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CRE戦略マガジン

日刊建設工業新聞連載「所論諸論」

「ものづくり」から「営みづくり」へ進化

”モノづくり”から”営みづくり”へ 代表取締役社長 社長執行役員 川原秀仁

 近年になって、事業用建物(住宅を除くほとんどの建物)における建設プロジェクトの推進手法は大きな変化をみせている。といっても、今回はテクノロジーやツールの話ではなく、大きな意味での仕事の進め方の話である。事業および事業運営そのものと施設(建物)および施設(建物)運営そのものが、より緊密度を深めて統合させることを要求されるようになったのである。CRE/PRE戦略の急速な浸透もあり、事業者(私たちから見た発注者)の意識が覚醒と言ってもよいほどの急変を果たしたのがその要因である。

 本来、事業の目的は「利益」を上げ続けていくことにある。事業者は、利益を上げ続けるための事業手法を創り出して事業化を図り、事業運営を通して、収入をより増やし、支出を適切に抑える方法を常に考え続けている。そして、そうして得た資産をさらに有効に活用しようと考え実行する。当然、これらは前者が損益計算書(PL)、後者が貸借対照表(BS)に直結することになる。この活動を達成するための場と機能、それが建物(施設)であり建物(施設)運営である。

 この至極当然の考え方を、事業者はより強固に認識するようになったのである。そうしなければ事業や企業が存続できない社会が到来した、という背景の影響も大きい。もちろん、建物づくりは資産を形成するのであるから、経済的側面での充足だけではなく、雇用を生み出し、視覚的・空間的魅力を持ち、自然や街並みと親和し、環境にできるだけ負担をかけない、社会的価値を長期にわたって叶える存在でありたい、という命題にもより注力され、現実的達成に向けて取り組まれるようにもなった。

 それでは、これまでの建物づくりでこのような考え方と作業があたり前のように行われてきたか? 読者のみなさんにも心当たりはあるかもしれないが、必ずしもそうとは言い切れない。

 確かに様々な業種における様々な用途の建物づくりは、その事業領域と建築領域の間に大きな隔たりが存在した。領域の違いで、従事する人々も取り交わされる用語も考え方や着眼点に至るまで、お互い相容れない形で計画が進行するケースも少なくなかった。加えて、建築技術者には財務会計的概念に疎い人達も多く、建物づくりがPLやBSに直結するという発想にも乏しかった。しかし、近年ではその間を自由に横断するようなマネジメント技術の発達により、この隔たりは加速度的に解消に向かおうとしている。

 他の業種での変化はもっと顕著である。iPodやiPhoneに代表されるようなアップル製品は、ハードとしての製品(モノ)自体が洗練されていて、しかもソリッドでとてもカッコいい。しかし凄さの本質はこれらを司るiTuneシステムというソフトにこそある。大量の音像・映像をはじめとするあらゆる情報を瞬時に移動させ、思いのままに扱うことを可能にする。それを指先だけで簡単に操作し、自らの表現に変換できるのである。

 これを建物に置き換えると、ハードの見た目はカッコよくてあたり前、それよりも建物を自由に制御し、巨大な事業的価値をもたらすソフトとその融合に目を向けることがとても重要だということである。モノコック・ボディのように事業運営体と施設運営体が同体化し、全体が連動して作用するような世界を、何とかして創り出せないものだろうか。ぜひ、日本の得意分野を活用した、日本発によってこれを実現していきたいものだ。

 建物づくりには、単なるスローガンではなく、真の意味での"モノづくり"から"営みづくり"への変革が求められているのである。

本記事は、日刊建設工業新聞 2013年6月17日に掲載されました。掲載元の許可を得て、掲載しています。
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