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スポーツビジネスの限りないポテンシャル〈後編〉

健康長寿社会の日本らしいスポーツ文化とは

「世界で最も早く高齢化社会に突入する日本が、健康長寿社会をめざしたスポーツ文化を育むのは義務みたいなものではないでしょうか」

前編「地域密着型スポーツ産業が拓く、PRE活用の道」では、プロスポーツを産業として根付かせる動きと、公共施設の維持管理との融合を図る道を探った。後編では、個人で楽しむアマチュアスポーツに焦点を当て、少子高齢化社会の課題解決策としての可能性を考える。

健康長寿社会をめざしたアマチュアスポーツ文化の育成を

−健康志向の今、個人でスポーツを楽しむ人も増えてきました。

スポーツのもう一つの可能性として、少子高齢化対策という日本の大きな課題があります。今の日本の保険制度は基本的に、医療・介護サービスを受けた人に補助が出るしくみです。でも本当は、医療・介護サービスを受けずに暮らしていける元気な高齢者が増えれば、そのほうが効率的ですよね。

スポーツ振興はその手段の一つとして注目されるべきものだと思います。世界で最も早く高齢化社会に突入する日本が、健康長寿社会をめざしたスポーツ文化を育むのはむしろ義務みたいなものではないでしょうか。

−たしかに、予防医学としてのアマチュアスポーツはもっと普及してもいい気がします。

病気を防いで元気な高齢者を増やそうという動きは、制度にも予兆が現れています。手始めに、2017年には地域医療連携推進法人制度が施行されます。これにより地域内で連携した複数の病院や介護施設の間で、病床数のやりとりや、一体的な経営が可能になります。これまで交わることのなかった医療事業と介護事業が融合する第一歩となる、画期的な制度です。

医療・介護制度改革が進めば、医療とスポーツが融合した予防医学的
なスポーツビジネスの可能性も広がる

医療・介護制度はこれを皮切りに、隣接分野であるスポーツ振興事業や健康増進事業なども融合されうる、柔軟な方向に変化していくだろうと予想しています。そうなれば、医師の指導を受けながら自分に合った運動を無理なく続けるといったような、予防医学の視点を含んだアマチュアスポーツ文化ももっと浸透しやすくなるでしょう。

さらに医療・介護の隣接分野としてほかにも観光、保育・教育、娯楽などがありますが、それらと医療・介護とがインテグレート(統合・集約)するビジネスも、今後必ず社会から要請されることになると思います。

心からスポーツを楽しむ“fun to sports”の精神を学校教育にも

−健康にいいのはわかるけど運動は嫌いという人や、スポーツの習慣がないという人もいます。

生涯スポーツの文化を育むために障害になってるのは、やはり「スポーツ=体育」という日本に深く根ざしている固定観念だと感じています。体育は、体を鍛錬し健康にすることを目的として教育制度の中におかれてきました。そこにはスポーツを心から楽しむ、いわば“fun to sports”という視点はあまり入っていなかったと思います。

私は高1の時にサーフィンに夢中になって、高校の陸上部を早々に辞めました。サーフィンだって非常にきついスポーツにはちがいないのですが、楽しくて仕方がないことをとことん追求することができました。上下関係もあるにはあるのですが、年齢問わずいろいろな人と交流できるのも楽しかったです。この経験が私の中深くにあるんですね。

学校教育に「好きなスポーツを心から楽しむ」視点を取り入れる
こともスポーツ文化の醸成には必要

日本人は何かを極めるとなると、すぐ「○○道」にしてしまいがちです。それは日本の長所ではあるのですが、同時に“fun to sports”の精神を広げることも、学校教育において大切ではないかと思います。何かを心から楽しむという感覚が、生活を楽しむ、さらには社会を楽しむことにもつながっていくのではないかという気がしているんですよ。

−自分で楽しむ人が増えればスポーツファンが増えて、前編のテーマであるプロスポーツの定着にもつながりそうです。

個人で楽しむアマチュアスポーツとプロスポーツとをどう融合させていくかは、各競技の今後の課題です。それによってスポーツビジネスのあり方も変わっていくのではないでしょうか。

欧州サッカーの強豪クラブチームの運営方法を見ると、チームを強化して世界から注目され、巨額のお金を集められる存在になることをめざす一方で、クラブユースを通じて広く選手を育成するとともに、地域にしっかりとスポーツ文化を根づかせるという構造があります。トップダウンとボトムアップの両方からピラミッド型のストラクチャが作られているのです。

日本でその精神に先鞭をつけたのがJリーグです。Jリーグが理想としたのは、市民に支えられて成り立つ地域密着型のチームのあり方でした。「あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること」を理念の一つに掲げてスポーツを楽しむ設備を提供すると同時に、クラブユースやスクールを通じて地元の少年少女に多くの機会を与え、ハードとソフトの両面から地域のスポーツ文化を育もうとしています。

一方でJリーグは昨年、ネット動画配信サービスのDAZN(ダ・ゾーン)と10年間で2100億円の放映権契約を結んだことが話題となりました。これによって得られる安定した収益は、分配金や賞金の形で各チームに配分することが可能になります。Jリーグという巨額の集金が可能な機構と、地域のサポーター、トップとボトムの両方からチーム運営を支えられるしくみをめざしているのです。

欧州サッカーのやり方を手本にするかは別として、これからは日本らしい、成熟したプロ・アマスポーツ社会のあり方を考えていかなければならないでしょう。

地域の生活・産業と融合したスポーツ文化の醸成に向けて

−山下PMCはそうした問題意識のもと、どのような実践を行っていますか。

山下PMCは昨年から、新潟県南魚沼市の「南魚沼版CCRC」の実施支援を行っています。CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは健康なうちに移住し、高齢になっても地域活動や社会活動に参加しながら必要に応じて医療・介護を受けられるような地域づくりのことです。

山下PMCが実施支援を行う南魚沼版CCRCのイメージ。
高齢になっても健康で過ごすことができる持続可能な
コミュニティづくりを推進している

南魚沼版CCRCでは、都会からの移住者を対象に、平日は都会で、週末は南魚沼で健康的に過ごすといった2地域居住型コミュニティを構築することを試みています。持続可能なコミュニティづくりのためには医療・介護サービスを充実させるだけでなく、産業や雇用を創出する必要があるのですが、そこにスポーツ文化をインテグレートできないかと模索しています。

−単体のスポーツ施設というより、地域のスポーツ文化を育むしくみづくりですね。

私たちはスポーツの振興だけをめざしているわけではなく、地域の生活・産業・文化とインテグレートさせながらスポーツ文化を育むことに挑戦するべきだと考えています。

たとえばスポーツは、山下PMCが目標に掲げている「7つの戦略」の一つ、「クールジャパンの国づくり」と関係します。スポーツのために日本を訪れる人が増えてもおかしくありませんし、それがきっかけで日本を好きになる人もきっとたくさんいますよね。観光立国という観点からも、スポーツは地域に根ざした重要なコンテンツとして位置づけています。

さらに、2020年に東京でパラリンピックが開かれるということは、さまざまな障害をもつ人が世界中からやってくるということです。ところが建築はともかく、道路や交通などインフラのバリアフリーは進んでいません。本当は地域全体がバリアフリーというのが高齢化社会のあるべき姿です。東京パラリンピックは限られた地域内とはいえ、そのモデルになりうるのではないでしょうか。このいわばユニバーサルインフラとでも呼ぶべき思想を社会に組み込んでいくことも、私たちがスポーツを通じて追求したいことの一つです。