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横断的思考で建物をつくる〈前編〉

ジャンルを越えた発想が次世代建築生産を牽引する

「他業種と自由に往来できるフレキシビリティが建設に要求されるように」

建築・建設業は歴史の長い産業だ。長い時間の中で築き上げられた日本独自の建築生産システムは、世界的にもきわめて高水準の技術と正確さを誇っている。だがそれは裏を返せば旧態依然としたルールや慣習を残しており、時代の需要にそぐわない部分があることを意味している。建築生産システムに変革の余地はあるのか。経済が要求するスピード、社会のニーズに対応するにはどのような発想が必要なのか。川原社長に考えを聞く。

建築生産もジャンルを越えた連携を

−− 今日は現代の建築生産システムに求められる変化について聞きたいと思います。とはいえ川原社長は常に他の業界や業種の動向を意識しているように感じられますので、まずは今のビジネスの世界全体で気になっている動きから聞かせてください。

最近は民間のどの分野でも、異なる業種が協力したり横断したりすることで事業の課題解決を図ることが多くなってきました。たとえばIT産業では、医療や人間工学分野の知恵を交えながら、ロボットが医療介護をする未来を構想しています。自動車産業では、水素燃料電池を使ったモビリティを成り立たせるために、電池の開発や、水素の供給や流通のノウハウも同時に検討しています。企業や業界の中だけで完結するのではなく、ジャンルを横断しながら先進的な取り組みが行われている、という大きな動きがあると思います。

−− 異なる分野の知恵を交えて課題解決を図る、という動きは建設業にも訪れているのでしょうか。

近ごろは設計会社や施工会社でも、フロントローディングという製造業の手法を取り入れて、工程を前倒しするようになりました。とはいえ、企画、設計、見積、発注、調達、施工という建設業のバリューチェーンには、多くの担い手が関わっています。一社だけがフロントローディングを実践してもバリューチェーン全体のフロントローディングにはつながりにくいので、建築主にとってはあまりメリットを感じられないのではないでしょうか。けれども建築も、ITや自動車のようにジャンルを越えた連携を図ることで、もっと創造的な改良ができるはずです。

−− 建設におけるジャンルを越えた連携というのは、具体的にはどのようなことでしょうか。

たとえば医療機器メーカーが新しく研究所を建設するとします。メーカーにとって研究所は開発拠点であり、資産でもあります。ですからこの新しい建物の仕様には、業界の動向、薬事法などの法制度、不動産価値、事業の財務・会計、組織体制など、多くの要素が関係してきます。こうしたさまざまな要素をうまく建物に反映することができれば、より事業の目的にかなった研究所が完成して、経営戦略に沿った運用がしやすくなるでしょう。医療や不動産や会計といった他のジャンルの知恵も交えながら建物をつくることによって、メーカーにとってより価値のある建物になります。われわれの会社が目指しているのは、そのような建築生産の創造的な改良なのです。

事業戦略を建築の形に置き換える

−− そのようなサービスはもはや「建築」の枠組みに収まらないように思います。なぜそこまで建築業に求められるようになってきたのでしょう。山下PMCのお客さまはどんな要望をお持ちなのでしょうか。

かつては、研究所を建てたいとか、自社ビルを建て替えたいという事業主が求めていたものは、「建築」に限られていました。その施設で何を行うかがすでに決まっていて、それを実現するためのハコを作りたい、という要望だったのです。ところが今、山下PMCにお見えになるお客さまは、「研究開発と人材育成の拠点になる施設が欲しい」というように、事業戦略を建築の形に置き換えることを求めていらっしゃいます。他業種と自由に往来できるようなフレキシビリティが、こちら側に要求されるようになったのです。

−− お客さまのビジネスの変化に合わせて、建物の作り方も変わる必要が出てきたということですね。いつごろからそういう変化が起きたのでしょうか。

2007〜8年ごろから、製造業やインフラなど業種は違っても、複数のお客さまが似たようなご要望をおっしゃるようになりました。「新しい事業モデルを構築したいので、それにふさわしい施設を一緒に考えてくれないだろうか」と。新製品のあり方、社会の変化のあり方に対応する施設を作りたい。5年、10年経って会社の方針が変わったときに即座に対応できる建物を考えてほしい。組織改編にも呼応するような施設体系にしてほしい……。そういう相談に乗ってくれる会社は今のところあまり多くないので、われわれのところに来られるわけです。