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ロジカルなホテルデザインと企画 〈前篇〉 ロジカルなホテルデザインと企画 〈前篇〉

「ロジカルでない建築デザインに今日性はない」

※参考文献1の帯に記されていた建築家・小嶋一浩氏の言葉です。

ロジカルな建築デザインとは何なのでしょうか?プロにしかわからないような、もしくは非常にマニアックな小難しいロジック、ということであれば、私は全く興味がありません。

私は、美しく快適な空間、洗練されたディテール、五感で感じる魅力なシーン、これらは全て建築の必要条件であって十分条件ではないと考えています。なぜなら、これらの条件は誰を主役とし何を目的とするシナリオなのかによって、客観的にも主観的にも解が異なるからです。つまり、ロジカルなデザインとは、「シナリオに基づき、これによって導かれる美しい建築デザインである」と私は考えます。

デザインとは何か?

ホテルという用途におけるデザインは、それ自体が商品です。美しさを感じるか否かはあくまでも主観的であり、商品の購入者=顧客が「美しい」と感じないのであれば、他の世界中の人々がたとえ美しいと感じても商品としての価値は認められません。しかし、ロジカルなデザインという言葉からは客観性が感じられます。「デザイン」とはいったい何なのでしょうか?まずはこの疑問から紐解いていきたいと思います。

イメージ

de・sign【dizain】 vt (1) …を設計[立案]する;〈絵画などの〉下絵を描く、〈意匠の〉図案を描く (2) …を予定する、当てる (3) …をもくろむ、企てる—— n (1) (形式・構造などの)略図、見取り図、設計図;(絵などの)構図 (2) [U] 意匠、図案、デザイン;[C] 模様;[U] 意匠術、図案法、構想法 (3) 美術作品 (4) 仕組み、構造(e プログレッシブ英和中辞典より 一部抜粋)デザイン【desi gn】[名](スル)(1) 建築・工業製品・服飾・商業美術などの分野で、実用面などを考慮して造形作品を意匠すること。 (2) 図案や模様を考案すること。また、そのもの。 (3) 目的をもって具体的に立案・設計すること。(大辞林より 一部抜粋)

デザインという言葉は、英語であれ、日本語であれ大きく2つの意味を持っています。一つは、設計をする、図案を描くといった動詞。そしてもう一つは、その行為から生み出されるモノ、コト、空間などの創作物を示す名詞。デザインとは何かを考えるとき、この双方の意を同時に捉えることが重要であり、同時にその双方を分けて認識することも必要です。そこで、その別を明確にするために、東京工業大学の藤井晴行准教授の論文を引用し、前者をデザインプロセス(design process)、後者をデザインプロダクト(design product)と呼ぶことにします。

建築におけるデザインプロセスとは、クライアントからの与条件及び法的条件を課題とし、これを解決し具現化するデザインプロダクトを創りだすための最適化行為にほかなりません。

デザインの目標とは何か?

イメージ建築デザインとは与条件を課題とする最適化行為とそれによる創作物である、としたとき、具体的にはいったい何を最適化するのでしょうか?言いかえれば、クライアントの与条件とは何を指すのでしょうか?
クライアントの与条件とは、敷地の特定、建物の用途、規模、事業のコンセプト、Quality:品質・機能・性能、Cost:予算、Delivery:納期、Service:経営・運営方針(誰が、どのような目的でこの建物を利用するのか。誰が、誰に対し、どのようなサービスを提供し、どのような収支計画に基づく事業を行うのか、など)の一切を含みます。
つまり、デザインプロダクトの目標とは、クライアントの示す理想解に対し可能な限り近似解を持つデザインプロダクトの創出であり、デザインプロセスの目標とは、デザイナーの経験、知識、感性などを基に、理想近似解を可能な限り効率的に選択し創造していくことにあります。

この理想解こそが「シナリオ」であり、デザイン目標の達成度を測る評価軸ともなります。よって、クライアントからこれが明確に示されなければ、デザイナーはトライ&エラーを繰り返し、かつクライアントにとっても満足するデザインプロダクトを得られない、という切ない結果を招くことになります。一昔前までは、デザイナーはクライアントと以心伝心であることを理想とし、クライアントはデザイナーと一心同体となることを自らに強要してきました。しかし、時代の要請は既にデザイナーの自分勝手な自意識を粉砕しています。クライアントは自らの忍耐の開放とロジカルなデザインを得ることと引き換えに、「シナリオ」の提供を義務付けられた、と言い換えてもよいかもしれません。

デザインは誰のためにあるのか?

イメージ次に、デザインは誰のためにあるのか、を考えます。「デザインはデザイナーのためにある」とは、どんなに自己顕示欲の強いデザイナーでも昨今口にすることはないでしょう。(真に理解をしているか否かに疑問は残りますが。)

デザインプロセスについては当然にクライアントのため、ということになります。では、デザインプロダクトは誰のためにあるのでしょうか?

広義の意味では、事業コンセプトと経営・運営方針を掲げるクライアントのためですが、クライアントのために存在するためには、実際にデザインプロダクトを利用する人(以下「プロダクトユーザー」と呼びます)のために存在してこそ、と考えるのが自然でしょう。よって、シナリオの主役は、あくまでもプロダクトユーザーであるべきです。

ホテルのシナリオライティング

イメージ クライアントを代行して建設プロジェクトのマネジメントを行う私たちにとって、シナリオライティングは最も重要な業務のひとつです。プロジェクトの成否は全てこのシナリオライティングにかかっていると言っても過言ではありません。

シナリオとは、つまりはプロダクトユーザーの立場で丁寧に作成されたシーン設定を、それに基づき組み立てられる設計与条件を意味します。
ホテルのシナリオを具体的に考えてみましょう。まず、規模やコンセプトに加え、建築予算は?いつ開業するのか?といった物理的かつ時間軸における与条件。 そして最も大切なのが、ホテルサービスの方針です。

イメージフルサービスなのかセレクトサービス(宿泊特化など)なのか、客室数はどの程度必要なのか?ルームミックスは?顧客ターゲットはどういった人物で、どのような嗜好を持っているのか?顧客はこのホテルでどのような過ごし方をするのか?顧客に対し、どのようなサービスを行うのか?従業員の数は?客室の販売単価は?朝食の喫食率はどの程度を想定するのか?レストランの数はいくつ、何席必要か?バンケットの数とそれぞれの大きさは?婚礼は行うのか?チャペルは必要か?プールやフィットネスは?…。書き出したらきりがありませんが、このような条件を一つずつ積み重ねたものがホテルのシナリオであり、これを丁寧に紡ぎあげ最適化したものがホテルデザインプロダクトです。

次回は・・・。

ロジカルなホテルデザインは、シナリオによってもたらされます。次号、「ロジカルなホテルデザインと企画 - 後篇」では、ホテルの企画手法についてご紹介をする予定です。