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日刊建設工業新聞連載「所論諸論」

ものづくり魂あふれる職人達の躍動を

ものづくり魂あふれる職人達の躍動を 代表取締役社長 社長執行役員 川原 秀仁

 2020年、東京にオリンピックが再びやってくる。建設業界はおろか、日本の社会や経済全体に与える好影響は計り知れないものがあるだろう。東京決定の瞬間の映像にも象徴されるように、本当に日本全体の機運を上向きにさせる朗報であった。アベノミクス4本目の矢とはよくいったものである。1964年の東京オリンピックは、欧米へのあこがれや劣等感を抱く敗戦国だった日本が、誇りを取り戻し経済復興を高らかに宣言したイベントだった。これに対し2020年は、成熟先進国としての魅力的な日本の姿や、東日本大震災の悲劇を克服して復興を成し遂げた姿を、世界の人々に披露する機会であってほしいものだ。

 ただご承知のとおり、この状況に対処するための建設業界における課題は少なくない。今回は建設産業の担い手が窮地に立たされている問題を取り上げてみたい。長く続いた不況の影響で、建設生産の最後の部分を支える人々が離職を余儀なくされている。特に職人と呼ばれる熟練労働者の減少が著しい。高齢化が進み、彼らの離職後の復帰が望めなくなったのである。若年層の新規参入も一向に進まない。やはり薄給と3K(きつい、きたない、危険)というのがその大きな理由だろう。

 ではどうすればこの状況が改善されるのだろうか?

 一定の賃金アップは当然必要だろうが、過度な状況では今後の事業自体が成り立たなくなる。それにも増して重要なことは、彼ら職人に光をあて、社会的地位を上げ、賞賛の目を向けることではないだろうか。

 国内の食の世界をのぞいてみると、たとえ一流のシェフや料理人であっても、20年ほど前までは決して地位の高い花形職業とはみなされていなかった。ところが現在はどうだろう。食にまつわる考え方や文化が発展したこともあり、一流の人達は尊敬され賞賛をあびる存在に引き上げられたのではないだろうか。これは社会的制度の改正によってもたらされたのではなく、マンガの「美味しんぼ」、映画の「たんぽぽ」、テレビ番組の「料理の鉄人」などの和製ポップカルチャーによってもたらされたものであることに他ならない。

 もうひとつは世界に名高いスイスの時計職人の話であるが、彼らも1990年頃までは日本のクォーツ時計旋風によって一旦は壊滅的状況にまで陥れられた。しかしスウォッチやラグジュアリー製品に市場目標を切り替えて、職人の育成保護制度を国を挙げて整備したことで、現在では逆に彼らの製品が再び世界を席捲している状況である。これは国家的な戦略と制度設計が非常にうまくいった好例であろう。

 だから、食や時計の世界で起こった変化を建設職人の世界でも意識的に起こせばいいのである。たとえば、職人の熟練度によってヒエラルキー制度を構築し、その頂点の人達には高い地位と惜しみない賞賛、これに見合った報酬を用意する。この域に憧れこの域に達するように、下部の人達は切磋琢磨してそこを目指す。さらにこれらの象徴を色々な形のポップカルチャーにのせて、広く人々の抱く通念の中に浸透させる。硬軟を垣根なく組み合わせ、クールジャパン的概念の拡がりによって職人や作業員の人達にスポットライトをあてる。これが社会変革を起こし若年層の参画を促す最良の方法だと思われる。

 今回のオリンピック招致が官民総力をあげてのオールジャパンで勝ち取った成果であることは誰の目にも明らかである。この総力を結集して得たやり方を取り入れればよい。ものづくり魂あふれる職人達が躍動した「証」によって、世界の人々を迎えたいものである。

本記事は、日刊建設工業新聞 2013年10月10日に掲載されました。掲載元の許可を得て、掲載しています。
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