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21世紀の庁舎建築〈前編〉

2070年まで持続可能な市庁舎をめざして

「縮小の時代に自力で運営を継続できる公共施設モデルを構築することが、私たちに課せられた義務だと思っています」

全国で庁舎建築の建て替えが相次いでいる。その背景には、高度成長期に建設された施設が更新時期を迎えていること、合併特例債の期限が迫っていること、また2014年の品確法改正などがある。今後の50年を司る、新しい庁舎像とは? 縮小時代の庁舎建築のあり方について、横浜市新庁舎をはじめとする庁舎のCM業務を受注している山下PMC代表川原秀仁に聞いた。

全国の自治体が導入を進める、多様なプロジェクト推進方式

−最近、山下PMCは横浜市、女川町に続き、千葉市、東京都府中市、清瀬市の庁舎建設CM業務を相次いで受注しました。

横浜市新庁舎イメージパース。 横浜市新庁舎イメージパース。(出典:横浜市HP

このところ全国で庁舎の建設や建て替えが盛んに行われています。その背景には、高度経済成長期に建設された全国の庁舎が今、償還を迎えていることがあります。また、合併特例債を財源とすることのできる事業の期限が平成32年に迫っていることも挙げられます。

これはどういうことかというと、地域インフラや市民生活の要が50年ぶりに変わろうとしているということです。そしてその後、再び50年間は変わらないということになります。つまり、今こそ50年の計を見直すべき時なのです。

−2014年の品確法改正によって、「多様な入札契約方式」の導入が推進されたことも契機になっています。

公共建設工事に新しい波が訪れたきっかけは、東日本大震災にさかのぼります。震災復興事業においては可能な限りの迅速な回復が何よりも求められましたので、設計・施工一括方式やアットリスクCM方式といった、これまでの公共工事にないやり方が次々に取り入れられました。

元々、民間発注の建設プロジェクトでは、すでにさまざまな合理的なプロジェクト推進手法が醸成されていました。実際、今や大手ゼネコンの中には新たに受注する建設工事のうち、設計・施工一括方式の割合が、従来の設計・施工分離発注方式を上回っているところもあるそうです。このような民間で培われたノウハウがようやく公共工事にも活かされることになったのです。

震災復興を機に国土交通省は、自治体発注の公共工事について、工事や地域の実情に適した「多様な入札契約方式」の導入を推進する方針を固め、2014年の改正品確法にも盛り込まれました。現在、多様なプロジェクト推進方式を用いて取り組まれている公共建設工事の数は、日本全国で3桁にのぼっているはずですよ。今後も確実に増えていくでしょう。

私たちは横浜市・女川町・清瀬市・府中市・千葉市の市庁舎建設を通じて、先頭切って最良の解決を実現し、新しい公共工事モデルを構築していきたいと考えています。ひとたび成功例ができれば、全国の他のプロジェクトにも波及していくことでしょう。その一里塚になれればと思っています。

−山下PMCが公共工事のCM業務を担う上での強みはどこにあるとお考えですか。

私たちはさまざまなタイプの民間事業を経験してきた中で、事業創造手法やプロジェクト推進手法を確立し、洗練させてきました。その知見を新しい市庁舎の提案に盛り込めることが大きいと思います。経営・運営と施設とをつなぐプロである私たちだからこそ、市政・市民サービスと市庁舎とをつなぐことができると思っています。

石巻市水産物地方卸売市場 石巻売場。地域のシンボル施設として迅速な復興が求められ、公共建築としては初めてアットリスクCM方式が採用された(写真 新良太)

もう一つは、各自治体の実情や特性に見合った最適解をご提供できることだと思います。最適解は場合に応じてデザインビルド方式であったりECI方式であったりと異なりますが、旧来のしがらみにとらわれることなく、建設プロジェクト推進手法を再構築できる点は私たちの強みです。

関連:震災復興で導入されたアットリスクCM方式とは? 関連:注目される公共工事におけるデザインビルド方式 関連:建設コストの縮減・工期短縮を目指す契約方式、ECI方式とは

公共施設の条件は、50年後まで運営を維持できること

−川原社長が考える、あるべき新市庁舎像とはどのようなものでしょうか。

先ほどもお話したように、市庁舎は、地域インフラ・地域社会・地域生活が成り立つための要です。それが50年ぶりに変わろうとしているのです。向こう50年を可能な限り見通して、地域インフラの中核となり、市民生活を支える司令塔となり、産業活性化のハブとなっていくべきだと考えています。

そのためには持続可能な施設であることも重要です。今やどこの自治体でも、PRE(公共不動産)として抱える公共施設の運営には苦心していて、特に文化施設などの運営費用は悩みの種です。50年後、ほとんどの自治体では人口減によって今よりも税収は減少するでしょう。

私たちは一連の市庁舎プロジェクトを通じて、縮小の時代に自力で運営を継続できる公共施設を、ロールモデルとして構築することに取り組んでいます。

−機能を最小限にし、経費を抑える「小さな公共施設」ということでしょうか。

横浜市新庁舎イメージパース。 横浜市新庁舎イメージパース。市民に開かれたアトリウムや都市空間との連続性を意識した動線により、新たな賑わいの創出を企図している(出典:横浜市HP

決してそういうことではありません。縮小さえすればよいというわけではなく、もちろん市庁舎には街のシンボルとしての役割も必要ですし、これからの時代には産学と連携するための新しい機能なども求められます。ただし、各自治体の体力に見合った形で実現させなくてはなりません。たとえば女川町役場のように、複数の公共施設の機能を集約することができれば、運営費の省力化にもつながるでしょう。

関連:女川町新庁舎等整備事業について(女川町HPへリンク)

残念ながら、現実には「ハコモノ」として市民の批判の対象になってしまうような公共施設がいまだ誕生しています。私たちが提供したいのはその対極です。未来に遺恨を残さないように、健全な行政と地域社会を営む拠点づくりを支援することが、山下PMCに課せられた義務だと思っています。

−市庁舎は50年先まで持続可能な地域拠点であるべきだと。

けれども私たちのチャレンジは、そこで終わりではありません。市庁舎というのは概して中心市街地、あるいは今後発展するであろう郊外に立地します。ということは、市庁舎のあり方はまちづくりに直結します。

たとえば横浜市新庁舎は、市街地の一等地という立地を十分に活用できるような姿になるはずです。一方で千葉市はいくつかの市街地が分散して発展してきた経緯があり、現在の千葉市庁舎の周辺地域は比較的閑散としていますが、市庁舎が変わることで新たな賑わいや動線を生む可能性もあるでしょう。私たちが目指したいのは、「一施設」で終わらず、地方創生につながる市庁舎なのです。

−後編では、市庁舎が地方創生にどうつながっていくのかを伺います。