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制度変更の先を読め〈前編〉

品確法改正でここまで変わる!

「品確法改正で、公共事業に日本の得意技を投入できる可能性が生まれたわけです」

今、公共工事に変化が起きている。2014年に品確法(公共工事品質確保促進法)が改正され、公共事業の発注・契約について、より多様な方式を導入する道が開けることになった。これは何を意味するのだろうか。川原によると、品確法の改正は公共工事だけにとどまらない発想の変化を呼び、建築・建設業の枠に収まらないビジネスモデルの変化を生む可能性があるという。制度変更の先に何が起きるのか、予想を聞いてみた。

公共工事に変革の時代が来た

−−最近、山下PMCではこれまでなかった公共工事の業務に携わることが増えてきました。石巻市の震災復興事業や、横浜市庁舎建て替え事業などです。公共事業で何が変わりつつあるのでしょうか。

公共工事のやり方は、長い間ずっと膠着していました。その根底にある発想は、まず単年度主義。長期の工事でも、年度ごとに工事契約をしなければなりません。それから後ほどお話しますが、設計・施工分離発注方式。そして、会計法が規定する入札や予定価格の制度です。けれども今や公共工事といえど、こうしたルールに縛られていては経済のスピードについていけません。現代では、たとえ儲かるビジネスモデルであっても、それを駆逐するような新しいモデルが4〜5年後には出てきて、一瞬にして市場を奪われるようなことが起きていますよね。スマートフォンがいい例です。公共事業とはいえ、これまで脈々と受け継がれてきたやり方ではもうそのような時代に対応できないのです。慣習を打破して、喫緊の課題にも柔軟に対応できる発注方式が必要とされるようになってきました。今回の品確法の改正も、そのような問題意識のもとに行われました。

日本の得意技を公共事業に投入できる

−−品確法が改正されたことによって、具体的には今後どんなことができるようになるのでしょうか。

まだ国土交通省から改正品確法のガイドラインと運用指針が発表されていないので、あくまで可能性として起こりそうなことをお話しします。一つは、これまでは設計・施工分離発注が原則だったので、公共工事の発注者はまず設計者に設計を発注し、その設計図に基いて入札で施工者を選定する、という手順でした。けれども品確法の改正で、設計もできる施工者に設計と施工を一体的に発注する、デザインビルド(DB)方式のようなやり方も条件によってはできるようになります。そうすると、施工者の技術、特に設計者が持っていない調達技術や構工法や施工法などの生産技術を、設計段階から取り入れることが可能になります。より工期を短く、予算を少なくする余地ができることになります。

設計・施工分離発注の図

これはプロジェクトに参画するすべての人に知恵を出すチャンスが与えられることを意味します。設計と施工が重なる場面が生まれたので、施工者も設計段階から知恵を出すことができますし、同時に設計者も施工的な知恵を学ぶことができる。これまでの設計・施工分離発注だと、設計が全て済んでから施工者が参画し、そこで初めて施工者がVE(バリューエンジニアリング)を行います。でもその段階でVEを入れても、それほど劇的な成果には至らないんですよ。でも施工者は設計者が知らないような工法や調達方法を持っているわけですから、もっと早い段階から参加して、細かい部分だけではなく骨格そのものから根本的に変えられれば、5%の減額が15%になりますよね。

−−それぞれの専門家がアイデアを持ち寄って共有することができるわけですね。

プレーヤーが自由な発想を多角的方向から入れられることで、投入される技術量が圧倒的に増えていくわけです。するとプロジェクトの洗練度が上がる。たとえば、トヨタの得意とするカイゼンという品質管理手法がありますね。あのようなメソッドを経営体をまたいで適用できる制度になったのですから、公共事業に日本の得意技を投入できる可能性が生まれたわけです。

自治体のPRE戦略が立てやすくなる

−−これまで単年度主義だったのが、複数年度をまたぐ契約もできるとなると、どのようなことが起きますか。

数年かかるような大きな公共建築プロジェクトでも、秀逸なアイデアを首尾一貫して実現できることになります。たとえば、首長が志の高い事業を着想したとします。その思想に基いて選ばれたプロジェクトマネージャー(PMR)や設計者が知恵を出し合い、そこで得られた知見を最後まで活かしながら、プロジェクトを進めることができます。

たしかに複数年度をまたぐ契約が可能となると、談合が起きやすくなるという問題もあります。でもその点に関して言えば、今回の改正で、プロジェクトマネージャーやコンストラクションマネージャー(CMR)など第三者を入れ、プロセスを見えやすくするしくみも採用しやすくなりました。プレーヤーを多くすることでモニタリング機能を発揮させて、透明化を図ることができるようになりました。

−−複数契約もできるようになりますね。

これまでは単体契約といって、一つ一つの事業ごとに契約をするのが基本でしたが、複数の事業を同時に契約することも可能になりました。そうすると、自治体の公共施設をまとめて捉えやすくなります。つまりポートフォリオ戦略、群管理が可能になるわけですね。ひいてはアセット戦略につながっていく。資産も施設運営も含めた、大きな意味でのPRE(公共不動産)戦略が構築されやすくなるということです。制度変更の影響はそういうところにまで及ぶのですね。

公共事業の多様化をめざす、国土交通省の改革

−−こうした公共事業の変革は、東日本大震災が契機だったと聞いています。

たしかに東日本大震災の復興事業がきっかけにはなりました。震災復興事業では、緊急の課題に対応するために、アットリスク型CMという方式や、ECI方式、デザインビルド方式など、すでに民間では浸透しつつあったいろいろなやり方が公共工事に導入されて、公共工事が変わる動きを加速させました。

でもそれ以前、2007年ごろからそのような動きはありました。公共事業の多様性に対応するというのは、国土交通省の遠来の目標だったのです。CRE(企業不動産)戦略という概念が世の中に浸透し始め、ではPRE戦略はどうするべきかという問題意識から出てきた議論だったと私は記憶しています。

脈々と続いてきた制度を打ち破って、新たな発想や生産手法を取り入れる、今はその過渡期です。私たちの会社はその先鞭をつけるようなプロジェクトに参画していますが、日本を変えるきっかけになればいいという思いで取り組んでいます。

−−国土交通省も時代の変化に則した改革を進めているのですね。

国土交通省は2009年ごろから建設振興を重視する発想に変わって、土地・建設産業局という日本を活性化するような部署もできました。進んだ省庁と言われていた経産省でさえ、国交省はよいモデルだとほめているぐらいです。公共事業は何も変わっていないように見えて、水面下では変わっているんですよ。

さらに、こうやって公共事業の制度が変わるというのは、一見建設業界だけの話に見えるけど、実は全くそんなことはありません。新しいビジネスモデルの誘い水となる可能性を大いに秘めているんですよ。