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実施設計は本当に必要か?~業界の不合理を一掃する好機が来ている

「慣習」から逃れられていない建設業界

建築の仕事に携わる人であれば、建設プロジェクトにおける「基本設計・実施設計・工事施工」という3つのフェーズは常に意識していると思います。しかし、この3フェーズは本当に私たちにとって必要なものでしょうか。

基本設計・実施設計は、建築基準法に代表される「法令」ではなくそれを支える制度や基準によって策定された作業であり、慣習的に仕様書・図面を作って工事施工へつなげることになっています。

基本設計では発注者の意図を計画にまとめ、設計図書や説明書、工事費概算書を作成します。実施設計では基本設計の情報を引き継ぎ、現場での工事がスムーズに行えるように「建築・構造・機械・電気」などの領域でさらなる詳細図を作成。使用する材料の数量がここで積算され、情報を基に発注者との工事契約がなされ、審査機関への建築確認申請が行われます。

そして工事施工へ続くのですが、施工フェーズでは建設業法が軸となるために互いの記述や設計を詳細につなぐ連携した定義がなく、情報の分断が発生しています。また施工図を作成する過程では必ずといっていいほど発注者からの条件変更が発生しますが、変更を反映した統一設計書がないまま、実施設計と食い違う情報で施工が進むケースは皆さんも数多く経験しているはずです。

結局、工事施工の段階で「建築・構造・機械・電気」の詳細図に加えられた変更を吸収した総合図を作り“本当に使用される”材料と数量を算出し、このフェーズでの見積が実際の費用になります。ということは、実施設計が作成されても実際のプロジェクトでは必ず変更が起こり、後工程で活用される確率が非常に低くなります。存在する意味がないのではないか、とさえ思うことがあります。こんな実施設計は本当に必要なのでしょうか。

実施設計が継続されてしまう理由とは

実施設計というプロセスを挟むデメリットは他にもあります。まず後工程にはほとんど響かない図面があるにもかかわらず建設プロジェクト内では大きな作業比重を占め、設計会社ではこの資料のために長い期間と多くの作業人数、多大な費用がかけられるという点です。

また工事を担当する施工会社は、工事施工の段階で実情と実施設計がかけ離れることを織り込んで作業せざるを得ません。現場での調整作業を見越して期間や予算を増やせばお客様である発注者にコストがかかり、逆にオーバーした予算を施工業者が引き受ければ泣き寝入りです。実施設計を作成してもステークホルダー全員がメリットを得にくい状態なのです。

このように存在意義が疑わしい実施設計が今もなお作成され続ける背景には、国による告示の存在があります。基本設計・実施設計の2つを設定し、予算配分を3:7とする指標が出されているからです。日本の建築投資案件のうち1割強を占める公共工事プロジェクトでは、この方式が採用されています。残り約9割の民間プロジェクトの多くも「慣習の制度だから」と疑うことなく作成を継続しています。

設計を担う設計会社からすれば、予算の大部分を占める実施設計に力を入れたくなるのも当然とも言えます。しかし先進的な民間プロジェクトでは見直しがスタートしました。誰も得をしない実施設計をやめ、基本設計から現実的な総合図への効率的な情報伝達システムを構築する手法が進められ始めています。

民間主導で制度はどんどん変えられる

私たちが推進しているのは、CMr(コンストラクションマネージャー)/PMr(プロジェクトマネージャー)の活用です。彼らは発注者であるお客様のコンセプトを汲み取り、企画、設計、施工、竣工から運営までを俯瞰してマネジメントします。制度に合わせるためだけの設計や人員配置をやめ、お客様のために、そしてプロジェクト推進のために、時間とお金をかけるべき本質的なポイントに注力できるよう各所の調整を進める役割です。

当社以外でもCMr/PMrに従事する企業は増えてきました。コロナ禍によって全国でも建設プロジェクト情報のデータ化・一元化が促進され、CMr/PMrの情報ハブとしての役割、効率化をめざす調整者としての役割がますます注目されています。この流れは、止めてはいけないというより一層広めたいと考えています。

なぜなら、こういった民間主導の効率化が広まっていけば、省庁が発する告示や国が定めている法律も変えていくことが可能だからです。これまでの告示や法律の変更も元をただせば現場での潮流であり、その流れが省庁を動かして実現してきました。今「慣習だから」とあきらめている不合理・非効率も、これからの私たちの活動次第で変えることができると考えます。

冒頭から述べている実施設計の改善はその大きなターゲットの一つです。国内の建築投資案件の9割を占める民間プロジェクトで実施設計をやめ、そこでの費用や労力はもっと上流のクリエイティブな基本設計に振る。3:7の予算配分に縛られてきた設計会社は基本設計で創造力を発揮できるようにし、その発想と設計力に十分な報酬が払われる、配分に囚われないシステムに替える。

プロジェクトの初期にコンセプトを固めて基本設計に反映すれば、改めて実施設計の詳細図のような図書を作成する必要がなくなります。もし発注者からの変更があったとしても、変更情報を常に基本設計データ上で一元管理して誰もが確認できるようにすれば、工事施工プロセスでも一貫した真の正確な設計図書を参照できます。

このマネジメントは各フェーズの担当者が受け持つのはとても難しいでしょう。やはりCMr/PMrのように異なるレイヤーからプロセスを俯瞰できるマネジャーを配置するのがベストです。もちろん、これには高度なプロジェクト推進ノウハウが伴うことも事実ですが、彼らの働きは大きく、私たちの案件でも効率的な進行は数々の高い評価を受けています。

テクノロジーと人の力、両輪で業界に変革を

ただしCMr/PMrの配置だけがゴールではありません。組織面のほか技術面での改革も両輪で進める必要があり、すでに開発が進んでいる部分もあります。例えば建設業界で活用されるBIM(Building Information Modeling)では、基本設計で現在よりも詳細な情報を入力するシステムが検討されています。

これが実現すれば、基本設計BIM作成時に必要な材料の数量を自動計算で算出できるようになるでしょう。これまで行っていた概算→積算→見積のプロセスのうち、積算を行わずとも早い段階で精度の高い自動概算を出せるのであれば調達スピードも効率も上がります。

正確性の高い情報を基本設計という上流工程で集約できれば、実施設計フェーズを省略してプロジェクト・サプライチェーンそのものを大幅に短縮でき、そこにかけていた時間と人員はよりクリエイティブな基本設計へ振り分けられます。工事施工フェーズでも不正確な情報で混乱することなく発注者が本当に欲しい建築物を常に意識しながら施工し、無駄のない予算でそれを実現できるでしょう。

そして、最終的に全てのメリットは発注者であるお客様が享受できます。建設プロジェクトという、お客様にとって命運を託す「危ない橋」を渡る期間はとても短くなります。不必要なフェーズを省くので全体予算は無駄のない形に削減できます。最後に現状に合った正確な簿価を手に入れることで的確な施設運営も行えるはずです。

これら各種データを誰でも分かるUIやダッシュボードに整理するシステム構築も大切です。従来の設計図書や竣工図書のように専門家すらその意図を読み解けない情報で出力しても運営には有効活用できません。そもそも発注者であるお客様は、建設プロジェクトよりもはるかに長い期間を施設運営に投じます。そのとき常に参照できる正確な建築情報をお渡しするのは私たちの大事な責務なのです。

技術的な進歩を見ると、あと5年以内にはシステムが出来上がると考えます。企画から運営まで一気通貫で必要なデータを共有することが可能になるわけです。これまで大きな声では言えなかった業界内の不合理を一掃するチャンスでもあります。大きく変化する時代に遅れないように私たちも変わっていきましょう。

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