタンダードフローでは、図3のように設計作業と本来工事段階で行う生産計画および資機材調達などの作業を同時並行して進めることができるため、全体納期の短縮も可能になる。ただ、これには加えて許認可や設計VE、運営準備などの作業を同時に解決することも要求される。これらの重なり合う各種の作業が新たなクリティカルパスを生み出し、それが高度な事業推進(ハンドリング)技術へと発展する。性能発注を進めていくと、これらの要素は同時に発生し、相互に繋がりあっていく。コミットメント→正式契約を可能にするために、実作業・許認可・生産計画・各種調達・コストや納期のコントロールなどの作業を同時並行的に行っていく必要があるのである。そして、これらを同時に解決する技術を得ることができれば、建設事業の推進戦略において大きなアドバンテージを有することにもつながる。(図4)

ただし、これには設計ノウハウや建築技術、工法知識に深く精通しておく必要があり、設計者や工事施工者の遂行行為を評価し、不足の場合、回復するまで追跡管理していくような操作術が合わせて求められるのは言うまでもない。

図3 ■新たに発生するハンドリング技術
図4 ■新たなハンドリング技術の重要要素

5. 事業者側でのリーダーシップ発揮が必要不可欠となる

性能発注方式を活用した「早期の事業コミットメント技術」は、うまく運用できれば、ある意味、事業者にとっては夢のような事業推進システムである。しかし、これを成功させるには前述までの内容に加え、次のような施策もさらに要求される。
1. 事業を推進するための全体プログラム構築と制度設計
2. リスクの発生しない発注図書の構築技術
3. コミットメントから契約締結までの契約者双方が対等な一連の契約システム
4. これらを事業者の立場で推進するための強力なリーダーシップ

これらが全て一体となって初めて実現可能となる推進手法なのである。簡単にそうですか!と始められるような代物ではないのである。山下PMC でも、この手法によってプロジェクトを推進する場合には、かなり多くのエネルギーを必要とする。

しかし、これによってもたらされる成果は、現在のめまぐるしいスピードで動く複雑な建設事業の投資タイミングを最適で賢明な状況へと導く、絶大なものである。そして、日本独自に発展してきた、日本が世界に誇れる緻密な建設生産の構築システムが、さらに磨かれて昇華されていくキッカケになればと思っている。