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健康長寿社会の実現へ〈前編〉

先進国日本を維持するために元気な高齢者の活用を

「いかに福祉を充実させるかを議論する前に、福祉の財源となる事業を創造し、稼ぐ力を高めることを考えなければなりません」

少子高齢化が進んでも、豊かな暮らしを続けたいと誰もが願う。年金や医療をはじめとする社会保障制度のあり方に関心が向かいがちだが、高齢化日本を豊かに維持するためにはそれよりも先に考えるべきことがあると川原は指摘する。そのキーワード「健康長寿社会」とはどのような社会なのか。高齢化した日本の稼ぐ力を高め、地域を潤すカギを握る医療・介護産業のポテンシャルを探る。

元気な高齢者が活躍する「健康長寿社会」

−−人口減少と少子高齢化が容赦なく進行しています。

政府機関によれば、2010年に1億2800万人だった人口が、このままいけば2030年には1億1600万人台に減り、2050年には1億人を切ると言われています。逆に65歳以上の高齢者層の割合は、2010年は23%、2030年には約32%。2050年には40%近くにまで跳ね上がる見込みです。日本はこれまで40年以上にわたって豊かな暮らしを維持してきました。これからも豊かな生活を続けたいと、当然のように誰もが願いますよね。この先高齢化しても成熟先進国家を維持していく手立てを考えなければならないわけです。

「高齢化の推移と将来推計」出典:内閣府 平成27年版高齢社会白書

日本の人口を考えると、先進国であり続けるには同時に経済大国でもあり続けなければならない。国の豊かさを示す指標の1つであるGDPは[人口]×[1人あたりGDP]で表されますから、経済大国であるためには何が必要かというと、まず人口が多いこと、それから一人あたりGDPが高いことです。

−−この先人口が減少の一途をたどることは、日本の経済にとってはマイナスです。

人口を増やす方法としてまず挙げられるのは移民政策ですが、導入には課題が多く、日本ではあまり積極的ではありません。その代わりに一つ考えられるのは、インバウンドを短期的な移民とみなし、増やすというやり方です。外貨を稼ぎ、内需を刺激する起爆剤とするのです。もう一つの方法は、女性や高齢者がもっと経済活動に加わって、就労人口を増やすことです。

少子高齢化社会のあり方を議論するとなるとどうしても、医療制度をどうやって維持させるか、年金をどう配分するか、といった支出の側の話ばかりになりがちですが、まず考えるべきなのは、そのお金はどうやって稼ぐのかということではないでしょうか。高齢化率が上がるのであれば、高齢者を健康にして働ける人を増やし、高齢者の労働機会を創造して、社会を維持していくしかありません。日本の人口を考えると、北欧諸国のような高負担・高福祉の社会はとても真似できないでしょう。幸い日本人は働くことに生きがいを感じる人が多いですから、高齢になっても意欲があれば自然に働き続けられるような体制を整えて、中負担・中福祉の社会モデルを構築する必要があります。私が考える「健康長寿社会」とは、元気な高齢者が経済活動を担っている社会のことなのです。

福祉を維持するには、稼ぐ力を高めること

−−確かに少子高齢化社会の話題は福祉がテーマになりがちですが、その財源も重要ですね。

いかに福祉を充実させるかを議論する前に、福祉の財源となる事業を創造し、稼ぐ力を高めることを考えなければなりません。では日本が稼ぐ力を高めるにはどうすればよいかというと、まず日本の経常収支の中で有望な分野、すなわち所得収支と旅行収支を成長させること。次にこれら外需によって内需を活性化させることです。こうした一連の経済活動に高齢者を組み込んでいくのです。

所得収支には海外子会社からの配当や特許に対するライセンス料が含まれますから、今後これを成長させるには技術先進立国であり続ける必要があります。特に建設産業など経験工学の面が強い分野では、歳を重ねるほど技術や知見が身につきますから、高齢技術者が活躍できる場を増やし、彼らの経験を次世代に継承するしくみを整えることが大切です。個人的には、建設産業は真っ先に定年制度を廃止してもいいと思っているぐらいです。山下PMCでは退職金制度上の定年はありますが、いわゆる「定年」はありません。身体と頭脳が元気なうちはいつまでも活躍してほしいからです。

高齢化社会を維持するには、稼ぐ力のある事業を創造し、その担い手として元気な高齢者を組み込んでいくことが重要 高齢化社会を維持するには、稼ぐ力のある事業を創造し、その担い手として元気な高齢者を組み込んでいくことが重要

次に旅行収支。インバウンド観光は新しい産業で、今まさに試行錯誤が行われているところだと思いますが、たとえば英語ガイドなど、観光客側の立場に立ったサービスを高齢者層が担うことはできないでしょうか。よく団体の学術委員や文化委員のような活動を、リタイアした教員がボランティアで受け持っていますよね。そういうことを観光産業にも取り入れて、稼ぐ力を醸成できないかなと思います。

それから内需ですが、国内の各地域を内需で潤すためにポイントになるのが、医療・介護産業です。医療・介護産業が健全に発展していけば、地域経済を回す原動力にもなりますし、もちろん高齢者が健康を維持することにも貢献します。高齢者や女性の活躍する機会も増えます。それでも追いつかないほどの担い手が必要になるかもしれませんが、今後めざましい発展が期待できる介護ロボットが力仕事をサポートしてくれるでしょう。少子高齢化社会においてますます需要が高まる医療・介護を、稼ぐしくみとして捉える目線が重要です。

「移動と交流」の起きやすい社会基盤づくり

−−生産人口を増やすことで人口減を解決できるとして、一人あたりGDPはどうすれば増えるのでしょうか。

まず高齢者や女性の活用によって、就労人口が増えると同時に、一人あたりGDPの向上にも貢献するでしょう。でも、さらに一人あたりGDPを増やすには、「移動と交流」がより活発になることが重要だと思います。現在は都市は都市、地方は地方での経済活動が基本で、都市と地方の間での移動があまりありません。けれども、たとえば都市生活者がリタイア後に地方に移住して、農業やボランティア活動を始めたりするケースがこれから増えてくるでしょう。「移動と交流」が起きれば、お金を生み出します。新幹線で移動する、観光する、田舎に第二の住居を持つ、田舎に刺激をもたらす、そういった行動は経済の循環を促して、活性化させますよね。結果として一人あたりGDPの増加につながります。

企業の人財登用にも同じことが言えます。これまでは新卒採用が基本でしたが、そろそろ中途採用者にも広く門戸を開いて、業種間・企業間の「移動と交流」を活発にしたほうがいいのではないかなと思っています。互いの活性化をもたらし、さらなる内需が引き起こされるでしょう。時代の主要産業は移り変わるものですが、今はその浮き沈みが激しい時代です。家電産業がこれほど衰退するとは、少し前なら予想できませんでした。今は家電単体ではなく、PCやスマートフォンなどのハードウェアにコンテンツ産業を組み合わせて、ライフスタイルを提案するような事業が興隆していますよね。そんな動きの激しい時代だからこそ、「移動と交流」が起きやすい社会基盤をつくる必要があると思っています。

−−経済大国の条件について伺ってきましたが、では先進国であるための条件とは何でしょうか。

先進国であるための条件とは、教育や雇用やインフラといったヒト・モノ・カネを司る社会基盤がしっかりしていて、高いレベルで運用する制度が全国隅々にまで整っている社会であることです。つまり社会基盤は先進国を維持するための資産なのです。国土や事業に投資するのであれば、日本の社会基盤が向上する方向にしなければいけません。いわば日本という国全体のCRE戦略・PRE戦略を考えるような視点が必要なのです。