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健康長寿社会の実現へ〈後編〉

医療・介護ビジネスの明日

「建設費が高騰している現在は医療分野への設備投資は停滞していますが、2020年以降に加速するのは間違いありません」

高度医療はパッケージで輸出品に

−−前編では、少子高齢化の日本を内需で潤すためには医療・介護産業の発展がポイントになるという話題がありました。後編ではこの点を詳しく聞きたいと思います。

医療・介護はこれから最も必要になる産業ですが、そのビジネスとしての可能性を、高度医療と地域医療に分けてお話したいと思います。

まず高度医療は、さらに高度にして海外に輸出し、世界を幸せにする方向に進むべきだと思っています。山下PMCでもこの分野の研究所や工場のプロジェクトに関わっていますが、日本は精密機器を使った施術や医療システムに関しては世界随一ですし、再生医療や介護ロボットなども大いに発展が期待できる分野です。高度医療はいずれ、医療技術、医療機器、人財、施設、運営システム、これら全体をパッケージとして輸出できる産業になると思っています。グローバルに展開するホテルチェーンは海外出店をマネジメント・コントラクト方式(MC方式)などで行いますが、それと同じように医療技術単体ではなくパッケージで輸出するというところがポイントになるように思います。

高度医療はパッケージ化して輸出できるポテンシャルを持つ 高度医療はパッケージ化して輸出できるポテンシャルを持つ

そうすると、海外で施術を受けた人が療養や検査のために日本を訪れることで、医療ツーリズムが発生する可能性もあります。観光地に近い地域に医療ツーリズムの施設をつくり、観光を楽しんでもらいながら医療サービスを提供する、という新しい事業モデルができるかもしれません。そうやって新しい事業体系が生まれると、新しい施設体系が誕生します。それを考えるお手伝いをするのは私たちの仕事の一つです。

医療・介護が地域経済を循環させる

−−地域医療にはどのような展開が考えられるでしょうか。

地域医療の最大の目標は、地域の人が健康で長生きすることです。なにしろ65歳以上が40%を占める社会になりますから、みんなが医療・介護サービスにお世話になる時間を極力減らして、80歳を超えても経済活動できるくらいの未来をめざさなければならないわけです。ということは医療・介護分野の担う領域が、人々の健康を増進させる方向に拡大することも考えられます。実際、国の医療福祉政策は対症療法から予防医療へと対象を拡げてきました。これからはアクティビティやスポーツ振興なども対象になるかもしれません。

今はどの業種でもインテグレーテッド(統合・集約)化が盛んで、異分野同士が協力してイノベーションを起こすことが増えていますが、医療・介護の分野も例外ではないはずです。健康増進や、先ほど挙げた観光といった他分野と統合化・複合化して、新たな事業モデルを生み出すかもしれません。ほかにも託児保育、教育、娯楽、社会活動なども、医療・介護産業と複合する分野としてあり得ると思っています。次世代につながる事業体系が誕生すれば、地域経済を回す原動力になるだけでなく、日本を支える産業に育つ可能性もあります。

−−医療・介護施設のあり方も変化するでしょうか。

新しい事業体系が生まれれば、その事業を育む新しい施設体系が生まれます。医療介護施設の種類は現在、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、デイケアセンター、在宅医療といった区分がされていますが、将来はもう少し違った、ゆるやかな枠組みができるのではないかと思います。医療・介護施設にはこれからの社会と社会保障制度の行方を見越した備えが必要です。そしてそのあり方を見極めていくのが私たちのミッションだと思っています。地域の医療法人の方とめざすべき社会の姿を共有し、共に活動していきたいと思います。

−−医療・介護には地域を支える産業として大きな可能性を感じますが、現行の制度では難しい部分もあるのではないでしょうか。

医療は農業や教育と並んで岩盤規制に守られている分野で、新規ビジネスが生まれにくい土壌があります。けれども、近ごろでは省庁間の垣根がずいぶん低くなりました。保育所は厚生労働省、幼稚園は文部科学省の管轄だったのが、保育も教育もできるこども園というものが誕生したのはいい例ですよね。昔は省庁といえば縦割り組織の代名詞だったのが、行政でもインテグレーテッド化が進みつつあって、ビジネスチャンスにつながる兆しを感じています。現状では医療法人は業務としてスポーツ施設の運営はできませんが、規制緩和が進めば将来はできるようになって、新たな事業を生むかもしれません。垣根が低くなれば前編でお話しした「移動と交流」が促進されて、お金を生み出すわけです。

高齢になっても健康で働ける社会をめざして、医療・介護産業の役割が健康増進分野にまで拡大する可能性もある 高齢になっても健康で働ける社会をめざして、医療・介護産業の役割が健康増進分野にまで拡大する可能性もある

パラリンピックを機に「ユニバーサルインフラ」

−−医療・介護は公共的な側面の強い産業なので、地方自治体との連携も必要なように思います。

地域医療には、地域経済を回していく役割もあります。繰り返し言っていることではありますが、CRE(企業不動産)もPRE(公共不動産)も、高度成長期に建設された施設が償却期間を終え、次世代に向けての方策を打ち出すべき時が訪れています。その際に、医療・介護や健康長寿の戦略も考え合わせながら再配備していく必要があるでしょう。公共施設や観光施設を医療施設にコンバージョンしたり、スポーツ振興に活用したりする試みがすでに生まれていますが、そういった方法も含めて、経済が循環する地域社会をつくっていく必要があります。

建設費が高騰している現在は医療分野への設備投資は停滞していますが、2020年以降に加速するのは間違いありません。今のうちに日本全体が遠来の目標を見つめて、「移動と交流」が起こりやすい社会をめざすべきだと思っています。現存する1800市町村のうち800ほどが消滅すると言われている今、うかうかしていると街自体がなくなってしまうわけですから。

−−2020年はあっという間に訪れますね。

2020年のパラリンピックも気づきを生む契機になるように思います。現在の日本の道路や交通などの都市インフラは、高齢者にとって決して使いやすくはありません。けれどもパラリンピックで世界中からさまざまな身体を持つ人が東京を訪れるのを機に、健常者と障害者のどちらにもうまく使える都市インフラのあり方が見直されるのではないかと思っています。そして建築のユニバーサルデザインとも融合して、いわばユニバーサルインフラとでも呼ぶべき発想が生まれてくるのではないでしょうか。それはコンパクトシティと並んで、少子高齢化社会を支える社会基盤のベースになる発想ではないかという気がしています。

日本は世界の中でも超少子高齢化社会を真っ先に迎える国の一つです。でもうまく健康長寿社会を実現できれば、世界の範たる社会モデルになるでしょう。それができるだけのポテンシャルが日本にはあると思っています。

−−進行する少子高齢化社会の中で、山下PMCはどのような役割を担いたいとお考えですか。

山下PMCは「移動と交流」を促す施設のPRE戦略・CRE戦略に貢献する活動を微力ながら担いたいと思っています。これまで山下PMCの戦略として、「技術先進立国の堅持」 「クールジャパンの国づくり」 「インフラ・施設の再構築と強靭化」そして今回の「健康長寿社会の実現」とお話してきましたが、一つとして単独で語れるテーマはなく、どれも互いにリンクしています。大言を叩いているように見えるかもしれませんが(笑)、でも本当に実現できたら、そう悪くない日本になりそうな気がしませんか。

川原秀仁著『施設参謀』が上梓されました

書籍「施設参謀」

−−川原社長の著書『施設参謀』が2015年11月に出版されました。

「施設参謀」というのは、近年の山下PMCの役割を表す言葉です。私たちがコンストラクション・マネジメントの仕事を続ける中で気づいたのは、建築プロジェクトを最初から最後までマネジメントするだけではお客さまを本当に満足させることができない、ということでした。私たちはマネジメントの範囲を建築プロジェクトだけでなく、さらにその前後に延長する必要性を感じ、実践してきました。お客さまの考える事業戦略を施設の形に橋渡しする役割と、また施設建築を完成後の施設運営に橋渡しする役割も担うということです。そうすることでお客さまが思いを施設建築に直結できたと喜んでいただけるようになり、私たちの役割を参謀という言葉で言い表せるようになりました。ここまで来たのは一朝一夕のことではなく、ファンドの流入やCRE戦略の萌芽といった時代の変化、経営者の方々の意識の変化とともに、私たちも時間をかけて成長してきました。

「もっと早くこういう仕事があると知りたかった。たくさんの事業者に必要とされる業務だから、ぜひ日本に浸透させてほしい」という応援の言葉をお客さまからいただき、意を決して出版に至りました。施設を介して事業を行おうとするすべての事業者の方々に読んでいただき、私たちのような職能があることを少しでも広げていければと思います。