週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

経営課題を解決するファシリティ・
CRE戦略マガジン

どこから生まれる?建設業界のパラダイムシフト どこから生まれる?建設業界のパラダイムシフト

企業や業界が不可避な変革に直面するとき、そこには受動的で「いたしかたない」経営判断が含まれている場合があります。しかし産業のパラダイムシフトはそこからは生まれてきません。個々の企業による能動的な選択の重なりが、未来を切り拓いていくのです。今、建設の現場で起こり始めた変革についてレポートします。

良質な変化とは

衆院選が終わり、各党の勢力図などから今後の方向性が見えつつありますが、なんとなくどこかで「変わるのかな、変わらないのかな」というモヤモヤ感が拭えないのが正直なところではないでしょうか。一方、当社のクライアント企業や官庁の方々とお話しする中で、「変化していくこと」自体がテーマになることが増えてきていますが、それぞれが意図する「変化」の意味合いがいくつかに分類できると感じていました。

今回の特集「建設業界 遅れてきたパラダイムシフト」を考えるとき、私たちが目指すべき「変化」とはどのようなものかを明確にし、モヤモヤ感を感じさせない変化を実現する必要があると考えています。

まずは「変化」を3つに分類します。

ケース1は外圧などによる「後ろ向き変化」です。時代の変化や要求に直面し、将来、今のままの自分(自社)では存続できないかもしれないという不安を感じて無理に「変わらなければ」と考えた場合、何かに迎合した形式的な変化になりがちです。結果的に、自分(自社)自身の根本は変化していないのではないでしょうか。

ケース2は「こうあるべき変化」です。例えば、CSR(企業の社会的責任)という大切な価値観があります。企業活動によって生じる影響に責任を持ち、あらゆる利害関係者からの要求に対して適切な意思決定をすることを言いますが、日本(の一部)では利益を目的としない慈善活動的なイメージを与える取り組みとして認識されています。利益を追求する企業活動と相反する部分もあり、本質的な変化とは言い切れないのではないでしょうか。ケース1と2、どちらもモヤモヤした変化につながりそうです。

ケース3は「こうなりたい変化」です。巻頭座談会で示すように、中核事業を変革し続けてきた企業であるコダックの藤原社長も、国を代表する企業として、自社事業の社会的意義を高めることで新たな価値を生み出す印刷業を育てていこうとされています。世界を相手に変化し続けてきた企業のトップメッセージから私は、「こうなりたい!」という持続的かつ自発的な意思のもと、自分の一番大事なところが自然に変わっていくという良質な変化の必要性を学びました。

建設業界を進化させる「こうなりたい変化」

図1 公共工事の品質と確保に関する法律一部改正の背景 2014年6月、公共工事の品質確保の促進に関する法律(公共工事品確法)の一部改正が施行されました。改正の背景には[図1]に示すような、未来の建設業界のために改善が必要な課題解決を望む声があります。これらが解決された建設業界は、適正な利益を確保でき、熟練者と新規入職者がバランスよく交流し、地域の基盤づくりなどに貢献することができる、非常に魅力的な業界に変貌を遂げる可能性を秘めています。今回の法改正によりこれまで定型化していた公共工事の発注システムに柔軟な対応が組み込めることとなり、現在、発注方式への様々な工夫が試行されています。具体的な効果を挙げてみると、卓越した技術を持つ企業が提供する技術力に見合うコストで受注することができるようになったり、設計段階で実際に施工する企業と技術検証を深めたりすることが可能になります。計画する側とつくる側の双方向のやりとりは他の業界では当り前のことかもしれませんが、一品生産であることなどの特殊性も手伝い、公共工事の範囲では実現されていませんでした。様々な方々の尽力による法改正は非常に大きな一歩であると同時に、業界人口の減少を食い止め、負のイメージからの脱却を図る、建設業界パラダイムシフトの種だと考えられます。

実際、建設業界をとりまく変化の兆しは、すでに現れ始めています。例えば、設計・施工分離発注方式で進められていたある民間事業で、基本設計完了を目前としたタイミングで建築計画が大きく変更となり、発注者より迅速かつ適切な対応が求められました。そこで当社は工期遅延や施工者選定時のリスクを分析・検証し、急遽ECI方式[図2]への転換を提案しました。転換前後の事業の全体像を丁寧に説明し、発注者や設計者との合意形成を図りました。単なる建物づくりではなく、発注者の課題解決に貢献する、柔軟性と強靱性を併せもった営みづくり(プロジェクト運営)が求められ始めていることを強く感じました。

図2 ECI(Early Contractor Involvement)方式について

さらに、冒頭で述べたCSRを包含する概念としてCSV(共通価値の創造)が注目を浴びてきています。ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授を中心に提唱された概念で、社会的意義を事業活動に求め、[図3]のように社会と株主双方への説明可能な共通価値を創出しつつ行う企業経営を目指しています。すなわちCSRからCSVへの移行は、企業の「こうあるべき変化」から「こうなりたい変化」への進化です。これに伴い、ある企業では保有不動産や保有インフラ、保有知財などをフル活用して経営戦略を練り直すかもしれません。

図3  CSV(Creating Shared Value)について

このような法改正や発注方式の多様化、発注者の変化を「自分(自社)と建設業界を変えるチャンス」ととらえ、自らが新しく提供できる価値について深く考える必要がありそうです。

困難な時こそ「大」きく「変」わるチャンス

私は、建設業界のパラダイムシフトは[図4]のように3つの軸がDNAらせんのように絡み合うことでそのきっかけがつくられているのではないかと考えています。まずはニーズの源泉(1)発注者軸、次に設計者や施工者などを示す(2)技術者軸、もうひとつは法体系やルール・常識などの(3)規範軸です。「経済社会」という磁場の中では(1)、(2)、(3)はそれぞれが進化、改善を繰り返し、自浄作用により揺れ動きながら時間軸に沿って進んでいます。今回の公共工事品確法改正によるシフトは(3)の規範軸がぐっと進展したことにより(1)と(2)に大きな変化が求められた状況と説明できます。

建設業界の今後のために、当社は[図4]の中に様々な形で存在していたいと考えています。3つの軸のいずれにも留まらずともそれぞれを深く理解し、エンジンやその潤滑油の役割を果たす存在が必要であると強く感じているからです。

図4  建設業界のパラダイムシフトについて

震災復興や東京五輪、アベノミクス等の影響で、建設投資が加熱しており、2015年の建設業界は一層難しい局面に差しかかります。品質を確保し、定められた期間で予定通りのコストで建設するという、これまで普通に実現可能だったことにも多くの知識と知恵が求められるでしょう。既成概念をいったん排除し、アイデアをぶつけ合い、「こうしたい!」と思える方策に帰結したら、信念と柔軟性をもって進めていくことが肝要です。先の3つの軸それぞれにおいてこのような意識や考え方が浸透していくことこそが、建設業界におけるパラダイムシフトの推進力となるのではないでしょうか。

何かを変えること、特に自分(自社)の大切な部分を変えることにはとても多くの困難が潜んでいます。しかし読んで字の如く「大変」な時は「大きく変わる」チャンスです。新しい自分が成し遂げる何かを楽しみに、自らの信じる良質な変化を持続していきたいと考えています。