週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

経営課題を解決するファシリティ・
CRE戦略マガジン

日刊建設工業新聞連載「所論諸論」

全参画者が誇れるプロジェクト推進を

全参画者が誇れるプロジェクト推進を

 「フロント・ローディング」という業務推進手法が、建設業界の中で盛んに試みられている。これは、一般に製品開発のプロセスで業務の初期工程に負荷をかけて、全体の作業を前倒しで進める作業のことであり、できるだけ早い段階で多くの問題やリスクを洗い出してこれをつぶし、初期段階から計画精度を高めておこうというものである。

 現代の事業は、投資タイミングと時間との勝負である。企業の事業に限らず公共事業や役資ファンド事業などを含めて、現在は事業(プロジェクト)単位でその投資効果が判断される。持続的にその事業あるいはその施設を継続・存続させるために、その事業がいかに「賢明な投資」であるかにかかっている。そして、投資タイミングの旬はそれほど長くは続かない。中でも建設事業は、膨大な投資金額と作業時間を伴うために、成功を確実にする確かなプログラムと、事業にかかるリスクを高いレベルで回避・軽減できるような推進手法が強く求められる。そこで登場したのが、このフロント・ローディング手法である。

 現在、建設業界では、設計会社なら設計作業、建設会社なら設計に加え工事施工作業と、1社単位での前倒し作業はかなり進歩しつつある。それでも、プロジェクト全体を通してみると、計画がうまく進行しなかったり、手戻りが発生したりするケースが多くあることをよく耳にする。それは、発注行為などでプロジェクト推進母体が切り替わる際によく起こる。そこで、あえて私は提案したい。

 プロジェクトの最初から運営に繋ぐまでに必要な全ての作業を俯瞰した上で、自らの実践すべき作業を捉えていくことはできないだろうか。事業者(発注者)は、事業決定がなされると、それを1日でも早く実現化したいと思うものである。そして建設事業は、立場の違う様々な人たちが集結して、得意分野のパトンをリレーしながら目的物を構築していくものである。だから、建設事業のバリューチェーン全体をスムーズにリレーションしていく、という視点で自らの行動計画を振り返ってみることである。

 自らの前倒し作業が次工程を担う他のプレイヤーにどううまく繋がっていくか、という発想が重要なのである。そこでは利害が違う多岐にわたる者同士が、同じ時間と場を共有することになる。それが建設生産システムの宿命でもあるのだが、設計段階で生産計画や調達準備さらには運営準備などの仕事を同時並行的に処理していくコンカレント・エンジニアリングの考え方を、利害を越えた形で取り入れていくことはできないか。これを企画や設計にもフィードバックできれば、顧客満足度や完成品質をさらに向上させ、納期だって早くなる。

 この考え方で精度の高い目標を構築してフロント・ローディングがうまくいけば、たとえ発注等によって主体プレイヤーが変わったとしても、次工程のプレイヤーに最小効率で継承していくことができる。誰もが無駄な作業をしなくて済むし、誰もが懐を痛めなくて済む。実はこれが最良のコスト縮減手段なのである。そのお手本は自動車産業に代表される製造業にある。彼らは、開発・製造の過程で協力会社を含め無駄になるどんな些細なことでも削ぎ落としシェイプすることで、膨大な製造コスト削減と利益増を達成してきた。それに比べれば建設産業にはまだまだ改善と工夫の余地が残っている。

 発注者が喜び受注者も損をしない参画者全員が誇りに思えるプロジェクト推進手法は、「ジャパン・オリジナル」として世界に発信できる大きな可能性を秘めている。

本記事は、日刊建設工業新聞 2013年12月5日に掲載されました。掲載元の許可を得て、掲載しています。
掲載誌面については下記PDFからご覧ください。

pdfPDFはこちら