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いち早くクライアントの収益が望めるよう慣習を打ち破る「建設バリューチェーン再構築」を〈前編〉

クライアントにとって「本当に良い施設」を目指すには

真に「クライアントにとって良い施設」とは何か。皆さんはどう考えるでしょうか。設計図面通りにきっちり建てられたもの、コストを削減してリーズナブルに建てられたもの、短工期で建てられたものなど、いろんな条件を思い浮かべるかもしれません。その中で私が出した答えは「竣工後すぐ思ったとおりに運用できる施設」です。

新しい施設を造るとき、その場所におけるクライアントの事業はストップします。もちろん竣工後はさまざまなビジネスを展開し、ストップしていた期間の損失をカバーできるだけの計画があるからこそ新施設の建設に踏み切っているのでしょう。しかし、せっかく竣工してクライアントに建物を引き渡しても、スムーズに運用フェーズに移行できず狙いどおりの成果が出せなければ、その建物は思うような収益を上げる存在にならず、日ごとに損失が増えるばかりです。

逆に事業を企画してから運用までの一連期間をなるべく短くできたらどうでしょうか。クライアントは新施設を活用してすぐに収益を生み出し、事業を止めていた間の損失をいち早く回収することができます。建物はただ箱ができあがっただけでは「完成」ではありません。クライアントのビジネスに役立って初めて「完成」といえます。建築関係者はそのポイントを必ず押さえなければいけません。

しかし日本の建設業界では、この企画から運用までのプロセスに非常に時間がかかってしまうケースが多く見受けられます。私は、そのつまずきは長らく建築生産技術者側の論理でつくってきた慣習によるものだと考えています。設計や工事の現場で発生した変更や工夫について事業や施設運用者に伝える情報のチェーンが、ほとんど構築されていないのです。

今の建築フローで実現できない大きな理由

現在、建築プロジェクトの最後にクライアントに納められる成果品は2つです。1つは実建築物、もう1つは竣工図書類(竣工履歴)です。この竣工図書類にまつわる慣習がクライアントのスムーズな施設運用スタートを妨げています。

最終的な竣工図書類がまとめられる前にも、プロジェクトではさまざまな書面が行き交います。企画図書から始まり、基本設計図書のあとは実施設計図書、契約図書などがあります。ほとんどが紙ベースで作成され、特に実施設計図や生産設計図は建築の専門家でもすぐには理解できないほど複雑です。かろうじてクライアントが全体像を想像する手助けになるのが、視覚的でわかりやすい設計説明書ですが、途中経過の図書であり、竣工時の最終状態とは一致しない場合がほとんどです。

竣工図書類は、竣工引渡書、竣工図、工事費内訳書、各種CADやBIM(Building Information Modeling)データなどで構成されます。最終引渡品だけあって請負契約上の履歴や資産としての履歴、運営としての履歴などすべてが網羅されていますが、アナログとデジタルの情報が混在してわかりにくく、項目ごとに整理されているわけでもありません。

クライアントがこれらを渡されても、専門用語と数値の羅列から実建築物の状態を読み取って施設運用に活用するのはとても無理でしょう。建設業界の慣習として膨大なデータが手元に届きますが、ほとんどが使えない状態で放置されているのです。したがって、クライアントは実際に行われた設計や工事に至る詳しいプロセスや変更を知る機会がほとんどありません。竣工後に運用フェーズに移行するにも実建築物を把握する時間がかかり、収益を生み出すまでにタイムラグが生まれてしまうのです。

クライアントの間でも「従来の方法では無駄が多い」という声は増えてきました。同時に建設業界でも「改善しなければ」という機運が高まり、実際にプログラムを組んで竣工図書類の問題を解決している企業もあります。

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