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設計者の〝これまで〟と〝これから〟

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~はじめに~

建築とはそもそも天災などから人間を守るシェルターから派生したものであり、設計とはシェルターを計画するところにその原点がある。
その性質上からも当然のことであるが、建築設計は経済活動を含めた人の営みと強い結びつきがあり、建築設計者の歴史は戦争や復興、震災などに大きな影響を受けて浮き沈みしてきた。浮き沈みとは言うものの大きな波としては高度経済成長や人口増加の潮流の中にあり、設計市場のニーズは増加の傾きを継続し、設計組織は拡大路線を歩んできた。
しかしここ数年における経済の冷え込みの中で、建設事業への投資が激減。設計者全体の売上げとともに設計事務所の規模も縮小傾向となっている。

一方業務の内容としては、昨今の建築の多様化・複雑化の中で分化傾向にあり、その方向性は加速度的に進んでいると考えられる。特に米国において、最近ではIT、物流、R&Dセンターなどの建築ニーズに専門特化した中規模の組織事務所(Architecture/Engineering firm)が増えており、今後の日本の組織設計事務所のひとつのあり方をうかがい知る事ができる。
連載の第2回目はこれまでの設計者の歴史などに焦点を当てながら、設計者という職能の概要を紐解いてみたい。

〝設計者のこれまで〟

近世初頭まで、建築事業における設計業務は発注者の内部組織により行われていた。
当時は設計のみならず材料の調達や施工も自前で行う「直営」という発注方式が一般的であった。その後「直営」から「請負」の形態へと徐々に変化、成立、適正化していくこととに合わせてさまざまな設計組織が組成され成長する。
まずは明治時代から現在までの大きな流れを振り返る。

明治時代、資本主義社会の発展や各種産業に対するニーズの高まりに合わせて、民間企業の設備投資が顕著となり、建築市場に資金が流れ込むこととなる。これをビジネスチャンスと捉えた多くの個人や組織が建築請負業者として創業した。
いくつかの大手ゼネコンがこの時期に創業していることと同様に、高等教育を受けた人々による個人設計事務所が設立され始めたのもこの時期である。

1914 年(大正3年)から始まる第一次世界大戦は、大きな建築市場の拡大を創出することとなる。軍事産業に引っ張られるように、鉄鋼・造船などの各種産業が大きく伸びた。
これら設備投資に対応するために、設計者の需要もさらに高まったと想像できる。

昭和の初期に入り日本経済が沈む中、財閥系企業が台頭、企業の大型化が進んだ。
これら大企業は都心部にオフィスビル、郊外に工場などの産業施設を建設するようになり、これら大企業をクライアントに有する設計組織(財閥営繕部そのものやそこから独立した個人事務所)に多くの仕事が依頼されることとなる。
また、景気浮揚策として政府・地方自治体が官工事を推進したため、多くの設計者が官工事の設計業務で成長した。

第二次世界大戦後が終わり空爆された都市では復興が始まる。昭和23 年には建設省が発足。1950 年(昭和25 年)に建設業法、1951 年には建築物の質の確保向上のため「建築基準法」、建築の質的向上を図るためには人材確保が重要との認識により「建築士法」が相次いで制定されたこともあり、耐震性、耐火性能を意識した最初の建設ブームが到来する。
このころ設計事務所、アトリエの設計各社やゼネコンは新材料、新工法を海外に求め、その技術を日本国内へ積極的に展開するようになる。
1955 年(昭和30 年)からの10 年間で建設投資は名目1兆円から6兆円となり、呼応するようにゼネコン大手の資本金が35 億円から100 億円前後へと飛躍的に伸びた。
大手、中堅ゼネコンを含めると、この10 年間に80 社もが株式公開することとなった。
1950 年代、一般的な施設の設計業務はゼネコンの設計施工、官庁営繕部など組織設計事務所が占める様相となっており、万博パビリオンを代表とするような特殊な施設は建築家またはアトリエ系設計事務所に委託される傾向にあったようである。
また民間企業においては、継続的に同じゼネコンに設計施工一括発注するケースも多く見られた。これは大工棟梁の伝統をもつ日本ならではの傾向であり、現代においてもゼネコンは内部に設計組織を保有することで、この一元的なサービスを実施している。

1960 年(昭和35 年)から経済活動の後押しにより建設投資が活性化し続ける、いわゆる高度経済成長期に入る。
建築基準法の改正により容積地区制と高さ制限が撤廃され、霞ヶ関ビルに始まる日本の高層ビル時代の幕が明けた。
地震国日本における高層ビル需要は、設計者に求められる能力を一段階押し上げた大きな要因といえよう。
1970 年代には地方自治体を中心に行政需要が飛躍的に増え、官工事の設計業務の一部を設計事務所に委託するようになる。
こういった市場のニーズを受け組織設計事務所は、超高層ビルをこなせる企業、標準設計や官工事を中心とする企業など、大まかにではあるが志向性が明確化することとなった。

1980 年代後半に始まるバブル経済時には政府の金融緩和策により銀行の貸し出しも積極的になり、規模拡大する企業や海外から日本へ進出する企業のオフィス需要などを中心に、多くの建設事業が起こった。当然設計業務の需要も高まり、設計者が仕事を選ぶような受注者市場の時代となった。

1991 年(平成3年)のバブル経済の崩壊や1997 年の消費税率引き上げは建設業界に厳しい受注環境を突き付ける。その副産物とするには議論が必要であるが、建築士法改正の発端となった姉歯一級建築士による構造計算書(耐震強度)偽装事件が起こる。
これにより性善説で運用されていた建築確認審査も適合性判定というダブルチェック体制を採ることとなった。
厳しい経済状況ともあいまって、建築士や審査機関に対する疑念は連日新聞紙上をにぎわしただけでなく、設計者を含む建設業界に「不信感」という大きな影を落とした。

また、設計者の分化という視点から、サブコン設計部の登場についてここで触れたい。そもそもゼネコン設計部と比較し非常に弱い存在だったサブコン設計部は、工事発注方式の多様化やCM(コンストラクション・マネジメント)の出現とシンクロするように成長してきており、今後のエコ社会などにおいてはさらにその存在感を増すということは想像に難くない。
2002 年にオフィスビルを11 パッケージに分離発注した事例(山下PMC 実績)以降、日本の工事発注においてもCM を絡める事例が年々増加しており、今後も技術力と企業力を成長させるサブコンがさらに発展する可能性を秘めていると予測される。

明治から平成までの設計にまつわる歴史を振り返ることで、冒頭に触れたように、設計業界の「人の営みとリンクした浮き沈み」を再確認した。
また発注方式との関連性という点では、〝一人親方棟梁→工務店設計課→ゼネコン設計部〟という設計・施工一括発注を中心に発展した一つの流れと、〝建築家→個人事務所→組織設計事務所(アトリエ系を含む)〟という設計・施工分離発注を前提とした、建築家という職能の延長線上にあるもう一つの流れが浮かび上がってきた。

〝設計者のこれから〟

改正省エネ法、バリアフリー法など年々増加する「法規制への対応」や、企業のCSR(※1)、BCP(※2)、国際会計基準など「社会的環境への対応」のように設計者に対する要求も複雑化してきた。
設計者にはこれらを認識しつつ設計活動を実施することが求められている。
また不動産の流動化に伴い設計以前のフェーズから関わるコンサルタントや各種マネジャーの需要が高まったこともあり、設計者は比較的『設計業務』に特化したプレイヤーとしてその技術力が期待される存在となっている。

ここで今後の設計業界に必ず訪れるであろう次世代潮流として、BIM(※3)について少し触れたいと思う。BIM とは下注記に示すひとつの設計ツールであるが、計画やコスト、工期を含めた簡易シュミレーションによる「見える化」の効果は大きく、避けては通れない時代は確実に近づいてきている。
現時点ではソフト開発メーカー系やゼネコン系などいくつかのシステムが存在しており、それぞれ基軸とする部分に違いがあるが、一元化へ向けてゆっくりと動き始めている。米国政府調達庁への設計データ提出が「3次元モデル」とすることが義務付けられたことも踏まえると、BIM への対応は設計者が先見の明を持って検討すべき新たな課題であると考えられる。

建設投資額が90 年代の70 兆円から40 兆円台へと激減した事実や、冒頭に紹介した米国のA/Efirm 出現の事例を念頭に推察すると、「これまで以上に設計者は、技術力と組織力に裏づけされた〝企業のアイデンティティ〟を明確に打ち出す時代に入っている」といえるのかもしれない。

【注釈】
※1 CSR(corporate social responsibility):
企業が事業活動において利益を優先するだけでなく、顧客、株主、従業員、取引先、地域社会などのさまざまなステークホルダーとの関係を重視しながら果たす社会的責任。
※2 BCP(business continuity plan):
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。
※3 BIM(Building Information Modeling):
コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までの各工程で情報活用及び業務効率化を行うためのツール。
【主要参考文献】
『建築生産ハンドブック』古坂秀三 ほか

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