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週刊 施設参謀

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人が交流しにくい今こそPMr/CMrを ~ 未来のフレームワークに対応できる人財育成

生身の人間が交流できない現場、新たな課題

やっとコロナ禍が落ち着き始めて再び経済が動き出しました。コロナ禍によって私たちのビジネスは何が変わったのか、これから何をすべきなのか、ここで一度考えてみます。

皆さんもご存じのように2020年春以降は人の動きに大きな制限がかかり、社会も経済もストップしてしまいました。逆に隆盛となったのはオンラインによる交流と文化です。これまでは出張が必須だった業務でもオンラインで話をするようになり、情報伝達手段として急激に普及しました。在宅勤務は当たり前で、もし社会状況が以前のように戻ったとしてもオンラインを活用した働き方は残っていくでしょう。

しかし弊害も出ています。生身の人間同士が交流しないために、人間のパッションやプロジェクトの真の狙いなど、本来伝えるべき感性情報が人から人へ届かなくなりました。

私は、今後どんなに新しい働き方や仕事が生まれたとしても、このリアルな対面や交流による情報のやり取りは絶対に失われないと思っています。なぜならビジネスやプロジェクトは単に業務プロセスだけで動くものではなく、人が介在して思いや意図を入れなければ良いプロダクトに結びつかないからです。

オンラインというテクノロジーを駆使した方法と人の感性による情報伝達、双方のバランスをどう取っていくのかがこれからのビジネス解決の大きなキーになっていきます。私たちが携わる建設業界でも同じです。

重要度が増すPMr/CMrの存在と役割

そんな中、建設業界ではプロジェクト全体をマネジメントするPMr/CMrの重要性が見直されてきました。彼らは現場で発注者/設計者/施工者を含んださまざまな人々の意図を汲む、ファシリテーターの役割を担います。意見を聞くだけでなく、各方面と調整をしながらプロジェクトを円滑に進めるのが仕事です。

過去の建設現場はPMr/CMrがいなくても回っていました。発注/設計/施工の各プロセスにはそれぞれ責任者が配置されて、彼らが前後の状況を見て言外にフォローし合う「阿吽の呼吸」が存在していたからです。確かにこれで多くのプロジェクトが進んでいました。

しかしコロナ禍によって対面交流がストップすると、この「阿吽」が機能しなくなります。仮に責任者同士の対話があっても、担当領域に注力するためプロジェクト全体を見通す視点が少なく、プロセスの継ぎ目では情報伝達不足が目立つようになりました。

そこで改めて注目されているのがPMr/CMrです。

PMr/CMrのもとには、発注/設計/施工だけでなく関係工事会社、施設ユーザー、建物のスペック情報もすべて集まってきます。どの領域がいつどんな工程を行うか、その影響はどうなるかも俯瞰します。従来なら担当者同士が会って話さなければ共有できなかった情報が、彼らのもとで一元化できるのです。

彼らは単に情報を持つだけでなく、全体を見渡しながら個々の工程がどのようにプロジェクトに影響を及ぼすのかも確認・マネジメントできます。これは「ファシリテーション機能」と「情報ハブ機能」の両要素を持つポジションなのです。

PMr/CMrを配置して一番メリットを感じるのは発注者ではないでしょうか。プロジェクトの全体像、個々のプロセスの進捗、今後の進行予定、最終的なビジネスへの影響など、知りたいときに発注者の参謀であるPMr/CMrに確認すればすぐ確認できるからです。対面交流が難しい建設現場でも出番が増えてきました。

そして、今後のビジネスにおいても彼らは大きな役割を期待されています。

未来のビジネスでも必ず「人」の力が求められる

未来のビジネスでは、仕事が以下の4領域に分類できると考えます。上下に「非構造的-構造的」の軸、左右に「論理的-感性的」の軸を置いて分けられる4領域です。左下の領域は「構造的-論理的」な範囲であり、AIが代替しやすい分野です。逆に他の3領域はまだ人間が考える・伝える・発想する余地があると言えます。

コミュニケーターは伝達者、人に対してビジョンや核心を伝えたり、AI自体にどんな仕事をさせるのかを決めてプログラミングしたりします。モデレーター・ファシリテーターは仲介者、プロジェクトやビジネスをあるべき方向へディレクションします。イノベーターは創新普及者、新しい世界や仕組みを考えたり組み合わせたりします。この3領域は、人間が高度な仕事を続けていくためには欠かせません。

この3領域で創造的な発想を生み出し、人のつながりによって具体的にものを造り、人の指示によってAIを動かすのが未来ビジネスのフレームワークです。AIに何をさせるかは人間が介在して指示しないと適切に機能しないでしょう。私たちは他の3領域を生かしてAIの力をうまく育てる必要があります。

建設プロジェクトの場において、これらを融合させるのがPMr/CMrです。近年のコロナ禍を経てその重要性は一層増しています。プロジェクト内に彼らがいるかいないかで、明らかに進捗や成果が変わっているからです。

対応できる人財を、建設業界でどう育てていくか

建築物だけでビジネスが完結する世界も終わりつつあります。それぞれの建築物が独立して存在するのではなく、AI機能やセキュリティ機能を有したブロック・チェーンによる情報ネットワーキングが実用に近づいてきました。

建築物内では資産や運営管理の自動化、施設やサービスの自動制御が進み、外部とのモノやサービスとも連動していくでしょう。建設生産の現場においてもどんどん自動化が実現していくのは確実な趨勢です。情報の質と形が変わっていき、PMr/CMrのように一手に取りまとめられるポジションが求められます。

新築施設では、すでにそれらを意識したシステムを組み込み始めています。既存施設でもこの変化に気づいた施主さんたちがシステムの見直しを始め、建築物の情報ネットワーキングに仲間入りできるようにデジタルデータ化を始めています。

これまで「2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点)を迎える」と言われていましたが、コロナ禍によるデジタル化推進によって時間は早まったと考えています。私たちは急いで変革に間に合うよう準備しなければいけないのです。

PMr/CMrを専業とする弊社でも、数年前から大きな変化に耐えうるプロジェクトと建築物を手がけてきました。しかし今後は既存施設も含めて積極的にこういった作業を担っていく覚悟を持たなければいけないと強く感じています。

また、同時に進めていかなければならないのは人財育成です。PMr/CMrのようなファシリテーター人財は建設産業のどこも育成してこなかった職能なのではないでしょうか。経営学やリーダーシップなど、経営マネジメントに基づく学問を学んだ人財がほとんどいません。しかし今後は経営的なセンスと知識を持ったPMr/CMrが強く望まれるでしょう。

私たちの会社を例に出すと、確かにこれまでは建設技術の専門分野を学んだ方々を多く採用してきました。現在、彼らには専門分野+αとなる武器としてマネジメントを学んでもらっています。初めに経営やマネジメントを専攻した人財を採用し、逆に建設について学んでもらう育成ルートにもチャレンジしています。

要は、どちらの専門性も欠かせないのです。ビジネスの世界を経験した人でないと出てこない発想もあります。技術を知らないと話せないこともあります。両方の要素を織り交ぜて複合したPMr/CMrが必要なのです。

世の中の変化を肌で感じている方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。技術的な専門性だけに頼らず「人をつなげられる人」を増やせるかどうか。それが今後のビジネスを左右すると考えています。

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