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スマート化社会の到来 スマート化社会の到来

世の中全てスマート化?

世の中全てスマート化? 最近“ スマート”という言葉があちらこちらで氾濫している感があります。スマートグリッドから始まってスマートフォンにスマートハウス、スマートコミュニティやスマートシティ…。何でも“スマート” を付けないと新しさが感じられない時代になってしまいました。“スマート”を辞書で調べるといろいろな意味が載っていますが、概ねスマートフォンやスマートグリッドなどとして用いられる意味するところは、「〈機械などが〉スマートな:コンピュータ制御により状況に応じた対応をする」に加え、「無駄な部分を削ぎ落とす」「効率化を図る」などや「省力・自動・高速・多機能・全体最適化」といったところでしょう。

また、スマート×○○の組合せをいろいろ考えてみると、ビルディング・カー(車)・バイク・ロボット…など人工物や工業製品には、しっくりくるような気がしますが、“ スマートコミュニティ” や“ スマートタウン” などは機器単位だけでなく、「エネルギー」「情報」「交通」など面的な広がりやインフラを含む全体システムの概念を示しています。

加速化するスマートグリッド

東日本大震災による広域災害やその後の原子力発電所事故以降、大規模発電所を中心とした電力送配網の弱点が露呈したことで、分散化電源を有効活用する“ スマートグリッド” の考え方は重要性が増してきています。先進国日本において電力供給が大規模に停止し、計画停電が実施されるなど、だれも想定できなかったでしょう。これら“ 電力クライシス” によって、より早く、より高付加価値を求められることになった“ スマートグリッド”という仕組みが、これから日本の社会システムを大きく転換していくと予想されます。

現在の大規模発電所とその送配電網は、発電した電力を最終消費地へ届けるために一次エネルギー(石油・ガス・原子力)の約2/3を熱として未利用のまま捨ててしまっているという問題があります。これをオンサイトの分散型電源によりエネルギーの有効利用化することが、本来スマートグリッドの最も基本的な目的の一つでした。

このスマートグリッドにおける技術的な難しさとしては、電力には“ 電圧”と“ 周波数” がありそれらが常にある一定の範囲内に安定して供給されなければならないということが挙げられます。電力会社の大きな発電装置により、電力消費地へ向けて一方的に電力を供給するだけであれば、一元的なコントロールができます。しかし、今後は業務施設や各家庭などが、太陽光パネルなどの“小さな発電所”機能も有することになるため、スマート化された各々末端側機器との双方向の通信と制御が非常に重要になっていきます。

スマートグリッド事業の価値転換

スマートグリッドが今後更に普及するには、ICT を利用してリアルタイムで電力監視(見えない価値を可視化してマネジメント)することで、きめ細かく電力料金へ反映する(ピーク電力を削減するために、電力供給能力を超えそうになったら電気料金を高く、深夜電力をより安くするなどの)インセンティブや電力買取制度(※1)の実施、自然エネルギーで生産された電力には多少のコストを負担してもよいという、賢く“ 生産と消費”を行う環境意識が高い利用者の行動などをうまく利用することが重要でしょう。

また、スマートグリッドに関連して考える必要がある“ 電力自由化” や“ 発送電分離” を議論する場合、ヨーロッパや米国で発生した大規模停電(※2)のリスクが増大する負の面もあります。しかし、バックアップの考え方などは“ 最終消費者が自己責任のもとリスクマネジメントする”という原則に立てば、発電事業者を選択できる優位性、自由な電力市場の創生(※3)、新しい技術の開発、アグリゲーター(※4)など新しい事業価値を見出す者のビジネスチャンスが広がるメリットの方が大きいのではないでしょうか。
スマートグリッドがより高付加価値化することで、エネルギーネットワークの全体最適が実現されるはずです。

日本がスマート化するための価値転換

日本がスマート化するための価値転換 今後数十年間で日本が確実に直面する近未来を、私たちは直視しなくてはなりません。特に日本の少子高齢化は、今後中国など新興国を含めて遭遇する先進国共通の流れになっていて、日本が他国の近未来に先駆けているとも言えます。昔は日本にとって米国が日本の近未来でしたが、ICT の進展により情報の即時性が高まり、先進性という意味で時間差が無くなり世界が少しずつ均質化してきています。つまり、目指すべき模範国が無い状態であるため、変化に対し受動的に反応するだけでは私たちは前に進むことができなくなりました。

資源・エネルギーの観点では、輸入費用の増大が避けられないため、少資源国日本がとるべき戦略は海洋資源や海洋発電(海上風力・海水温度差発電・潮力発電)など、陸・海シームレスなスマートグリッド化でしょう。シェールガス・メタンハイドレート(※5)などの産出コストが下がることにより、今後数十年間は天然ガスが優位になるかもしれません。夜間も連続して発電し続けなければならない原子力発電が削減されると同時に、リチウムイオンなどの高効率蓄電池の低価格化や長寿命化、起動停止(発電の開始や停止を繰り返すこと)が容易な燃料電池が発達していくと、電力の需給ギャップ(昼と夜の需要差)は縮小するので、比較的小さな発電所だけで安定したスマートグリッドが構築できる可能性が高まります。

また、レアメタル・レアアース価格の高騰から、都市鉱山の利用促進・リサイクルなどは、製品の段階から全ての端末などに使用されている微量の貴重資源を把握するICT システムが必要になるでしょう。
日本の社会保障費が増大し続け、優良企業の海外移転により経常赤字国へ転落し、国債価格などが暴落すればスマートグリッドのための新しい投資はおろか、今まで蓄積した社会インフラの修繕まで滞ってしまいます。

しかし、例えば健康管理が容易にできるICT技術(スマートフォン利用など)で病気に至る前の予防医療の充実や、各人の医療情報の一元管理(クラウド化)することで、患者さんのどこでもカルテ化(※6)が進めば、重複していた医療事務が簡素化され社会保障費が削減できるかもしれません。将来的に公共投資の削減は避けられないため、地方はより“集約化(スマートコンパクト)”され、都市部は更なる“ 集積化(スマートインテグレーション)” が必要になるでしょう。

スマート化のための価値創造

これまで私たちはビジネスの外的環境変化に順応してきたわけですが、これからは単に受身の反応ではなく、変化創造型へ進化していく必要があるでしょう。見えない価値に気付き、その価値を可視化することで、多くの人々がそれを認め れば事業価値があると判断されます。節電意識の高まりとともに、駅などで見かける電力供給余力の表示や、スマートフォンへの緊急節電表示など、ICT を利用した“ 見える化” システムもその可視化の一つです。また、大きな情報量を伝送するためには、電波の伝わり方を考慮した上で、限られた電波資源(周波数帯)をより効率的に利用(再分配)(※7)する必要もあります。

スマート化のための価値創造 更に、スマートグリッドでは電力の生産地と消費地が直接つながる仕組みが重要であるともいえます。これがエネルギー・水・都市交通・住宅などのスマート化された情報ネットワークにより実現するためには、さまざまなプレーヤによる異業 種参画とコラボレーション、技術革新による相乗効果が必要です。労働集約的な事業は最終消費者のいる新興国へ移動しますが、変化を創造するための新しい価値事業は、これからの日本を救うことになるのではないでしょうか。
スマート化社会の到来で、私たちには既存技術から最新技術まで、うまくつなげて使いこなすスマートさが求められるでしょう。でも、それは一面であって、全てを“ スマート化” する必要はありません。生活にゆとりがあり、リダンダント(冗長的・余分な)な部分があって初めて、偶発性による「感動」や「魅力」が生まれてくることも多いはず。私たちが「幸せ」になるために、“スマー ト化社会” をうまく利用していければ楽しい未来が開けるような気がします。

【注釈】
※1:再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付ける制度
※2:2006年欧州広域停電・2001年米国カリフォルニア電力危機・2003年北米大停電など
※3:発電部門と小売り部門で市場参入規制を緩和した競争を促すための電力取引市場
※4:電力需要家と市場の仲介者。市場関連サービスの最適化を行う
※5:シェールガス:岩石層(シェール層)に含まれる天然ガス
メタンハイドレート:低温かつ高圧下の水分子内部のメタンガス
※6:患者さんがどこへ移動しても必要に応じて自身のカルテ情報に安全にアクセスできるクラウドコンピューティングを利用したシステム
※7:総務省“ 電波新産業創出戦略” による
【参考資料】
○ 日経ビジネス・電設技術・総務省ホームページ