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日刊建設工業新聞連載「所論諸論」

日々のちょっとした工夫からイノベーション生まれる

日々のちょっとした工夫からイノベーション生まれる

 年度末に向けてもうすぐ完成しようとする建物の現場では、今まさに竣工図書類を取りまとめる段階に直面している人たちがきっと多いことだろう。現在の建物は、「資産管理」という意味でのハードルが非常に高くなり、その建物の出自に関する履歴が一昔前とは比べものにならないほど重要になっている。

 なぜか?は明白である。その履歴が、完成建物のその後の「資産価値」を決定付けるからである。そして、それは世界的な基準で判断され運用されていくことになる。国際会計基準(IFRS)の考え方が大きく影響しているのである。これはなにも売買や権利移動の対象になるような収益用途(テナントオフィスや賃貸マンションなど)の建物だけに限った話ではない。事業の目的で建てる建物すべてにおよぶ話なのである。

 建物履歴すなわち竣工図書類は、建物の「資産価値」を保持するための最重要情報であり、建物を運営していく上で最も頼りになる対応ツールである。言ってみればデューデリジェンス報告書のような位置づけなのである。

 国内でも2000年代に入って証券化の制度が始まり、建物を商品とした場合の価値判断をデューデリジェンスに求める商習慣が定着した。この動きに乗じるようにCREやPREにおいても同様の考え方が伝播(でんぱ)して、現在ではこの概念があたり前になっている。流行だからそうなった訳ではない。先に述べた国際会計基準に代表されるような、世界共通で価値水準を判断する手法が流入してきたからである。これらは国内の事業手法自体にも大きな影響を及ぼしているのである。

 それでは、この紙面から竣工図書類を取りまとめているみなさんに質問したい。このような考え方に基づいて資料や情報の分類構築がなされているだろうか? 従来の特記仕様書欄に記された提出図書一覧に従って取りまとめているだけではないだろうか? 竣工図書類には大きく三つの役割がある。請負契約(Contract)上の履歴、資産(Asset)としての履歴、運営管理(Management)を行うための履歴である。この3つのカテゴリーに整理区分けして発注者に明示するだけで、竣工図書類の価値は格段に上がる。

 工事監理報告書やCM業務報告書などは、時間軸のあるデューデリジェンス報告書として資産価値向上に最も寄与する図書なのである。さらに中央監視設備のBEMSやFMS機能が付いた建物では、この3区分と互換関係で繋(つな)がるようにしておけばCRE/PRE戦略やBCP戦略の実行を非常に容易なものに変えることができる。

 もう一つ資産価値向上の工夫をあげるとすれば、それは「設計説明書」の存在である。事業や建物に込めた想いや諸元あるいはプロセスを一目で理解できる便利なツールであるが、通常のプロジェクトでは基本設計段階までは活用されるものの、その後ないがしろにされ、完成の頃には使えなくなってしまうのが通例だ。完成後、竣工図だけを見てその狙いや目的を瞬時に解読するのは、どんな凄腕(すごうで)のプロでも困難である。だから、この説明書を途中で消滅させずに完成まで更新して竣工図書の一部とするのである。資産価値向上へのインパクトは絶大である。

 こういった日々のほんのちょっとした組み換えや工夫だけで、劇的な改善に繋がるようなイノベーションは生まれる。本来事業と施設建築が緊密に連携し合うカギは、実はこんな身近なところにも隠されているのである。早速トライしてみてはいかがだろうか。

本記事は、日刊建設工業新聞 2014年3月31日に掲載されました。掲載元の許可を得て、掲載しています。