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日刊建設工業新聞連載「所論諸論」

難問突破し、世界をリードする高品質社会へ

難問突破し、世界をリードする高品質社会へ

 建物品質とは何か? 職業柄か、物事の実体を定量的に示すことに執着するクセがなかなか抜けない。私たちの業界では建物品質のことがよく語られるが、「建物品質とは何か?」を的確に表現するのは結構難しい。実体を捉えにくい言葉だと思っている人が案外多かったりするのではないだろうか。

 二世代くらい前なら、建物仕様や出来形の仕上がり具合を意味する言葉だとすぐに即答できた。品質管理(QC、TQC)という言葉が一世を風靡していたころ、品質自体の定義づけが盛んに議論されていた。それが1996年の金融ビッグバンをきっかけに大きな変化を見せた。多様な資金調達・事業運営方式が登場し、中でも証券化手法による種々の事物を商品に仕立てる変換技術が飛躍的に発展したため、2000年代以降は建物品質もより広義に認識されるようになった。別に学術化されているわけではないので異論の余地もあるかもしれないが、主に四つの要素で表現される。ボリューム(面積)、スペック(仕様・出来形)、プラン(間取り・使い勝手)、デザイン(意匠)である。

 これには当然理由がある。売買を目的とする建物には、建物から利益を上げ続けることが求められる。利益=売上(数量×単価)-支出(経費)の単純式から、利益を上げるための手段は三つしかない。売上数量を上げるか、売上単価を上げるか、経費を下げるか、である。ボリュームは売上数量を上げ、スペックは売上単価を上げ、プランは経費を下げ、デザインは売上数量と売上単価の両方を上げる。この四つがそろえば当然資産価値も上がる。だから非常に解りやすい定量化指標で表現されていることになる。それでも、これらは建物自体から直接収入を得るような収益用途の建物を中心とした分野での考え方である。

 その後、リーマンショックを経てCRE戦略やPRE戦略が本格的に根付き出した現在では、建物品質の意味はますます広範な領域を包含するものへ変化しようとしている。それは、建物自体からよりも、むしろ建物の中で営まれる事業(本業)によって収益を生み出す用途で、特に顕著である。そこでは事業自体の品質を的確に投影し、建物品質と連動させて総合的に表現することが求められる。企業の経営戦略を読み、施設計画に盛り込むスキルを事業者は求めているのである。

 さらに直近では、まだ社会に存在していない創造的事業のようなものまで建物品質に落とし込まなげればならないほど、その領域は巨大化している。当初は工事施工領域を定義する程度のものから、設計を含めた建築生産領域、企画を含めた建築プロジェクト領域へと昇華し、突き詰めると経営戦略や事業創造までを包含した事業自体を定義する世界へと進化を繰り返しているのである。

 言ってしまえば、建物品質とは「建設生産から提供される成果品や運営サービスが、買い手側である事業者(顧客)の要求する特性と、どのくらい合致しているか?」の度合いである。だからそれは時代の変化や社会の要求に伴って、いかようにも変容する。

 そして、この定量化にはこれまでの建築学的解決手法だげでなく、フレームワーク手法やロジカルシンキング手法をはじめとする経営学(Business Administration)などの力を借りることも必要になってくる。それはやがて既存には存在しなかった新たなトランス工学を産み出すことにつながる。しかしこの難問を突破してこそ、世界をリードする高品質社会への道が開けるのである。社会はそれを待望している。

本記事は、日刊建設工業新聞 2014年3月6日に掲載されました。掲載元の許可を得て、掲載しています。
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