週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

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CRE戦略マガジン

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経営資源としての施設〈後編〉

会社の施設体系、今のままで大丈夫ですか?

「売るものが大きくシフトしているわけですから、輸出を前提としていた時代とは、施設体系が変わってきます」

「本業」を司る稼働不動産こそ、収益性を考えるべき

前編では、ビジネスと社会の変化によって施設は経営資源化せざるを得なくなったというお話でした。後編では、それによって企業の保有施設の姿がどう変わろうとしているか、実状を伺います。

企業の保有施設は稼働不動産、賃貸不動産、遊休不動産の3つに分けられますが、このうち国内で活用がいち早く始まったのは、賃貸不動産、次いで遊休不動産でした。2005〜6年ごろから国内ディベロッパがCRE戦略という概念を輸入し、賃貸不動産・遊休不動産の有効活用や売買を支援するサービスを始めたのです。その結果、企業にとって価値ある収益を生む不動産は保有を続けるし、そうでなければ売却する、という不動産再編の動きが活発になりました。けれどもそれはまだ、オフィス、ホテル、商業施設、共同住宅、倉庫といった、建物そのものに家賃などの収益が発生する収益用途施設に限っての話でした。

それが2007〜8年ごろから、稼働不動産こそ収益性を考えるべきである、という認識が生まれてきました。稼働不動産というのは保有する不動産のうち、今まさにそこで社員が働き、生産やサービスを行い、収益を上げている場所です。いわば会社の「本業」を司る施設です。この稼働施設の支出を下げ、収入をさらに上げることが企業経営にとって重視され始めました。そして、稼働施設を再編成することによってROA(総資産利益率)を高めようとする動きも同時に出てきました。稼働施設のインテグレーテッド(統合・集約)化が始まったのです。

会社の「本業」を司る稼働施設の収益をいかに上げ、ROAを高めるかが課題として浮上してきた会社の「本業」を司る稼働施設の収益をいかに上げ、ROAを高めるかが課題として浮上してきた

生き残りのための将来戦略に、施設のインテグレーテッド化を重ねる

-稼働施設のインテグレーテッド化について解説していただけますか。

稼働不動産を含めた全保有施設の見直しが最初に始まったのは、それがやりやすい業種、たとえば製薬産業などでした。一般に製薬会社は製品のサイズが小さいので、生産施設もそれほど広大な面積にはならず、保有施設の再編成がしやすいのです。そうした業種で、全国に分散する研究拠点や工場をインテグレーテッド化する動きが活発になりました。分散した施設を集約すれば効率化につながるからです。4つの建物が同じ面積のまま1つになれば、外壁が減るぶん建設費も修繕更新費も下がりますし、動線が短くなるので人件費も合理化できます。

効率化のための施設インテグレーテッド化を、うまく経営戦略に重ね合わせることができれば、それは企業の生き残りの一つの鍵になるのではないかと思います。国内市場が縮小しようとする中、どの産業のどの企業にとっても生き残っていくための戦略立案は喫緊の課題ですが、施設戦略もそうした将来戦略の一つに位置づけて、有効な投資をすることが大切ではないかと思います。

−施設戦略と将来戦略を重ね合わせるというのはどういうことでしょうか。

たとえば製造業では今、収益構造が大きく変化しようとしています。過去、日本の経常収支の中で黒字を出していたのは、貿易収支でした。つまり輸出です。国内でモノを作り、海外に運んで売る、というのが製造業の収益モデルでした。だから施設体系も、大量生産・大量物流に対応する形になっていました。本社があり、支社や営業所があり、研究所があり、事業所がある。事業所の中には大工場、管理棟、教育棟など、機能ごとに分けられた建物が控えていました。

それが現在、経常収支を支えているのは所得収支です。製造業で言えば、海外子会社からの利益配当やライセンス使用料です。「モノ」から「技術や情報」へと、売るものが大きくシフトしているわけです。そうなると輸出を前提としていた時代とは、施設体系が変わってきます。巨大な工場の代わりに、各事業所に分散していた情報と技術をできるだけ集約するような施設が必要になってくるかもしれません。一方で、これまで国内にあった生産機能と販売機能は、海外の消費地の近くに配置したほうが有利です。このように、長期的視点から描いた未来の事業の姿に施設戦略を重ね合わせることができれば、会社としての大きな強みになります。

−何か事例はありますか。

山下PMCがPM/CM業務に携わったプロジェクトの中で、矢崎総業様/矢崎部品様のものづくりセンターは、施設のインテグレーテッド化の草分けでした。約230の海外拠点を持つグローバル企業だけあって、世界の潮流を見据えた生産施設の再構築に取り組んでいらっしゃいました。その際に、従来の施設の枠組みのまま合理化するのではなく、新たなイノベーション機能やマーケティング機能が生まれるような再構築を考えるべきだという強い信念をお持ちでした。そして生まれたのが、ものづくりセンターだったのです。

ますます加速する施設の「経営資源」化

−今後もこの動きは進むと考えてよいのでしょうか。

国内の拠点を集約し、企業の持てるインテリジェンスを結集させる。こうした施設インテグレーテッド化の動きは、最初は小さな波でしたが、10年ほどで本格化して、今やあらゆる業種で起きています。施設を経営資源として捉える視点が定着し、CRE戦略という概念が普及してきたことの現れです。

近年こうしたCRE戦略が発展してきたのは、日本の風土に合う形でグローバリズムに対抗する一つの解ではないかと思います。日本には日本の企業文化や商習慣がありますから、押し寄せたグローバリゼーションの波に対し、アメリカ企業がしているようなドラスティックな経営合理化をそのまま取り入れることはしなかったのでしょう。

施設の経営資源化がまだ進んでいないのが、岩盤規制と言われている医療、教育、農業などの産業です。けれどもこれらの分野にも、近いうちに必ずこの流れは訪れると思っています。私たち山下PMCを含め、施設を経営資源に変換できる職能が市場に登場しつつあることも、この動きを加速させる一つの好材料になると思っています。

川原秀仁著『施設参謀』。経営者・施設運営者が「施設」を知るための一冊。川原秀仁著『施設参謀』。
経営者・施設運営者が「施設」を知るための一冊。

−川原社長の著書『施設参謀』は、施設を経営資源に変えたいと考えている経営者に向けてのメッセージです。

山下PMCは、保有施設を経営資源に変える役割を担うプレーヤーだと自負しています。お客さまの事業戦略を、適切に施設戦略に置き換える。そしてそれを施設という形で実現化させ、お客さまが思い描いたとおりの事業運営に結びつける。事業戦略から事業運営までの近道をつくるのが、私たちの仕事です。

もちろん施設には事業的価値だけではなく、社会資産、景観形成、雇用創出といった社会的な価値もあります。そういった社会的役割と収益とをバランスさせるような施設のあり方を探ることも、私たちの大切な役割の一つです。