週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

経営課題を解決するファシリティ・
CRE戦略マガジン

建築デザインの新たな評価と PM/CMの責務 建築デザインの新たな評価と PM/CMの責務

意匠や構造、各種性能を決める「建築のデザイン」は、各時代や地域の社会に求めら れながら変遷をたどってきました。現代には現代に求められる建築のデザインがあります。 それは建築がもつ価値とも言えますが、歴史的には意匠性に重きを置かれていたものが、近年は環境性能が加わるなどその価値は多岐にわたります。この価値形成と評価をマネジメントするのがPM/CMの役割なのです。

公共工事品確法改正

2014年6月「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」が施行され、これにより発注者責務の拡大や多様な入札契約方式の導入・活用が促進されることになりました。その中で、現在デザインビルド発注において、建築デザインをどう評価し、評価の説明性をどう担保するのか、といった課題に私自身が直面しています。そもそも建築デザインに求める価値とは何でしょうか。実はこの価値の形成をPM/CMが担っているのです。

デザインの価値観の変遷

近世以降のヨーロッパでは、古典主義思想のもと建築家は過去の歴史的様式を深く理解し、芸術的な作品を造ることが求められました。しかし19世紀末には新しい素材の登場と社会生活の多様化に伴い、建築に対する様々な要求が起こり、様式に捉われない装飾や、鉄やガラスといった当時の新素材の利用が特徴的な「新しい芸術」を意味するアール・ヌーヴォーが開花し、その後、より直線的で安価に建造できるアール・デコを経てモダニズムへと移行していきます。

モダニズム建築における機能主義は、建物はその目的に基づいて設計されるべきであるという原理であり、古くはローマ時代の建築家ウィトルウィウスの「用、強、美を兼ね備え、芸術的かつ科学的見地に立たねばならない」という言葉に遡ることができます。20世紀初期、ルイス・サリバンは、機能の側面が満足されれば、建築的な美は自然にそして必然的についてくるということを意味した「形態は機能に従う」というフレーズを残し、ミース・ファン・デル・ローエによる「Less is more.」(より少ないことは、より豊かなこと)はその時代の建築をよく表しています。

しかし1930年半ばになると、機能主義はデザインの統合性の問題よりも無装飾の意味に擦り換えられ、次第に革新性を失っていきます。

モダニズム建築の特徴である装飾の無い建物が並ぶ街並みに対して批判が起こり、それを乗り越えようとするポスト・モダニズム(ポストモダン)が提唱され、それまで否定された装飾の復権が唱えられたり、ハイテクによって生み出された技術を建築物に取り込み、強調して見せるハイテク建築が現れます。しかしこれらの動きには建築や空間を改善・改革する実質的要素がなく、表層だけを扱ったものがほとんどで、一時的な流行であったと言えます[図1]。

[図1] 建築デザインにおける価値観の変遷

新たな価値へ

日本においても高度経済成長による技術革新と共に超高層建築が乱立する一方で、新たな価値を見出す様々な試行錯誤の時代がしばらく続きます。

1995年に発生した阪神・淡路大震災は、改めて耐震性や都市防災の在り方を再考させ、また2011年の東日本大震災は、それまでの価値観を大きく覆しました。とくに、福島第一原子力発電所事故は、原子力発電の存在自体が見直される機会となり、日本国内に省電力の意識を根付かせました。

この動きは京都議定書で採択された地球温暖化対策の理念と相まって、省エネルギー、地球温暖化といった環境配慮に対する課題を重視する社会的潮流となり、現在は建築に関する価値観の主流になっていると言っても過言ではありません。

建築デザインとは

19世紀末から現代まで、建築を取り巻く価値観の変遷について述べてきましたが、つまるところ継続する絶対的な価値観が存在した訳ではなく、建築は社会の潮流と密接な関係にあり、社会の多様化にシンクロして建築の価値観も多様化し続けてきたということです。そして、この多様な価値基準から重要な要素を取捨選択することが建築デザインに重要と考えます。

歴史的に見て表層的なデザインは、どの時代においてもその価値が衰退しており、真の価値を産み出すデザインはそこに総合的な思想が込められているべきと考えます。建築デザインとは、クライアントの本質的な要求を引き出し、序列化し、それらを建築に具現化することであると私は考えます。狭義の意匠的なデザインは建築デザインの要素の1つでしかないと言えるのではないでしょうか?

建築デザインの新たな評価

では、クライアントにとって良い建築デザインとは何でしょう? 失礼ながら、専門家でないクライアントにマクロな価値観を問うのは些か強引であり、そこでは我々PM/CMの果たす役割が大きいと考えます。

建築の評価軸はおおよそ、1.機能性、2.意匠性、3.環境性、4.保守性、5.コストに分類できると考えます。

個々のプロジェクトによってその比重が異なり、上位にある事業コンセプト、事業計画に基づき価値基準のバランスを定義づけるべきです。

例えば、集客が重要な課題である商業施設や宿泊施設では、居心地の良い空間(意匠)や使いやすい設備(機能)などが重視され、生産施設では合理的な動線(機能)、設備更新性(維持管理)、徹底したイニシャル、ランニングのコスト削減(コスト)が重視される等、内容は千差万別です[図2]。

[図2] 多様な評価軸の概念

  • 商業・宿泊施設
  • オフィス
  • 生産施設

建築用途ごとに基準指標が異なり、さらに各プロジェクトの特性に応じてレーダーチャートが形成される。
※レーダーチャートは1 例です。

そして良い建築デザインとは、各々の価値基準に対して1つの策でどれだけ有効なソリューションを導き出しているか、どれだけ一石二鳥、三鳥の策を投じているかであると考えます。

現在、私が携わっているプロジェクトにおいてはこれらの課題を同時に解決する総合的ソリューションを発注段階の提案に求め、それを広義の建築デザインと定義づけ提案を評価するしくみを構築しようとしています。

これは1つの例ですが、外装を評価する際、一元的な従来の評価項目でなく、基本性能の確保や、地震時の追従性、環境技術の取込みを実現しながら、魅力的な外観デザインとなっているかを項目ごとに設けた評価指標に応じて配点します。より高次元でクライアントの要望を具現化できるように、総合的に評価するしくみです[図3]。

[図3] 外装の評価項目(例)

  • グラフ
  • 凡例



    従来の建築デザインの評価は、一元的な指標で定性的に評価されることが一般的であるが、新たな評価指標における評価は、多元的に評価項目をリストアップし、達成個数とその度合いで定量的かつ総合的に評価する。

PM/CM会社の役割

建築を取り巻く価値観は、歴史の中で変貌し、その時代の社会情勢を反映して変化し続けています。我々は建築のプロ集団として建設プロジェクトの主体となり、この社会的ニーズの掌握とクライアントの事業の本質を理解・創造し、クライアントが共通認識を持つところまで誘導する責務があります。そして限られた予算の中で提案者がより高い価値を創出するように、またクライアントが適切な評価ができるように導き、より的確に建築に具現化する使命があります。それはPM/CM会社が提供する重要なサービスです。つまり、PM/CMは「建築デザイン」の最も重要な部分を担うものなのです。

さらにこのノウハウを活かし、クライアントの利潤の追求や社会的責任(CSR)の達成のみでなく、同時に社会的課題の解決を実現する共通価値の創造(CSV)を産み出す成果を導き出すことができたなら、我々にとって至福の喜びではないでしょうか。