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環境会計の導入(IFRSと環境) 環境会計の導入(IFRSと環境)

日本での環境会計の指針として、環境省の「環境会計ガイドライン2005年版」があるが、来年を目途に当該ガイドラインが変更される見込みであり、またIFRS(国際財務報告基準)では、環境会計についてはまだ具体的な議論にはなっていない状況である。そこで、本稿では、タイムリーなトピックである資産除去債務としての環境債務について記載したい。


国際的な会計基準とのコンバージェンスの一環として、2008年3月31日に、資産除去債務に関する会計基準及びその適用指針が公表された。この基準は、2010年4月1日以降開始事業年度から適用が開始されている。この基準の中で、資産除去債務とは「有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用(意図した目的のために正常に稼動させること)によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」と定義されている。

環境会計の導入(IFRSと環境) この基準の適用に際し、現在、各企業において資産除去債務計上への対応が実施されているところであるが、環境法令による資産除去時の法律上の義務の計上が、資産除去債務のうち影響が大きいものとなる場合が多い。いわゆる資産除去債務としての環境債務であるが、その検討対象法令として、資産除去時に環境対策費用が発生する可能性があるものすべてを検討対象にする必要がある。具体的には、グループ会社の国内拠点がある場所の国内の法令、条例などに限らず、海外拠点がある場所の法令など(海外各国の法令、中国の省令、アメリカの州法など)も含まれる。条例などには、法令よりも厳しい基準が存在する場合があることに留意する必要がある。

日本国内において対象となる例としては、石綿(アスベスト)を規制する大気汚染防止法、労働安全衛生法、並びに石綿障害予防規則(以下、 「石綿則」という)など、PCB 廃棄物を規制するポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(以下、「PCB 廃棄物特措法」という)並びに廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、「廃掃法」という)など、土壌汚染を規制する土壌汚染対策法などが含まれる。法令検討の網羅性を確保するためには、実際に法令などをリストアップする際に、法令の専門家の意見を参考にすることが望まれる。

調査検討範囲に際し、除去についての基本的考え方については、基準には、「将来、有形固定資産の除去時点で有害物質の除去を行うことが不可避であるならば、現時点で当該有害物質を除去する義務が存在しているものと考えざるを得ない。このため、有形固定資産自体を除去する義務はなくとも当該有形固定資産に使用されている有害物質自体の除去義務は資産除去債務に含まれるとの見方をとることとした。」(会計基準29項)とされている。したがって、現時点において建物などの除去の予定がないとしても、法令によって建物などの解体時に有害物質の除去義務が存在する場合、現時点で資産除去債務の対象となることに留意する必要がある。

資産除去債務としての環境債務については、対象範囲に留意する必要があるため、以下、石綿(アスベスト)及びPCB の対象範囲について記載する。

アスベストを含有する建材は、その飛散性から大きく3つのグループに分類される。
1.吹付け材、2.保温材・断熱材、3.その他石綿含有材である。
これらは石綿則及び廃掃法においてそれぞれ扱いが異なることから、実用上それぞれ「レベル1」、「レベル2」「、レベル3」と呼ばれている(これらの呼称は法令で定義されている名称ではないため、注意が必要である)。会計基準においては、事前調査や該当場所の隔離など、通常の解体工事では生じない除去に係る法的義務を負っているのであれば、その義務の履行について資産除去債務を計上することになるため、基本的には、上述のアスベストすべてにつき対象範囲に含まれるものと考えられる。

 

環境会計の導入(IFRSと環境)PCB については、PCB 廃棄物特措法において、事業者は法の施行から15年以内(2016年7月まで)にPCB 廃棄物を処分しなければならないこととなっているため、使用中のものについてもそれまでに撤去・処分を進めなければならない。自家処理以外のPCB廃棄物については、日本環境安全事業㈱(以下、「JESCO」という)の5事業所での受入・処理がほとんどとなっている。なお、「高濃度PCB」、「低濃度PCB」、「微量PCB」といった表現を目にすることが多いが、これらは法律上明確に定義された語句ではなく、JESCO が受入の関係で分類に用いている呼称である。法律上はPCB 廃棄物特措法で規定されている「環境に影響を及ぼすおそれの少ない廃棄物の基準」を超えるものはPCB 廃棄物であり、上述の法的な処理義務を負っているため、資産除去債務、引当金などの対象範囲に含まれることになる。
資産除去債務については、環境法令の規制強化に伴い、計上範囲が拡大していくことが想定され、初年度適用後も企業グループ全体に関する環境法令の動向を注視していく必要がある。

 

以上見てきたように、今回の資産除去債務の会計基準の強制適用への準備を契機として、環境リスクの網羅的な把握、及びそれに対応する環境債務全般(資産除去債務、引当金など)の財務会計上の対応について、企業グループ全体の戦略的対応が必要な時期に来ていると考えられる。国際的な環境リスクの高まり及び日本企業への今後のIFRS 導入を踏まえると、企業グループ全体の環境債務の財務インパクトの網羅的把握は、企業価値向上の機会として、企業経営の重要な課題の一つと捉えることが必要であろう。
以上

 

【阿部和彦のプロフィール】
あらた監査法人 リスク・コントロール・ソリューション部
サステナビリティ・サービス ディレクター
公認会計士(日本及び米国)、サステナビリティ情報審査人
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)ニューヨーク事務所、ボストン事務所を経て、現職。

環境・サステナビリティ情報のアシュアランスおよびアドバイザリーサービスを提供しているサステナビリティ・サービスグループ内で、資産除去債務(環境債務)を担当。
日本公認会計士協会「保証業務検討専門委員会」、「サステナビリティ保証専門部会」専門委員。