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日刊建設工業新聞連載「所論諸論」

成熟経済・社会のトップランナーを好機に

成熟経済・社会のトップランナーを好機に 代表取締役社長 社長執行役員 川原 秀仁

 2013年初頭からアベノミクスが本格的に稼動を始めたこともあり、経済界にも何かご祝儀相場のような春が到来した雰囲気が感じられる今日この頃である。とはいえ、改めて日本という国を眺めてみた時、まず初めに見えてくるのは、日本はすでに成熟しきった先進国であり、GDPの視点からも今がピークの状態に近いという現実である。今後GDPが年5%以上の勢いで成長していくとは考えられないし、どんなにひいき目に見たところで年3%程度の成長を上限に推移していくというのが実際のところであろう。

 短期的な変動はどうであれ、長い目で見れば、少子高齢化と人口減少、それに硬直した社会構造などの大きな課題が立ちはだかっている中で、経済や社会を持続させていかなければならない環境下にある。そして好むと好まざるとに係わらず、私たちはグローバリゼーションの世界から逃れることはできない。迫りくる新興各国との熾烈な競争に晒され続けていくことからも避けられそうにはない。変化し続けていく世界情勢や環境条件に適応していかなければ、日本は安定的な先進国家としての地位を失う事態になりかねないことを十分認識する必要があるのである。

 一方で、日本は私たちが想像する以上に巨大な国家であり、世界に絶大な影響を与え続けていることもまぎれもない事実である。国富の大きさは言うに及ばず、対外債権の規模は世界で一番大きく、経済的・社会的なインフラの充実ぶりは世界に類を見ないレベルにまで達している。それに“高品質技術”を筆頭に、食・社会的民度の高さ・健康長寿・安全・芸術・景観、あるいはクールジャパンに代表されるようなコンテンツに至るまで、世界の人々を魅了し称賛されるアイテムで満ち溢れている。バブル崩壊以来、長く国内に蔓延してきたネガティブ思考が慢性化してしまって、これらの事象を疑って見てしまう習癖から抜け出せずにいたが、私たちはとてつもなく高い豊かさの水準を、知らず知らずのうちにあたり前に享受している、というのもまた偽りのない現実なのである。やっとここ数年、メディア等の覚醒によってこの認識も徐々に広まってきつつあることではあるが…。

 それでは、私たちは今後どのような方向に向かって進むべきなのだろうか。逃れることのできないグローバリゼーションにどのように向き合っていくべきなのだろうか。

 私ごときが論じる話ではないのかもしれないが、グローバリゼーションの特性を十分に咀嚼したうえで、やはりこの日本の良さ・得意技を活かし、これに創造の力を加えることで、新たな基軸を生み出して世界に普及するような経済モデルを輩出していく、というのがそのあり方ではないだろうか。創造の力は、なにも全く新しい製品やコンテンツを生み出すことだけではない。いくつもの業種と業種の先進技術、あるいは社会的規範の領域までを横断し、つなぎ、統合することによって得られる「トランス技術」もまた、立派な創造の力なのである。

 さらに、成熟経済・成熟社会をいち早く体現していると言う意味では、日本は間違いなく世界のトップランナーである。これを好機と捉え、これらの知見をもって新たな社会・経済モデルに立ち上げていくことも日本の大きな進化につながっていくはずだ。世界に誇るべき広範な資産を多数有する日本だからこそ、浴することのできるチャレンジの機会なのではないだろうか。

本記事は、日刊建設工業新聞 2013年4月10日に掲載されました。掲載元の許可を得て、掲載しています。
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