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週刊 施設参謀

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自然エネルギーより有効な電力改革
「次世代パワー半導体」が持つ
未来への可能性

さらなる大容量・高速化 「次世代パワー半導体」

今回は、前回少し触れた「パワー半導体(パワーデバイス)」の可能性について語りたいと思います。パワー半導体とは、電力をはじめとするインフラや動力の制御・変換を行って生活基盤そのものを支えている半導体です。現在は主にSi(ケイ素)半導体が使われ、利用シーンの電力量と周波数によって領域があります。

例えば、高圧直流送電や大規模工場のモーターなどは「大容量・低周波数」、新幹線や分散電源などは「中容量・中周波数」、家庭用機器や携帯電話は「少容量・高周波数」の領域に入り、それぞれに最適なSi半導体が使われています。

近年はSi半導体に取って代わる「次世代パワー半導体」が実用化に向けて登場しました。これらは新素材を採用して半導体が扱える容量と周波数を劇的に向上させています。注目されているのは次の3つの化合物半導体です。

・SiC(炭化ケイ素/シリコンカーバイト)半導体
・GaN(窒化ガリウム/ガリウムナイトライド)半導体
・Ga2O3(酸化ガリウム)半導体

この3種が対応できる領域を比べてみてください。現在普及しているSi半導体の限界を超え、もっと大容量、もっと高周波な領域でも対応可能なのです。



自然エネルギーより効果的、電力サプライチェーン改善

次世代のパワー半導体にはもう1つ大きな特長があります。それは電力損失の低減です。

今の電力サプライチェーンでは、電気が発電所→変電所→工場や住宅などの末端施設→使用機器に到達し使用するまでの間、実に30〜35%の電力損失があるといわれています。電力変換と送電線を経るたびにそこを制御する半導体も経て、電力が損なわれてしまうのです。

次世代のパワー半導体はこの点が大きく改善され、電力損失が30%近く低減、スイッチング損失は85%低減するといいます。具体的な事例に当てはめると、今ある地下鉄の半導体を全て置き換えると電力損失が30%低減、民生用ルームエアコンならスイッチング損失が60%低減するという試算が出ています。

半導体による実際の効果も出ています。例えばLEDは、電気を流すと発光する半導体素子による技術です。以前は照明設備が電力消費の25%を占めていましたが、近年はLEDへ置き換わってきたことで10%程度にまで劇的に少なくなりました。

また次世代のパワー半導体は「低抵抗・高速動作・高温動作」という特長もあります。モジュールや周辺部品、冷却機構などの大幅な小型化・簡素化などが期待でき、その上で現在より大容量・高周波数の領域で使えるものなのです。

私たちがエネルギーについて考えるとき、おそらく最初に出てくる解決策は自然エネルギーの活用ではないでしょうか。確かに太陽光、風力、地熱などのエネルギーを電力に変換できれば社会は大きく変えられるでしょう。しかしそれらは不安定な存在でもあります。常に発電に最適な条件が得られるわけではなく、現在の必要電力をまかなうのは困難です。

そこで提案したいのが、次世代パワー半導体の積極的な導入です。

もし今あるSi半導体を全て切り替えれば、使用する機器はもっと小型で省電力化できるでしょう。送電・配電時に起こる電力損失が減るので発電した電気は無駄なく使えます。半導体を搭載した機器の性能も向上し、今より大容量で高速な処理が可能です。社会全体で30%近かった無駄をフォローできるとなれば発電量を増やさずに済むかもしれません。

電気の「発電方法」を見直すのも大切ですが、電気の「サプライチェーン」の見直しでもエネルギー効率を十分上げることができるのです。

建設業界で「次世代パワー半導体」を導入するには

建設業界で次世代パワー半導体に注目している人はまだ少数です。しかし多くの大規模建築物が建て替え時期を迎え、昭和から残っていた各種インフラが再構築されようとしている今が、これらの技術を取り入れる好機です。取り入れることが生活全体を変えるポテンシャルとなり社会構造までも変える可能性を含んでいます。

これらの技術を日本企業が牽引している点でも、私は大きな希望を見出しています。

ロームやサンケン電気はすでに次世代パワー半導体を売り出しました。三菱電機や東芝もここ数年で大きく研究を進めています。ロジック半導体やメモリ半導体は海外勢が強いのですが、次世代パワー半導体分野は日本が少しリードしています。

ただし、これら次世代パワー半導体を導入するには、同時に「これを制御するための情報網」の整備が不可欠です。社会や産業を構成する全てのアイテムに半導体が存在し、サプライチェーンの全てに影響している以上、半導体の性能がより高速化するのであればコントロールするための精密な情報管理が必須だからです。

実現するために一番のネックとなっているのは、施設や領域ごとに情報や作業が分断されてしまっている点です。建設業界ではそれがとても顕著だと思いますが、1つのビルを建てるにしても建築については施工会社、データ周辺については通信系企業、上下水道やガス・電気についてはそれぞれの専門工事会社など、つい分けて考えてしまいがちです。

しかしサプライチェーンを見直して電気やエネルギー供給を改善するのであれば、ビルの一部分だけでなく領域を超えた統合的な全体、ビル単体だけではなくインフラ網を含む街づくり全体で管理する世界を考えなければいけません。

電力と情報を密接に連動させる方法は、電力業界やエレクトロニクス業界では試みられています。でも建設業界ではその見地に立つ人がまだまだ少ない状態です。


リアル世界とデジタル世界をつなぐ人財を育てる

今回の次世代パワー半導体についても、電力分野での大きなインパクトに注目するのと同時に「他のインフラと組み合わせて全体を効率的に制御するにはどうするか」までを視野に入れるべきです。

このようなイノベーションが起こるとしたとき、建設業界はまだ受動的だと感じます。積極的に概念やネットワークを考えて「こうすべきだ、こうしてみよう」という提案や発想をする力が足りない気がするのです。

確かに現在の次世代パワー半導体は高価ですが、普及するほど価格は下がります。私たちはむしろこれを起点にしてインフラや建築物へ取り入れていく姿勢が大切です。

今の社会において半導体がどう位置づけられているかを概念図にまとめてみました。半導体はリアル世界とデジタル世界の両方に存在しています。そして半導体を中心にリアルとデジタルの世界が合わせ鏡のように発展しています。混ざり合うわけではないのですが、どちらの世界も社会には不可欠になっています。

各層には各業界と技術があり、まだ層ごとに分かれて捉えられています。しかし次世代パワー半導体に代表されるような大きな技術革新があれば全ての層に影響が及び、つなぎ合わせて構築し直す必要が出てきます。

もし社会を人体に例えるなら、次世代パワー半導体は「新しい内臓」のようなものです。「従来の腎臓と比べて体積が1/10で、体液を30%多く循環させることができ、肝臓の機能も併せ持つ臓器」ができたらどうしますか。単に腎臓の位置に置き換えるだけでは本来の機能を生かし切れないでしょう。身体能力や体格まで変わるかもしれません。神経系統にも変化が要るはずです。

建設業界では、いわば「腎臓の専門家は腎臓だけしか見ない」状態が長く続きました。しかし、これからは新しい技術を見極めて現場とニーズを結びつけられる、橋渡しの役割を果たす職能が求められます。

弊社は2022年から「YPMCゼロカーボンアシスト」サービスを始め、カーボンニュートラルを目指す事業者・自治体向けに具体的な戦略立案と実行を支援しています。ここでも求められるのは、あらゆる領域を視野に入れて目的を達成できる俯瞰的な思考です。

そして一番大切なのは、こういった技術を建設業界にも応用するつもりで常に観察し続けることです。未知の流れに気づき、自分ごととして考え続ければ新しい発想や人脈にも行き着きます。2022年はその胎動の年でもあると考えています。

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