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低炭素社会におけるサスティナブル建築への可能性 低炭素社会におけるサスティナブル建築への可能性

世界的に低炭素社会の実現が叫ばれている昨今、実効性のある温室効果ガスの削減が急務であることは言うまでもありません。そこで本特集では、建築環境学の権威でいらっしゃいます、東京大学の坂本雄三教授に「低炭素社会におけるサステイナブル建築への可能性」と題し、さまざまな視点から貴重なご意見を伺うことができました。

◇山下PMC

2010年4月から東京都は「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」が施行され、東京大学も「特定地球温暖化対策事業所」に該当すると思われます。温室効果ガス削減と共に、持続可能な社会を実現するための具体的な取り組みに関して教えて頂けないでしょうか。

◆坂本教授

図-1 都内の業務施設におけるCO2排出量 東京大学本郷キャンパスは、平成18年度90,662t-CO2・年と東京都の事業所(事務系)で最大のCO2 排出量となっています。(図-1)ただし、床面積あたり排出量は0.1t-CO2/㎡・年と平均並みとなります。(表-1)しかし、大学も口で言っているだけでなく、自ら実行し持続可能型社会モデルを示していかなければなりません。そこで、2008年7月1日に東大サステイナブルキャンパスプロジェクト(Todai Sustainable Campus Project, TSCP)を発足しました。そこで第1フェーズとして「2012年度までに東京大学全体で2006年度比でCO215%削減」を約束しています。その後第2フェーズとして「2030年度までに2006年度比でCO250%削減」の目標設定をしています。

表-1  東京大学5キャンパスのエネルギー消費量と CO2排出量(平成18年度)

◇山下PMC

CO2排出削減とサステイナブル建築を切り離して考えるのではなく、両立を図ることは非常に意義があると感じます。

◆坂本教授

東京大学では、従来から有している知的資源を活かし、サステイナブルなキャンパスの実現に向けて、TSCP として先導的な試みを実践することで、サステイナブルな社会の実現への道筋を示したいと考えています。TSCPが対象とすべき環境負荷は多岐にわたりますが、今日の問題の緊急性、困難性と大学が先導的役割を果たす必要性の高さから、温室効果ガス排出削減による低炭素キャンパスづくりを当面の最優先課題として取り組んでいます。

◇山下PMC

TSCP の第1フェーズ目標達成に向けた、具体的活動内容とはどのようなものなのでしょうか。

◆坂本教授

図-3 TSCP の概要温室効果ガス排出の少ないキャンパスを実現するために、的確な状況把握(サステイナビリティ・モニタリング)を行いながら、低炭素を実現するために的確な対応設計(サステイナブル・デザイン)を実施するとともに、総合的な実施・評価を行うことが重要です。これにより、今後目指すべき持続型社会モデル(サステイナブル・社会モデル)を提案していきます。またこれらの相互関係や相乗効果を勘案し、同時進行的に効果的・効率的に実行する“ 共進化システム” を構築し、これらを通じて、低炭素社会のモデルケースを教育機関として実現して行ければと考えています。(図- 3)
第1フェーズでは大型熱源系の省エネ化で6.3%の削減、照明・個別空調・冷蔵庫などの更新で7.1%の削減を見込んでいます。

◇山下PMC

省エネ機器更新に対す初期投資補助施策として、国内CDM(クリーン開発メカニズム:Clean Development Mechanism)制度の認証申請を㈱ローソンと共同実施されていますが、導入実績についてお聞かせ下さい。

◆坂本教授

図-2 電力消費量内訳の概略推定 初期投資の回収年数が4年を超えるものについては、補助制度を検討していました。また、教育機関として、率先して経済産業省の国内CDM 制度の普及・拡大に貢献したいとの方針のもの、2008年11月の第1回目の国内CDM認証申請を行い、①「東京大学本郷、白金、駒場、中野の4キャンパスにおいて、38,000台の蛍光灯機器をインバータ化」及び②「東京大学医学部付属病院において病院内に冷温水を供給する冷凍機を更新」の2つの事業で認証を受けました。
① の蛍光灯機器のインバータ化によって1.960t-CO2・年の削減効果を見込んでいます。

図-4 東京大学の国内CDM 制度活用事例②の冷凍機更新によって2,034t-CO2・年の削減効果を見込んでいます。毎年度発生するクレジット料は初期投資額の約1%程度と、初期投資額の抑制を図りかつ、CO2排出削減を実施する上で有効な制度と認識しています。(図-4)

◇山下PMC

最後に、TSCP を通じて社会への情報発信の位置づけ及び、低炭素社会の実現に向けての一助についてお聞かせ下さい。

◆坂本教授

洞爺湖サミット直前の2008年6月、G8サミットメンバー国8カ国に、中国、インド、ブラジルなどを加えた計14カ国35大学が参加し、「グローバル・サステイナビリティと大学の役割」というテーマで議論が交わされました。各国とも大学がキャンパスを実験場として社会のサステイナブルモデルを示していくことの重要性が強調され「札幌サステイナビリティ宣言」にも盛り込まれました。この宣言はTSCP の精神に沿うものです。東京大学は国内外の大学間のネットワークを通じてTSCP の試みを世界的な大学の動きにつなげていくと共に、その動きを社会へと波及させていく。さらに社会における低炭素型の技術と対策の普及をリードすることによって、低炭素社会実現に向けて経済的な波 及効果をもたらすことを目指しています。

また、経済産業省が2010年6月に策定した改訂エネルギー基本計画に、業務部門については、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現・ 普及推進が掲げられています。ZEB について新たな省エネ基準を策定し、2020年までに新築公共建築物などでZEB を実現すると共に、2030年までに新築建築物の平均でZEB を実現することを目指しています。ZEB の普及により低炭素社会を実現するためにも、規制に加え、税制上のインセンティブ、予算上の支援(普及に向けた導入支援など)、表彰制度、事例収集・分析などを抜本的に強化する必要があります。最後に一言、低炭素社会への実現を市場制約とのみ考えるのではなく、建設業界をはじめ各界の大きな成長機会と捉え、日本の国産業の競争力強化へ繋げていくべきと考えています。

◇山下PMC

産官学一体で、持続可能性を模索しつつ、低炭素社会の実現を目指したアクションプランの実行は喫緊の課題として非常に重要であることを再認識いたしました。この度はお忙しい中、大変ありがとうございました。


【坂本雄三教授のプロフィール】
■経歴
1971年 北海道大学理学部地球物理学科 卒業
1978年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻
      博士課程修了(工学博士)
1978年 建設省建築研究所入所
1990年 名古屋大学工学部建築学科 助教授
1994年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻
      助教授
■現職:東京大学工学系研究科建築学専攻
     建築環境学講座 教授
※空気調和衛生工学会 会長
※経済産業省ZEB の実現と展望に関する研究会 委員長
※国土交通省社会資本整備審議会臨時委員

【山下グループとの業務上の繋がり】
※大森ベルポートアトリウム温熱環境シミュレーションの実施
※石川県庁自然換気シミュレーションの実施

【インタービューアー】
山下ピー・エム・コンサルタンツ 関根雄二郎、前川智之、松浦裕

【図表の出典】
東京大学ホームページ