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「メタバース」と建設業界の
浅からぬ関係
新しい技術を自分事として
取り込む習慣を

カタカナ語が飛び交う「デジタル概念」を整理する

皆さんは「メタバース」と聞いてどんなイメージを持ちますか。この単語がよく知られるようになったのは、2021年10月に米国の旧Facebookが社名をMetaに変更してからではないでしょうか。彼らは今後「メタバース」という仮想空間と関連サービスの構築に注力すると宣言し、日本のメディアでもこの単語がよく取り上げられるようになりました。

今回は、この「メタバース」が何を表し、建設業界はどこに着目すべきか、そして国内産業は今後どんな動きが予想されるのかをお伝えしたいと思います。

世の中には「メタバース」のようなデジタルや仮想空間を表すカタカナ語がいくつも存在します。そこで私は、2022年1月に出た書籍『メタバースとは何か』(岡嶋裕史著/光文社新書)を参考に、今ある概念がどんな関係にあるのか整理してみました。本で紹介されていた図から私なりの解釈とアレンジを加えたものが以下です。




まず私たちが暮らす「現実世界<リアル>」が存在します。デジタル技術の進歩から合わせ鏡のように現れたのが「疑似現実<デジタルツイン>」です。この<デジタルツイン>の世界は<リアル>を模倣していますが切り離せる存在で、<デジタルツイン>での出来事は<リアル>には影響を及ぼしません。

この2つの世界を包含するのが「現実志向<ミラーワールド>」です。<リアル>と<デジタルツイン>をつなぐ領域であり、<デジタルツイン>を動かせば<リアル>も動く関係を作り出します。GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)と呼ばれるテックジャイアント企業たちは、この<ミラーワールド>をさらにシームレスな世界にするため、莫大な投資と開発を行っています。

「仮想現実<メタバース>」について、私はそれらを全て包含してさらに拡がりのあるものだと解釈しました。先ほどの書籍では「現実とは少し異なる理(ことわり)で作られ、自分にとって都合の良い快適な世界」が<ミラーワールド>の外に存在すると説明しています。言い換えて「もう一つの世界」とも述べています。

これらの領域の大きな特徴は、GAFAMたちが主導権を握る中央統制型世界ではなく、構成する個々が自由に活動できる分散型自律世界が主流だという点です。私たちは企業から提供される技術やサービスに囚われることなく、全く勝手な、自分にとって居心地のいい世界を作って住むことが可能です。この情報の民主化は「Web3.0」と表されることもあります。

GAFAMたちはその流れをいち早く嗅ぎ取り、世界が「メタバース」へ移行するとしてもなお覇権を維持できるように、まず<ミラーワールド>領域での技術開発を急ぎ、併せて「メタバース」につながる世界に向かおうとしています。これが現在のデジタル空間と技術を取り巻く情景です。

では、私たち建設業界は「メタバース」とどう向き合えばよいのでしょうか。


NFT(非代替性トークン)はBIMの継承を進化させる

「メタバース」という仮想空間における分散型自律世界では、取引情報を改ざん不可能なデータとして保存し流通させるブロックチェーン技術が不可欠です。そしてこのブロックチェーン技術ととても親和性が高い2つの技術が、この5年で大きく進化しました。

1つはステーブルコインのような「暗号通貨」、もう1つは「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」です。




中でも私たちが注目すべきは「NFT」です。「NFT」はステーブルコインや貨幣のような同等価値のものと交換できる代替性ではなく、それぞれが固有である非代替性を持ちます。個別の認証を持ったまま流通させることができるので、唯一無二の存在を表せます。

この「NFT」は、建設プロジェクト運営に使うBIMに応用できるのではないでしょうか。

現在のBIMの活用方法はあまり効率的ではありません。企画BIM、基本設計BIM、実施設計BIM、施工BIM、運営BIMがそれぞれに作られ、リレーションもしにくく、基本はバラバラに存在しています。せっかく作成しても後工程で活用されにくいのが現状です。

しかし「NFT」を付与した1つのBIMデータを作成し、企画→基本設計→実施設計→施工→運営とデータを積み上げてお客様に引き渡すシステムを作ればどうでしょう。作成者それぞれのデジタル認証が担保されるため、現在のさまざまな課題が解決されるのではないでしょうか。

まず各工程が前工程のデータを利用でき、それぞれが第1段階から考え直す手間とコストが減ります。無駄な作業が減る分、各工程で行うべき専門領域に集中できて品質も上がるでしょう。問題が発生しても作業履歴が残るので、すぐ該当プロセスへ立ち戻ることが可能です。無駄なコストが減れば最終的にお客様にかかる総費用も減ります。仲介機能を排除して情報の連続性を担保した高品質なBIMを作成できる上に、お客様にも大きなバリューを残せるのです。

もちろんこの実現のためには、技術導入や作業フロー構築、それぞれ適切な報酬を得られるシステム作り、制度の見直しなどが必要でしょう。でも現在の不合理なプロセスと「NFT」導入後のメリットを比べれば、その初期投資は決して無駄ではないと考えます。むしろ遅れをとらないように今から準備を進めていいくらいです。「メタバース」の世界では、分散型自律世界に参加していない者は「存在しないもの」とされてしまうからです。


日本が世界で戦える分野は「技術」と「ハード」

IT業界ではGAFAMが力を持っていますが「メタバース」の進化は国内産業や建設業界の振興にもつながると考えます。もし「メタバース」の世界が広がれば、今私たちが「台帳」と呼ぶものは全てブロックチェーン技術によって刷新が可能です。同時に「台帳」同士の安全な連鎖が実現し、データの自動処理や自動運営によるコネクテッド・ファシリティが出現するでしょう。そのためには技術革新や施設変革が必要です。ここで日本企業のポテンシャルが生かせます。

技術についていえば、前回コラムでも述べた「パワー半導体」が大きなカギを握っています。例えば「暗号通貨」の流通には莫大なデータ処理を行うマイニングが不可欠で、その作業には多くの電力を必要とします。コネクテッド・ファシリティを機能させるためにはさまざまな装置やデバイスが求められ、それらにも全て半導体が使われています。世界中で日本製の「次世代パワー半導体」を導入すれば効率的なエネルギー利用が実現します。

施設についていえば、あらゆる場面で可能性があるといっていいでしょう。先ほどの「次世代パワー半導体」を製造する施設のほかにも、その半導体を機器に組み入れる工場、研究施設も必要です。建物には多くの電源や設備があり、建設関係者であれば設計や施工の過程でいくらでも変革の機会を得られます。日頃から「建設でどう対応できるか」と考えれば、答えはあらゆる場所に潜んでいる状態なのです。

日本の産業界としても新しい世界への対応が始まっています。NTTグループ、SONY、Intelが中心となっている「IOWN(アイオン)構想」では、2030年の実用化を目標に光技術を応用した高速大容量通信網を開発中です。「メタバース」が広がるほど、日本はハードの面から世界を牽引できる可能性があると思うのです。


建設は、あらゆる可能性を秘めた分野である

日々の仕事に追われている私たちは、新しい技術が現れてもつい「勉強する時間がない」「このままでも大丈夫」と捉えがちです。しかし世界は加速をつけて変化しています。数年前には使い方が見えなかったブロックチェーン技術も、今は誰でも手元の端末から簡単に利用できるようになりました。

幸運なことに、私たち建設業界は新しい技術を大規模に導入・推進できる立場にあります。今ある案件から見直すだけで人や建築物など大きな領域を巻き込んだ成果になり、ひいては社会を変えていくことにもつながっていくはずです。「メタバース」の進化は「建設の中で何ができるか」を考える良いきっかけになるのではないでしょうか。皆さんもぜひ新しい技術を取り入れる道を思考してみてはいかがでしょう。

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