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週刊 施設参謀

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オリ・パラを終えて見えてきた未来 ~「多様な人々が集う場所」をどう創るか

2021年以降のスポーツビジネスを見直す

東京オリンピック・パラリンピック(東京五輪)が無事に閉幕しました。本来なら今大会が起爆剤となり、日本の観光業界やスポーツビジネスが大きく撹拌されるはずでしたが、残念ながらコロナ禍によってその効果を十分に得ることができませんでした。

しかし私は「開催に意義があった」と考えています。無観客という特殊な状況にもかかわらず開催が叶い、世界の人々を少しでもワクワクさせたり喜ばせたりできた、日本の良さを発信できたと思うからです。後年「パンデミックを克服した歴史的な大会」と捉えられるのであれば大いに成功といえるのではないでしょうか。

そして私たちは今一度「スポーツビジネス」のあり方について見直し、次の実行へ移すフェーズに立っています。

スポーツ庁は2015年に「日本のスポーツGDPを現在の5.5兆円(2015年)から15.2兆円(2025年)に引き上げる」という目標を掲げました。省庁がこのように明確な数値を出して宣言するのはとても画期的で、私は「国も本気でスポーツビジネスに力を入れるのだな」と認識したのを覚えています。

2017年には国土交通省が都市公園法を改正し、公園経営の軸足を「新規整備」から「既存ストックの活用」へ移す後押しをしました。これまで公園で極端に制限されていた収益を生む興行や商業施設の許容範囲が拡がり、民間ビジネスを含めた旺盛な投資が進んでいます。

さまざまな環境が整う中で大変革を遂げているのは、プロスポーツと新施設の関係です。代表的なのは球団とホームスタジアムの連携ですが、今はもっと複合化・多層化したビジネスが企画されて施設オープンを目指しています。

例えば2023年春オープン予定の「エスコンフィールド北海道」は北海道日本ハムファイターズの本拠地となるだけでなく、周辺を「北海道ボールパーク F ビレッジ」と銘打ったパークが囲み、球場を含めた新しいエンタメ・イベント・レクリエーションエリアになります。

新設と既存施設改修を織り交ぜて大改造中の「SAGAサンライズパーク」でもアリーナ施設と複数のフィールドを整備しています。バスケットボールやバレーボールなどのプロスポーツ、コンサートなどの音楽イベントが開催できるよう計画され、国民体育大会(国体)から「国民スポーツ大会」に名称変更される最初の大会となるべく、こちらも2023年の全面オープンを予定しています。

あらゆる場面で多層化が進むスポーツビジネス

これらの新施設は今までのスポーツ施設とどこが違うのか、項目を整理してみます。

特定のスポーツ種目だけにこだわらない

球場といえば野球チーム、コートといえばサッカーチームなど、従来施設は用途を限って設置されたものばかりでした。しかしこれからのスポーツビジネスを考えると1用途に絞った施設運営は財政的に難しく、多様なスポーツゲームやイベントに対応できる柔軟性がなければ運営を継続できません。

上述した北海道や佐賀の新施設でも核となるプロスポーツを複数種目で想定し、それぞれが年間数十試合を興行する予定です。加えて興行収益が大きい音楽イベントなどに対応できる設備を整えるほか、「そのイベントが目当てではない利用者」も丸一日使って周遊できる施設やエリアも用意しています。

今後はサッカーやバスケットボール、バレーボール、卓球などのプロリーグ誘致も可能になり、さらに東京五輪で注目されたスポーツクライミングやスケートボード、自転車競技などのスポーツ、eスポーツイベントでの利用なども視野に入れられるよう作っています。多目的利用が大前提になっているのです。

メイン施設だけにこだわらない

メインイベントがあれば開催施設だけ利用されるのが従来のスポーツ施設でした。しかし今後は施設周辺も利用者が楽しめる場所に変わります。「北海道ボールパークFビレッジ」では豊かな自然環境を活用した広大なスペースを用意、ファミリーで楽しめるキッズエリア、温泉やアクティビティ、ホテル施設なども設置します。

スポーツゲームなどのメインイベントが目的ではない利用者も、何度も訪れて過ごしたい場所にする。それが新施設のコンセプトです。

財政や運営でも自治体と民間が協力する

事業への出資方式も変化しています。もともとPFI方式も実施されていましたが、2017年の都市公園法の改正では新たに「公募設置管理制度(Park-PFI)」が創設され、民間事業者が設置する収益施設の規制が緩和されて参画しやすくなりました。

また目標予算に収めるため、設計と施工を一元化するデザインビルド方式や設計段階から施工者が関与するECI方式の採用など、発注する自治体の選択肢も増えています。できるだけ合理的に作る方法について官と民が協力する体制が整ってきました。

施設完成後の運営についても、所有権を自治体に残したまま民間事業者が運営できる指定管理者制度やコンセッション方式が取り入れられています。エリアや人流を含めてどうやって「にぎわい」を演出するか、民間での知見が生かせます。

利用者をシームレスにする

利用者が特定のスポーツを「観る」だけにとどまらず、さまざまなスポーツ・イベント・エンターテインメント・レクリエーションに対して「観る・体験する・買う」など幅広い楽しみ方を提供できる場にするのも大きな役目です。

同じスポーツでも、プロ・アマチュア・単に健康増進を図りたい人などレベルの垣根を取り、層をシャッフルして同じ場所で触れられる機会を増やすようにします。プロを身近な存在にするのです。もちろんそれを「観る」人もいていいと思います。

そして東京五輪を経験したからこそ重要な境界にも気づくことができました。それは「健常者/障害者」といわれる人たちの境界、LGBTなど社会で少数派とされる人たちとの境界です。日本は身体障害者といわれる人たちに対するバリアフリーは進んでいる国です。しかし精神障害者・知的障害者といわれる皆さんにも施設の門戸は開かれなければいけません。

解決するにはハードの改善と一緒にソフトやデバイスの改善、情報連係のシステム作りを行う必要があります。つまり整備されたハード同士をつなぐ方法をしっかり用意し、結節点で迷うことなく利用者を導けるようにソフトやデバイスを連係させる。最終的に誰もが不便なく施設を利用できる、そんな設計と実践が求められます。

これら全体を統括し、マネジメントする人財を置く

施設コンセプト、建設プロセス、マネタイズ方式、完成後のマーケティングなど、エリアとビジネス全体を見渡せるマネージャーが必要です。北海道をはじめとして、今後オープンする新施設でもプロジェクトを強力に引っ張っていくマネージャーが存在します。私たちは施設のプロフェッショナルとして彼らのコンセプトに合うプランを提供するほか、ケースによってはマネージャー役を担うこともあります。

日本ならではの独自性を発揮できるチャンス

スポーツ庁が掲げる2025年GDP目標15.2兆円を実現するには、上述したような複合化・多層化したスポーツ施設が必須です。いくつもの案件がすでに着工されており、数年後にはエンタメとスポーツ、レジャーが融合した施設が続々とオープンするでしょう。

初めは集客力のあるプロ野球が核になるかもしれません。しかし私たちが目指すのはもっと先、「誰もが集いたくなる場、誰もが楽しめる場」の創出にあります。ボールパークから発展したビジネスパーク化が本当のゴールです。例えば明治神宮を囲う森は、150年前に原野から造営されてうっそうと生い茂り、今も文化拠点としての役割を果たしています。私たちも同じくらい息が長く、密度の濃いエンタメ・イベント体験ができるエリア造り、施設を超えた場創りが目標です。

これは決してアメリカなど海外の真似ではありません。日本には日本の感性があり、破調を含めた独自の建物文化を持っています。スポーツビジネス構築とその施設造りは私たちのプレゼンスを高められる絶好の機会でもあるのです。

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