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日本の魅力再考 − ”らしさ”の大事さ

事業創造本部 ホスピタリティコンサルティング部 プロジェクトマネジャー
土橋 太一

図1 書籍『KM3』(MVRDV/2004) 私は10 年ほど前に“ 世界の人口が増え続けるなか、現在の裕福さを維持していくためには、地球や都市がどのように変わっていかなくてはいけないか”ということをオランダの建築家集団MVRDV の一人、Winny Massと共に研究分析し『KM3』[図1]という本にまとめました。
結論は「地球全体、そして各地域が持つ資源かつ地理的なポテンシャルを最適、最大限に活用した場合でも、地球は2740年あたりまでしか裕福さが持続されない」というものでした。2740年までは、残り636年。私が皆さまと共に取り組んでいるプロジェクトが平均で8年程度かかっていることを考えると、80件程度しかプロジェクトが完成しないという計算になります。これはあくまで統計学や地政学に基づく研究結果ですが、私たちは自分たちのプロジェクトにモラルと長期的ビジョンを持たなくてはいけない、と考えさせられた経験でした。
今回の特集「日本の魅力を再考する」というテーマの中で、「インバウンド対策」というテーマを与えられたわけですが、ここでは「なぜ、日本の魅力を再考する必要あるのか?」「なぜ、外資系企業やインバウンドを取り込まなくてはいけないか?どう、取り込むのか?」という疑問について、先に挙げた過去の研究経験より自分なりに考えてみようと思います。

2060年

当然のことですが、日本の人口は、今後2060年へ向けて[図2]のように減少していくと考えられています。

図2 日本の人口推移予測[出典= 内閣府ホームページ]
    • 1.全人口:日本の人口は、2008年に1億2810万人でピークを迎え、2060年には約8600万人まで減少します。2008年比で約70%。比率に書き換えるとすごい数字です。
    • 2.世代別:60歳未満の人口が約8700万人から約4600万人になり、15歳未満は約1700万人から約790万人になります。(2008年比で約46%!)。全体の人口は1950年に戻るだけですが、子供の数が圧倒的な違いです。1950年の15歳未満人口は約3000万人。高齢化社会を否定する訳ではありませんが、一般的に考えると、子供が少ない日本は淋しい国になるのだろうと思います。 対して、世界の人口は[図3]のように、日本の状況とは異なり増加傾向にあります。

      図3 世界の人口推移について [出典=World population prospects, the 2012 Revision]
    • 3.全人口:現在の約70億人から2060年には約100億人になります。(現在の約142%)
    • 4.世代別:2060年の65歳以上の人口は、約17億人(2010年比330%)、15歳〜 64歳は約62億人( 同138%)、14歳以下は約2億人( 同111%)増える内訳です。主にアフリカ諸国の人口が増える傾向にありますが、アメリカやイギリスなど一部先進国でも増える傾向にあります。
      一方、社会に目を向けると、2060年までには下記のような3つのポイントが考えられます。
    • 5.企業:資本主義の中で、企業は生き残りをかけて、地球全体に拡大を続ける。
    • 6.所得:上記の結果、先進国と発展途上国の境はなくなり、企業・人としての能力・価値で所得に差が出てくる。不自由のない中間所得および低所得層が増える。
    • 7. 政治:高齢化社会の民主主義社会が形成される。

傾向(=TREND)に見る街づくりのヒント

ここに示したことはおおよそ、今の日本で感じられることばかりでありませんが、これらから今後の社会の傾向を、以下のように導き出すことができると思います。

      • 1.地球全体の人口増に資源が耐えうるか?
      • 2.企業のオリジナリティは出身国の文化や人材によっては形成されず、企業・人が持つビジョンによって形成される。
      • 3.人が国境を越え移動し、人種・言語が均一化される。(日本語は方言のようになる)
      • 4.生活が満ち足りている人が増え、当たり前にあったありふれた幸せが、夢に変わる。
      • 5.未来を夢見る若年層が減り、高齢者向けの社会が形成される。つまり、保守的な社会になる。(語弊はあるかもしれませんが、御容赦下さい)

5つ挙げたことは、日本らしさをつくっていく上では逆行する要素です。しかし、これらのことに、私たちがこれから街をつくっていくヒントがあるのではないかと考えます。

グローバル化と共に、日本を本質的に取り戻す

上記で挙げたことと日本の状況を照らし合わせていきましょう。ここでは、日本が島国ということが重要なポイントになってきます。

        • a.ネガティブな点:アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアいずれにおいても、大陸で地続きになっている環境では、法人税などの政策は関係なしに、豊かな国や街に人材が集まってきます。一方、日本は大陸でないので、自然に移民してくる人口というものは期待できません。フィジカルなネットワークといった意味において、日本は圧倒的な弱みを持っています。これは、外資系企業を誘致しよう、外国人に訪れて欲しい、住んで欲しいとした場合に、何故島国に行く意味があるのか?という課題が存在することを表します。
        • b. ポジティブな点:日本は島国なので、人種、宗教、言語、自然などの文化が極めて個性的です。これは、地域間、宗教間での争いがおきにくく、隣国との争いもおきにくいという世界最高の治安を持つ国であることも示します。また、日本独自の四季折々の自然があることは、独特の美的感覚と考える力を与えてくれます。(小話:日本の未来について、アニメーション作家の宮崎駿氏も、日本の自然が唯一世界で勝てる価値だと語っていました。宮崎氏は、小金井にある氏のオフィス「スタジオジブリ」[図4]の周りの緑を自然な状態で維持しており、外来種が生えてきたら取り除く徹底ぶりだそうです)
        • c.ヒント:私は上記aで挙げた「島国に外資系企業や外国人がくる意味とは?」という問いに応えるヒントがbにあるのではないかと考えます。そして、その答えは「グローバル化と共に、日本を本質的に取り戻す」ということなのです。例えば、プロジェクトを推進していくなかで、木々や花を植える際にも、日本の固定種に徹底していく。植栽に限らず、失ってしまった美しさを取り戻し、もう一度、世界中が憧れてきた日本の美的感覚と繊細さ、考える力を養える街にしていくこと。日本のなかで、私たちがいる街でしか創造できないものを、地球に提供する。このことを、真剣に考えていかなくてはいけないと思います。

なぜ、日本の魅力を再考する必要があるのか?

先に示したように、今後、企業・人種・言語等、あらゆるものがグローバルに均質化されていきます。しかし、島国で遠い日本、人口が減り続ける日本には、企業・人が集まる必然性はありません。企業が増えなくては、訪れる訪日外国人は増えません。人口も増えません。日本に様々な人が来たくなるようにすること、結果、多国籍の国になって若者も増える。
そのようにするためにはやはり、これまで日本にあった“日本の良さ”を取り戻すことです。人や企業は世界中に散らばっていくとしても、住んだり、働いたりするのであれば日本でなくてはダメだ、と言わせるくらい「日本(=企業、街、自己しか持ち得ないポテンシャル)」について徹底して、長期的かつグローバルなビジョンで考えることが重要になってくるのではないでしょうか。
日本らしさというものは、日本人の私たちから見れば一見、当たり前のこと。だからこそ、ただ日本らしくつくることはできても、そのワンランク上の格好良さをつくることは、非常に難しいことだと思います。私は、日本について、日本の“らしさ”について、徹底して皆さまと共に考えることが、これからの街をつくる礎になると考えています。
しかし日本らしく、だけではスペシャルになりません。皆さまと一緒に築き上げるビジョンと立地の掛け算で、やっとオンリーワンの存在になれる。そして、そこに競争はありません。地域間、国家間、大陸間で競争していては、ハッピーとは言えません。現在のマーケットベースに考えがちな、都市間競争や施設間競争などの「競争」という考え方を変え、よりポジティブに楽しくプロジェクトを創造・推進していきたい、と考えています。
最後に、施設やまちづくりは「誰が」「どこに」「誰に対して」つくるか、その「ビジョンとポテンシャル、対象の組み合わせ」によって、必ず地球上でただ一つの価値を持つものになると信じています。今年も皆さまと共に考え抜いていきたい所存です。どうぞよろしくお願いいたします。