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インフラ・施設の再構築と強靭化〈前編〉

CRE・PRE戦略はなぜ必要か

「CRE戦略・PRE戦略はまだ緒についたばかりですが、今後必ず国内で一般的になると思っています」

近年、民間企業で広まりつつあるCRE(企業不動産)戦略という概念。保有・運営している土地や建物などの資産を有効活用し、企業価値を向上させる経営戦略だ。一方、自治体をはじめとする公共団体でも、PRE(公共不動産)戦略という言葉が注目されるようになってきた。この動きにはどのような背景があるのか。CRE戦略やPRE戦略がなぜ必要なのか。企業や自治体が生き残るには。「国内インフラ・RE(不動産)再構築と強靭化」を経営戦略の一つに掲げる山下PMC川原に聞く。

施設の寿命が迫っている

−− 民間企業ではCRE戦略、地方自治体などの公共団体においてはPRE戦略という言葉が注目されるようになりました。その背景には何があるでしょうか。

今の社会は1960〜70年代に建設された高度経済成長期の資産で成り立っています。特に地方都市ではその傾向が強いです。たびたび述べてきましたが、これらがまもなく一斉に償却期間を終え、次の世代に向けてどうするべきかを考えなければいけない時期が訪れています。公共施設しかり、民間企業の建物や生産設備しかりです。

老朽化した稼働施設を更新する必要に迫られている企業は多いでしょう。その際、敷地内の建物を無計画に一つ一つ建て替えていくのではなく、最初から敷地全体の目標を定めておこうと考える企業が出てきました。施設の老朽化がCRE戦略を考えるきっかけの一つになっているということです。

当社でも現在、複数の製造系企業でこの種の業務に携わっています。建て替えや新設だけでなく、既存施設のコンバージョン(用途変更)、除却、減築などの方法も含めて、事業体系に合わせた全体最適化を行っていく必要があると痛切に感じています。

日本の社会の基盤を形作っているのは、高度経済成長期以降に建設されたインフラや施設。これから順次、寿命を迎える

−− 「製造業のCRE戦略最前線」では、製造系企業では次世代事業の構築にともなってCRE戦略の見直しを迫られているというお話がありました。

それも背景の一つです。今はイノベーションによる市場の栄枯盛衰が激しい時代ですから、世の中の変化に即応できるような事業体系の再構築が急がれていて、CRE戦略もその一環として注目されているのです。インテリジェンス機能は本拠地に集約し、生産・販売拠点は消費地の近くに配置する、というような施設体系再編の動きが見られます。

「持てば持つほどいい」とは限らない

−−他にもありますか。

会計制度のグローバル化が挙げられます。これまでCREは事業戦略の対象とされることがあまりなく、遊休地があっても企業は特に気にする必要もありませんでした。ところが企業の経営効率を判断する指標としてROA(総資産利益率)が注目されるようになると、事業に有効に活用されていない持ち物は少なくしたほうがいいということになります。さらにIFRS(国際会計基準)を適用した企業は、開発費の資産計上、リース資産のオンバランス化などによってバランスシートに影響が出ますので、IFRSを踏まえた施設体系を改めて構築する必要が出てきます。

−− IFRSを適用するような一部のグローバル企業以外には縁のない話のようにも思いますが……。

国内で企業活動する分にはCREを考える必要はないかといえば、そうでもありません。日本でも会計基準のグローバル化はひたひたと進んでいます。たとえば一定規模以上の会社に対して固定資産に減損会計の適用が義務化されたり、所有権移転外ファイナンス・リースは売買処理とする、つまり資産計上しなくてはならなくなるなど、バランスシートに影響する制度変更が行われています。もちろん日本の商習慣や企業風土に合ったやり方が必要ですが、大きな流れとしてはグローバル化に向かっていると思います。

かつては資産は持てば持つほどいいと考えられていました。企業の信用力に基づくコーポレート・ファイナンスという財務手法しかなかった頃は、担保になる資産を多く持っている方が資金調達に有利だったからです。でも今は、事業そのものの価値に基づいて融資を受けるプロジェクト・ファイナンスという手法も用いられるようになりました。その場合は事業の安定性や継続性、将来どれだけキャッシュ・フローを上げられるかの方が重要であって、企業の資産が多いほうが必ずしも有利というわけではなくなるのです。

品確法改正が地方を後押しする

−− 企業と違って営利を目的としない自治体などでPRE戦略が注目されているのはなぜでしょうか。

公共団体にとってのPRE戦略の最大の課題は、地域の生き残りです。少子高齢化によって生産人口が減り、税収が少なくなるのは確実ですから、既存の施設が老朽化したからといって同じものを作り直していたら次世代に重い負債を残すことになります。これからのインフラや施設は、少人口でも継続できる事業モデルでなければいけません。目標とする償却期間を50年に設定するか、100年とみるか。コンクリートの税法上の耐用年数50年をどう生き抜き、減価償却が済んだ後はいつまで持たせるか。次世代の事業体系と施設体系を確立することは、民間企業だけでなく公共団体にとっても重い課題なのです。

市民生活を支える公共施設にも寿命が訪れる。次に更新するときには、少人口で継続できる事業モデルを考えなくてはならない

−−公共にも民間企業と共通した問題意識があると。

こうした意識の高まりを受けて、制約が大きかった公共工事においても建築プロジェクト推進手法が進化しました。「品確法の向こうのビジネスチャンス」でもお話ししたように、2014年6月の品確法改正によって複数年契約や複数棟の包括契約も可能になり、自治体にとってPREのポートフォリオ戦略を立てやすくなりました。

同時に、民間のノウハウを取り入れた合理的な建設生産手法の選択肢も広がりました。たとえばデザインビルド方式が導入され、設計・施工・生産が一体化することによってフロントローディングが実現できれば、建物をどう運用するか、事業としてどう成り立つか、という議論を基本計画の段階でできる余地も生まれるでしょう。かつてのように「ハコをどうつくるか」ではなく、「ハコはどうあるべきか」に注力しないといけない時代になろうとしているし、制度もそれを後押ししています。さまざまな建築生産手法が使えるようになった今、いよいよ理想的なPREの実現に一歩近づけるようになったわけです。

−−実際のところ、日本ではCRE戦略・PRE戦略はどの程度普及しているのでしょうか。

今のところグローバル企業や、JRや日本郵政などの大規模CREをもつ企業から始まっています。けれども中規模CRE保有企業にも、次世代の事業体系・施設体系を真剣に構築する動きが生まれつつあります。また一部の自治体でもPRE戦略に向けた取り組みが始まっています。今やっとCRE・PRE戦略を練り上げる土壌が日本にできあがったところだと思います。CRE・PRE戦略はまだ緒についたばかりですが、今後必ず国内で一般的になると思っています。

山下PMCでは7つの経営戦略の1つに「国内インフラ・RE(不動産)再構築と強靭化」を挙げています。次世代のインフラ構築、次世代のCRE・PRE戦略をお客さまと共に考える、最大の支援者でありたいと思っています。

(取材・文 たかぎみ江)