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ビッグデータをベースにIoTで有効活用できる「コネクティッド・ファシリティ」の仕組みづくり

「コネクティッド・ファイシリティ」とは

私は常々、建築の世界から「コネクティッド・ファシリティ」という仕組みを作るべきだと考えています。これは私の造語です。
似たもので「コネクティッド・カー」という言葉なら聞いたことがある方は多いのではなないでしょうか。これは単に自動運転などによってクルマがインターネットにつながることだけを意味しているのではありません。ネットを通じて得たデータをIoTで活用し、さらにAIなどで自由なやり取りを発生させるという思想も含まれています。

山下PMC 川原

この技術のカギを握るのは膨大に得られるビッグデータです。ビッグデータの扱いを制御できた者が次の覇者になる———。その重要性は広く知られており、電力会社やICT関連企業など自動車分野以外のさまざまな企業が開発に参加しています。

「コネクティッド・カー」は自動車という製品をハブにして情報を集める仕組みですが、サービスの中であらゆる場所でユーザーとの接点を持ち、ビッグデータを吸い上げる「オムニチャネル」という仕組みを自社構築する企業も登場しました。
セブンイレブンなどを運営するセブン&アイホールディングスはその代表でしょう。世界にある数万店の実店舗情報、自社通販サイトからの情報など、日々膨大なデータを蓄積して彼らだけのビッグデータを作っています。
なぜ巨額の投資をして「オムニチャネル」を構築するか。それは、ビッグデータが明日のマーケティングにつながるからです。自社の蓄積データを使えば他社が真似できない独自マーケティングが可能になる。そのために今、企業を挙げて準備を進めているのです。

私は「ユーザーとあらゆる接点を持つ、接点からデータを吸い上げる、そのビッグデータを有効活用する」という仕組みは建築の世界でも実現できるのではないかと考えています。その思想を一言で表したのが「コネクティッド・ファシリティ」です。

コネクティッド・ファシリティイメージ

人が活動するときは、多かれ少なかれ施設や建物と関わります。出発時には自宅や宿泊地があり、移動時は交通機関の駅を使い、目的地にも施設や建物が存在する。
もし人々が施設や建物を利用する際に生まれるあらゆるデータを収集できたら、将来、そのデータを土台に未知のサービスやビジネスを構築できるかもしれないのです。


「コネクティッド・ファシリティ」で得られるメリット

データを重視する施設運営者は、すでにユーザー数や滞在時間、訪問目的などの情報は集約し始めています。どんな属性の人がどの時間に来て、何を買っていくのかという情報なら、POSレジや在庫情報などから収集できます。
しかし、私が提唱する「コネクティッド・ファシリティ」で得るデータは、もっと広範囲なものです。

たとえば、あるビルについて、固定資産としてどんな簿価になっているのか、財務会計上の情報もビッグデータに入ります。また、どんな設計手法と工法で、どのくらいの期間で誰が関わって建てたか、建築上の情報も大切です。
設置した設備がいつどんな状況のとき、どれほど活用されているのか、そのコストや稼働人員はどれくらいか、という運用の情報もあるでしょう。そのときの天候や交通状況なども情報です。このほか、目に見えないサービスの満足度、商圏とユーザー属性なども含めて、施設周辺ではありとあらゆる分野の情報が生まれています。

オムニチャネルイメージ

建築でも計画時に情報を集める仕組みを意識すれば、最新のビッグデータを収集する施設を造れます。施設を活用する「オムニチャネル」構築が可能なのです。
そして蓄積したビッグデータは適切に加工すれば経営分析や戦略作りに活用できます。私たちはその仕組みをシステム化・自動化することが急務だと提唱しているのです。

この構想が実現すれば、施設建設に関わる運営管理だけでなく、必要とされるモノやサービスの制御、そもそもの施設建築の設計や施工にかかる労力は大きく削減されます。
精度の高い情報で作り上げた施設は、完成後から数十年にわたって、さらに効率よく利益やメリットを生み出せるはずです。

あらゆるモノやサービスをつなぎ制御するIoT技術は、すでに多くの分野・業界で注目されています。その中で建設業界だけが取り残されてもよいのでしょうか。
技術の黎明期である今だからこそ、また人・モノ・コトと絶対に切り離せない施設を扱うからこそ、「コネクティッド・ファシリティ」を念頭に置いた早急な基盤作りが求められると考えています。

日本発の技術として、世界をうるおす可能性がある

資産や建物の新しい管理や計画で活躍するのは、モノをつなぐIoT技術であり、自ら考えて判断するAIでしょう。これら新しい技術の流入について、まさに「第4次産業革命」と言ってよいと考えます。世界に与えるインパクトはやはり革命的だからです。

iTunesイメージ

業界の現状を見ると、ひょっとしたら「コネクティッド・ファシリティ」の実現は夢のようだと感じる人もいるかもしれません。たしかに設計・施工のプロセスでは未だ基本的なデータ化が行き届いておらず、今ある施設状況をデータで把握するのは難しい状態です。
でも1つでも具現化できた例があれば、それを見て人々の考え方が大きく変わり、一気に推進できる可能性があります。
たとえばアップル社が構築したiTunesのシステムはどうでしょうか。できる前は荒唐無稽に見えたとしても、実際に音楽や映像のプラットホームとして機能するのを知って「これは便利だ」と多くの人が理解しました。

私が考える「コネクティッド・ファシリティ」も同じです。
誰もが日々利用している施設たちを巨大な情報プラットホームと捉え、IoTやセンシング技術を応用してデータを蓄積し、ビッグデータを分析して1つでも劇的な効率化を実現させたら、状況は一変すると思います。

私にはもう1つ、「コネクティッド・ファシリティ」に想う未来があります。この手法を日本の技術として世界に発信し、世界中がうるおうという未来です。
Googleは革新的な技術と設計思想で世界中を変えました。Googleの技術は人々の発想を刺激して、いくつもの新しいサービスが生まれました。「コネクティッド・ファシリティ」にもその力が秘められていると考えます。
施設を単なる「モノ」ではなく情報が集まる「場」として考えられれば、人と施設の新しい関係が発見されるはずです。

取材・文/丘村奈央子、撮影/末安善之