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21世紀の庁舎建築〈後編〉

躍動する庁舎から地方創生が始まる

「私のイメージする庁舎とは、民間施設や民間事業、あるいは他の公共施設や公共事業と連動した、地域のネットワーキングの中心となる存在です」

目標は持続可能な地域経済をつくり出すこと

前編「2070年まで持続可能な庁舎をめざして」では、「一施設で終わらず、地方創生につながる庁舎」を目指したいというお話でした。

私が常々考えているのは、地方創生を実現するためには、持続できる地域経済をつくらなければならないということです。少子高齢化社会が進行して税収が減少しつつある現在、医療・介護費用の問題からは決して逃れられませんから、経済の活力で社会を保持しなければなりません。

折しもインバウンドが増加している現状は日本経済にとって好材料ではありますが、外国人旅行者からの直接的な収入に終わらせず、外需を起爆剤として内需を循環させていくことを考えなければならないのです。日本中の各地域が、経済を持続する方法を模索していく必要があります。

そのためには、地域の施設や事業が別個に「点」のまま活動していてはだめで、産官学合わせたネットワーキングを進めることが不可欠です。

今の社会の潮流を示すキーワードとして私がよく使うのが、インテグレーテッド化という言葉です。インテグレートは統合・集約という意味で、現在この動きが施設・街・地域のどの次元でも起きています。施設建築は集約化・複合化が進んでいますし、街はコンパクトシティ化していますし、地域はより広域的な連携を深めて“リージョン”化しています。

これから起ころうとする社会的なモードこれから起ころうとする社会的なモード個別の施設は集約・統合化が進み、まちはコンパクトシティ化し、さらに自治体にも道州制の流れが見られる。
全ての事象がインテグレーテッド化していく。

地方にはそれぞれの産業特性があり、世界に冠たる特産品や技術や伝統や文化が眠っていますが、各々が「点」にとどまっていては何も変わりません。これまで別々に動いていたものが組み合わさり、インテグレーテッド化することで、地域経済を持続させる新たなビジネスプラットフォームが生まれるはずです。

銀河の中心に庁舎がある!?

−地方創生を可能にする新たなビジネスプラットフォームを生み出すために、庁舎はどのような役割を果たすでしょうか。

私のイメージする庁舎とは、他の公共施設や公共事業、あるいは民間施設や民間事業と連動した、地域のネットワーキングの中心となる存在です。

公共建築には庁舎のほか、学校、インフラ、文化施設などがありますが、地方創生に欠かせないのは、各施設を「点」のままにしておかず、これらを包括的に見るPRE(公共不動産)戦略の視点です。既存の施設を有効活用するなどして、持続可能な社会の礎をつくり、地域に展開していくのは行政の重要な役目です。新たな経済プラットフォームの土台となるインフラ作りのためには、役所が中心にならなければなりません。

また、インテグレーテッド化に必須なのは、産官学の密な連携です。街の産業特性を世界で勝負できるまでに育てるには、たとえば農産物の生産者や食品加工会社や大学の研究所などとのネットワークが不可欠です。最初は薄かったつながりが太くなれば、さらに新たな事業を吸着していきます。

場合によっては他の市町村と連動することもあるでしょう。太陽系のようなネットワークがさらに集まって、銀河系に発展するようなイメージですね。市庁舎はその中心の施設なのです。

庁舎は地域の産・官・学ネットワークのハブとなり、地方創生を牽引する存在

−銀河の中心に庁舎があると。

庁舎は点にすぎませんが、今後の地域を組成するインフラのハブとして、躍動する存在であるべきだと思っています。ですから、現在山下PMCが数々の庁舎建設プロジェクトに参画しているのは、私にとっては「一施設」という意識ではなく、地方創生への大きなチャレンジの入り口なのです。

−そのような新しい庁舎の姿は、これまでのものからどのように変わるでしょうか。

月並みな言い方をすれば地域密着ですが、地域ネットワークのハブというイメージが大切です。人が寄りつきやすく賑わっていて、そこから市の社会・生活・産業がすべてつながっていくような施設です。議会などは民主主義の象徴としてある程度のオーソリティを確保する必要があるかもしれませんが、近寄りがたいものであってはなりません。庁舎は地域を代表するサービス機関であるべきだと思っています。

庁舎はまた、地域のビジネスを牽引する存在として、地域のブランディング・マーケティング戦略の中核を担うこともあるでしょう。

ですからセキュリティの許す範囲で、行政機関だけでなく、民間が使用する部分が混在してもいいと思います。たとえば東京都庁の展望台は人気があって、いつも市民や観光客の行列ができています。たとえごく一部分であっても、活用される庁舎であるべきです。

−そうなると行政のあり方も変わらなければなりませんね。

みんなが躍動できるような新庁舎であれば、行政のあり方も変わっていくと思います。公共施設のワークスペースが変われば、そこを使う職員や市民の意識も変わりますし、ワークスタイルにも変化があるかもしれません。そうなれば、セクショナリズムからの脱却も可能かもしれません。

地方創生をめざすための「7つの戦略」

−現在全国で市庁舎の建て替えが盛んな背景には、合併特例債の期限が平成32年に迫っていることに加え、2014年の品確法改正で「多様な入札契約方式」の導入が推進されたことがありますが、新しい建設プロジェクト推進方式に関心を持っている自治体の共通点は何でしょうか。

もれなく志の高い首長さん、ないしはキーマンがいらっしゃいます。これからの時代にふさわしい、合理的で持続性のある制度を再構築したいという志をお持ちの方ですね。公共施設も単なるハコではだめだとお考えになっている。だから私たちが親和するのだと思います。

私たちは民間の先端事業を通して、さまざまなプロジェクト推進手法をノウハウとして持っています。かといって、どの地方の街にも同じ手法を画一的に導入しようとは全く考えていません。先端手法をいかに地域の可能性を広げられるよう取り入れられるかということに、強い思いを持っています。

−庁舎のほかに山下PMCはどんな公共事業に取り組んでいますか。

山下PMCでは今年7月、新潟県南魚沼市より、「南魚沼版CCRC構想 連携実施事業者選定支援業務」および「南魚沼市地域再生計画(生涯活躍のまち形成事業)策定業務」を受託しました。CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは、高齢者が健康なうちに移り住み、地域活動や社会活動に参加しながら必要に応じて医療・介護を受けられるような地域づくりのことです。

山下PMCは今、RetirementがRestartingになるような、南魚沼版CCRCの事業手法をつくり上げるお手伝いをしています。過疎化が進む地域に都会から移住者を集めてコミュニティを構築する、というのは大変なことで、単純に老人ホームやスポーツ施設を作れば成り立つというものではありません。今私たちは、さまざまな要素を融合することで、エンジンとなる事業をつくり出せないかと模索しているところです。私たちのチャレンジは、持続可能な地域経済をつくり出すことなのです。

−これも一施設にとどまらない、大きなチャレンジですね。

地方創生というのは簡単に達成できる課題ではありません。そのために山下PMCでは「7つの戦略」を掲げています。私たちの得意分野は施設ですが、単体の施設ができることには限界があります。だからこそ先端技術やクールジャパンや健康増進といった、これからの日本を支えていく成長要素を融合させ、インテグレートさせることを目指しているのです。それが地方創生を起こし、持続させるきっかけになると信じています。

関連:世界を制するビジネスはどこから誕生する?事業と施設のインテグレーテッド化〈前編〉

CMという仕事はまだ社会に広く浸透している職能ではありませんが、横浜市・女川町・清瀬市・府中市・千葉市の庁舎のCMをさせていただくこの機会に、地方の方々にも、私たちのような職能が存在することをぜひ知っていただきたいと思っています。