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公共工事の発注システム変革 公共工事の発注システム変革

発注システムに求められる社会的価値とは。 はじめに

かつて、建築家菊竹清訓が「か・かた・かたち」という理論を唱えた。「か」とは理念や社会・背景であり、「かた」とはこれにより導かれる方法論・システムのことで、「かた」により「かたち」が生み出されるという(※1)。多くの解釈が伝えられているが、日本建築の“ 解体と再構築”という伝統的な方法論を大切に現代建築を設計していこうという彼の設計思想だと理解している。特に「かた(方法論)」について、社会全体の質を向上させていくことの意義を感じていたことはおそらく間違いない。私がここから学ぶのは、発注方式は建築生産システムという「かた」の大切な要素だということと、公共建築の発注方式を考える際にその社会的重要性を忘れてはならないということである。
本稿では、社会ストックや公共投資の実情から、After3.11の公共工事発注システムに求められる『新しい価値』について模索していきたいと考えている。

※1 代謝建築論:か・かた・かたち/菊竹清訓著

「か(社会・背景)」の変遷

旧来の入札契約制度は、右肩上がりの高度経済成長と護送船団方式とにあと押しされ官民が成長を続けるという「か(社会・背景)」の元に成り立ってきた。ところが現在のような建設業界全体の収益性の低下と過剰供給構造という「か」の元では、一定の役割を果たすものの、様々な課題が噴出してきている。そこでまずは求められる理念や根底を流れる共通項を探るためにも、現代の公共事業とその発注を取り巻く環境を知ることから始めたい。

(1)公共投資削減により発注者担当の不足も深刻化
公共投資の減少に伴い発注者サイドの人員が削減されており、事前の検証が不足し、必要な作業が滞ることがある。

(2)発注方式への透明性確保
公共工事の発注は今なお負のイメージを払拭しきれず、国民の納める税金が適正な計画に対し適正な金額で使われているかがなかなかイメージできない。

(3)柔軟な事業構築への展開
公共工事の発注方式は多様なニーズに対応すべく進化している(Before3.11参照)。今後さらに、個別プロジェクトに適応した柔軟な事業構築や発注方式の立案が求められてくる。

(4)維持修繕時代への適切な対応
昨年12月中央自動車道笹子トンネルで天井板が落下した事故は、社会インフラの多くが維持修繕段階に対応できていないことの氷山の一角と考えられる。

(5)地方建設会社の厳しい状況
大手ゼネコンの地方参入、過剰な競争、都市への人と資本の集中など地方企業の健全経営には多くの課題がある。有事の際の地域維持における大切な役割に不安が生じている。

Before3.11

ここで、これまでの公共建築発注システムの変遷に少し触れておきたい。

公共工事では、施工の信頼性を確保する観点から指名競争入札方式が原則とされてきた。しかし、発注者が候補業者を選定する際に恣意性が介在する余地が広く、候補業者数が限られてしまう場合も多い。平成6年度以降、受発注双方に対する公正性・透明性の向上を目的に、一般競争入札方式の採用や指名競争入札方式の改善が行われてきた(※2)。平成10年度には更なる改善のため入札時VE 方式や設計・施工一括発注方式、技術提案総合評価方式など(※3)が試行され、平成12年11月の「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」公布につながる。平成24年6月の国交省、総務省、財務省の発表(※4)によると、一般競争入札方式は都道府県や指定都市の100%、市区町村においても約70%の団体で導入されている。総合評価方式も同様に、100%、60%強の団体で導入されているという浸透状況であり、入札契約制度の適正化(透明性・公正競争・不正排除)という当初の目的は達成されつつあるのかもしれない。近年では藤沢市民病院再整備事業において「設計施工一括発注・公募型プロポーザル」という総合工事会社と設計者のコンソーシアムで公募する(※5)方式など、発注方式の多様化が現れており、発注者が事業最適化のために既成概念に捉われない方式を検討していることが分かる。
「…では、建設産業は健全に成長しているのだろうか?」

建設業はかつて、国内総生産の2割弱に相当する建設投資を担うとともに、全就業人口の約1割を擁する日本の社会資本整備の担い手として重要な役割を果たしてきた。ところが現在、改革急務という大きな局面に立たされている。特に就業人口推移については顕著である。建設投資がピークの平成4年度と比べ新規就業者が50%以上減少(※6)し、ここ10年で55才以上の割合が10%以上増加した業界高齢化の影響は重い。人材を確保し技術の途絶にいかに対応できるかが企業の生き残り、建設産業健全化の命題となってきている。

暫定的なものと恒久的なもの

昨年7月、国交省より「建設産業の再生と発展のための方策2012~「方策2011」を実現し、東日本大震災を乗り越えて未来を拓く~」が提示された。将来の建設産業のために優先的に取り組むべき課題と、当面講ずべき対策に分類されている(※7)。これは日頃の業務の中で感じていることとシンクロするのだが、「3.11であらゆるものの価値観が揺れ動いている今、冷静に、暫定的なものと恒久的なものを見極めなければならない。」のではないか。震災の復旧を速やかに進めるための発注方式の中から恒久的な何かをくみ取ることが重要なのであろう。

After3.11

方策2012の課題3「多様な発注方式の導入」について検証する。
(1)公正な取引関係を構築する
(2)建設企業が新たなニーズに対応していく
(3)発注者(特に地方公共団体)を支援するという3つのねらいの元、様々な契約や調達について議論されている。注目したいのは、「新たな事業ニーズに対応した契約方式」として挙げられている日本型CM 方式である。これは調査・設計・施工・マネジメント業務を一括してCMr に発注するという仕組み(※8):下図で、現在東北での復興まちづくり事業をモデル事業として推進されている。CMr が事業全体を請けることとなるため、大手の建設会社が選定されている。
初見の際、この体制に違和感を覚えた。スピードが求められる復旧・復興に関する発注において担当者の負担とリスクを軽減させることは大切ではあるが、本当の意味で第三者になりきれない立場のCM 会社によるマネジメントは暫定的な発注システムに過ぎない、と受け止めたからである。しかし前述のように「恒久的な発注方式として取り入れるべき手法はないか」と考えれば高評価に値する。なぜなら
(1)企画段階でノウハウを持ったCM 会社が個別案件に応じた事業の枠組みを構築できる
(2)発注段階でタイミングを見定めた円滑な発注・契約が推進できる
(3)設計・工事段階で最新の知見で妥当性評価が行えるの
3点はこれからの公共事業において、非常に重要な要素だと考えるからである。これまで民間プロジェクトなどで積み上げられたノウハウは様々な課題解決に役立てることができよう。一方で、発注者が更なる透明性を求める場合は業務監査やピュアCM(※9)の必要性も検討すべき、という課題も挙げておきたい。
公共事業の背景や課題を調べているうちに、
◎ 伝統的な日本人のものづくり精神
◎ 3.11直後の冷静な対応に現れた民族性
◎ 日本の設計者や施工者の持つ世界有数の技術力
などが絡み合って日本の建設産業の根幹を支えていることに気付かされた。そして、これこそが現在の日本の「か(社会・背景)」であり、これに導かれる「かた」とは、『慣習に縛られず、建設業界の各社が持つ力を存分に発揮できる、創造的な仕組みづくりではないか。』との思いに至った。

おわりに

After3.11における公共工事の発注システムに求められるのは「創造的な仕組みと柔軟な型の構築」なのだと思う。その中でおそらくCM 会社は重要な役割を担う。執筆を通じて、「私たちCMrの視線の先には常に目指すべき社会的価値がなければならない」ということを改めて教えられた。
山下PMC はこれからも社会改善の潮流に一石を投じて行きたいと考えている。