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スポーツビジネスの限りないポテンシャル〈前編〉

地域密着型スポーツが拓く、PRE活用の道

「民間チームに運営を委託してPREの持続可能性を探るという方法も、まだ潜在的ではありますが模索が始まっています」

リオ五輪での日本選手の活躍は記憶に新しい。2020年の東京開催に向けた機運が盛り上がり、スポーツへの注目度も急上昇している。スポーツは産業・文化として日本に根づくのか。スポーツビジネスにはPRE(公共不動産)の維持管理や、少子高齢化社会の医療・介護制度といった日本の課題解決を図るポテンシャルがあるという川原に、その新しい可能性を聞いた。

プロスポーツのニーズに対応できない「体育」施設

−東京オリンピックの開催を3年後に控え、スポーツに対する関心が高まっています。

2020年の東京オリンピック、そして2019年のラグビーワールドカップ開催に向けて、社会や経済が盛り上がっていますね。それとともに、これまで日本にはあまり根付いていなかったスポーツビジネスを、産業として定着させようという動向があります。プロ野球やJリーグだけでなく、バスケットボールのBリーグやバレーボールのVリーグなども、活発な動きを見せています。

ところがそこで問題が一つあって、日本にある大規模なスタジアムやアリーナの多くは公共施設です。プロ野球だって、12球団のホーム球場のうち半数ぐらいは自治体の持ち物です。つまり、市民の「体育」振興を目的として計画された施設なのです。

−公共施設であることはスポーツビジネスにとって障害なのでしょうか。

大規模なスタジアムやアリーナの多くは、「体育」振興を目的に
建設された公共施設

そうした公共施設を使ってプロスポーツ事業を行うとなった場合、そのままではあまりに制約が多いのです。設備一つとっても、観客席が少ない、更衣室がホームチームとアウェイチームに分かれていない、プレスルームがない、スポンサーのためのVIPルームがない……などなど。運営面でも、ファンサービスのためのイベント一つ開催するにも許可が必要だったり、何かと不自由なことにぶつかります。

プロチームとしては当然できるだけ多くの収益を上げるための工夫をしたいわけですが、そもそも体育を目的につくられた公共のスタジアムやアリーナは、そんな要望に対応できる施設構成や運営体制になっていませんでした。そもそも公共施設でお金を稼ぐなどけしからん、と考えられていましたからね。そのことが、パッケージとしてのスポーツ産業が日本に根付かなかった原因の一つになっていると思います。


コンセッション方式、指定管理者制度……公民連携の取り組み

−プロチームが自前でスタジアムやアリーナを建設すればよいのではないでしょうか。

プロチームを運営する民間企業にとって、スタジアムやアリーナを保有するというのは非常に手を出しにくいことです。スポーツは事業化が難しく、そのための専用施設を持つことはリスクが高すぎるからです。

資産を持つことが融資を受けるために有利だった時代であれば、たとえ儲からない施設であっても保有し続ける意味はあったのですが、世の中の企業経営の潮流がストック主義からオペレーション主義に変わっている今となっては、時代に逆行することになってしまいます。

−そうなると、やはりプロチームも公共施設を活用して運営することになります。

公共施設の利活用を進めるには、PPP(Public Private Partnership)/PFI(Private Finance Initiative)が欠かせません。近年ではコンセッション方式が導入されたことによって、PFI事業の幅が広がりました。公共施設やインフラの運営を「公共施設等運営権」によって民間企業に委託し、収益事業を行う権利を与えるという方法です。関西国際空港と大阪国際空港(伊丹空港)はその先駆けです。

スポーツ施設も同様です。いま東京オリンピックに向けて新しくつくられようとしているスポーツ施設においても、PFI事業として建設するとか、指定管理者制度によって運営を民間プロチームに任せるといった、公民連携の手法が模索されています。

横浜DeNAベイスターズの本拠地、横浜スタジアム。所有者は横浜市。DeNAは2016年、それまで管理・運営を行っていた第三セクターの株式会社横浜スタジアムを買収し、チームと施設の一体的な運営を可能にした

プロ野球人気復活のカギは「チームと施設の運営一体化」

−たしかにプロ野球も、指定管理者制度によって球団自らがスタジアム運営も手掛けるようになってから様変わりました。

2003年に施行された「指定管理者制度」を、プロ野球で最初に活用したのは千葉ロッテマリーンズです。スタジアムの所有は千葉市ですが、それまで第三セクターの役割だった管理・運営を球団が担えるようになり、収益を上げる工夫ができるようになりました。多様なニーズに応える観戦シートを設置するなど積極的に投資し、ファンサービスを充実させて、すっかりアメリカのボールパークのようなエンターテイメントになりましたよね。

球団としては、球団経営と施設経営を一体化することで収益構造を多様化させ、入場料以外の売上を確保したいという思いがあります。横浜ベイスターズも本拠地の横浜スタジアムは自治体所有ですが、昨年、DeNAがスタジアムの運営会社を買収しました。チームと施設の運営一体化は、プロスポーツを産業として浸透させる大きなカギになると思います。

市立吹田サッカースタジアム。ガンバ大阪が中心となって立ち上げた
任意団体が募金と建設事業を行った。完成後は吹田市に寄付され、
ガンバ大阪が指定管理者として管理・運営を委任されている

−Bリーグなどの他のプロスポーツでもやはり公共施設が活用されているのですか。

Bリーグも今のところは、既存の公共施設を利活用していこうという方向です。アメリカのプロバスケットボールリーグであるNBAも、基本的には公共施設を使用するスキームで行われています。州や市が自ら建設する場合もあれば、PFI事業の場合もありますし、あるいは指定管理者のような形で自治体所有施設の運営をプロチームに委託しているところもあります。


−とはいえ、スポーツの事業化は難しいということでしたが……。

高度経済成長時代のスポーツは、プロもアマもスポンサー企業の支援で成り立っていました。それが厳しくなってきた今の時代、プロチームを維持するには、圧倒的な人気を得るか、あるいはソシオのような形で地域の人たちやサポーターに支えられるか、どちらかしかありません。

プロ野球は2004年の球界再編以降、パ・リーグから地域密着型に変わっていきましたし、サッカーでも、たとえばガンバ大阪は募金団体を設立して多くの個人や法人から寄付金を集め、スタジアムを建設しました。

スポンサーが手を引けば維持できないようなチーム運営はリスクが高いけれど、地域に根ざせば盤石になります。そうした地域密着型の運営方法は同時に、プロスポーツが日本に文化として根付く土壌を育むことにもつながっていると思います。

地域密着型のスポーツ文化がPREを救う

−プロスポーツが地域に根付くことは、PRE活用の道を開くことにもつながりそうです。

スポーツ施設に限らず、既存のPRE(公共不動産)をこれからの少子高齢化時代にどうやって維持管理していくかは、1800自治体のどこもが頭を悩ませている課題です。国体のために整備したもののガラ空きになってしまっているアリーナなども、おそらく各地にあることでしょう。

それには民間活力を取り入れないと不可能です。地域密着型のスポーツ文化を育み、民間チームに運営を委託して収益事業を行ってもらうことで持続可能性を探るという方法も、まだ潜在的ではありますが各所で模索が始まっています。

スポーツ施設をスポーツに使うだけではなく、エンターテイメントやイベントなど他の使い道も同時に考えていく必要があります。アリーナであれば展示やコンベンションなどにも活用できるでしょう。現状、日本にはMICE施設も兼ねるアリーナというのは非常に少ないんです。なにしろ体育施設ですから。

−そうした状況のなか、「施設参謀」としての山下PMCの役割とは何でしょうか。

私たちがスポーツ施設を手掛けるからには、地域の人やファンにとってずっと心の拠り所になるような、持続可能なものにしたいという思いがあります。決して自治体のお荷物になるようではいけません。

現在山下PMCが提案中の、「(仮称)JFAナショナルフットボールセンター」の事業モデルのイメージ

そのために事業のやり方と施設のあり方とを融合するのが、私たちのミッションです。山下PMCは現在、日本サッカー協会(JFA)が千葉県の海浜幕張公園に計画中の「(仮称)JFAナショナルフットボールセンター」を、企画段階から支援しています。私たちが構想している事業と施設を融合したビジネスモデルは、まだ提案段階ではありますが、実現すれば地方創生の原動力にもなりうるものだと自負しています。