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週刊 施設参謀

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データサイエンス領域は建設にも不可欠~育成・発見を自覚的に行う企業が伸びる

事業と施設の運営サイクルを立体的に考える

前々回では建設における「企画・建築・運用」という3つのステージを提示し、施設の「運用」から次の「企画」までに建設業界ができる役割を紹介しました。前回は「建築」に注目して、従来の建設プロジェクトから何をブラッシュアップすべきかお伝えしました。

これらの概念を1つの図解にまとめたのが以下です。

下部の環は、事業者視点で考える施設事業運営のサイクルです。それは左から右へ抜けて終わる直線の時系列ではなく、今の活動が必ず次に影響していく環であり、ビジネスがある限り連綿と繰り返される周期です。

事業者から見ると、建設プロジェクトが完了して新施設の運用が開始される右下時点がスタートになり、向こう側にある円の曲線部分が収益と支出のバランスを見ながら施設を「運用」していく期間です。一回りして左下にある事業発意の段階を迎え、次のビジネスを形にして建築物としての「企画」を立てます。このときに私たちがすべきことは何か、というのが前々回でのお話でした。

事業者にとって1つのビジネスの区切りと考えられるのは、左下で新たな建設プロジェクトが開始する時点です。元来、建設関係者にとってはこの時点から成果物を引き渡すまでの「建築」が主な仕事であり、事業者にとって自分の手が及びにくい「危ない橋」期間と言えます。この期間をどう改善していくかが前回でのお話でした。

今回は、この全過程において求められる俯瞰的な存在と、そのために必要な人の力について詳しく解説しようと思います。

全過程で求められるデータサイエンスのスキル

図解にもあるように、カギとなるのは「データサイエンス」です。経済誌や採用情報でよく登場する言葉なので、皆さんもすでにご存じではないでしょうか。

私が定義する「データサイエンス」は、単にビッグデータなどを集めて情報を整理するだけではありません。統計学や情報工学など多岐にわたる分野の手法を用いて有意義なデータを導き出し、さらにそのデータを用いて課題を発見・形成し、さらに解決の道筋までをつけて初めて「データサイエンス」と言えると考えています。

IT系分野でこれまで必要とされていたのは、要件定義を受けてシステムを設計し、その通りにプログラミングできるエンジニアとしての能力でした。これでも確かに計画した通りのビッグデータ収集システムはできるかもしれません。しかし、今後ニーズが高まるのは「そのデータから何を読み取り、どう動くか」を判断する力です。

それを実践する「データサイエンティスト」が具体的にどんな働きをすればよいか、図解から読み解くことができます。まず存在するのが、世の中のさまざまなニーズ/シーズ/ウォント/ウィッシュなどの要望です。上部の漏斗のように収集して検討することが可能です。まず、この中から自分たちの事業に必要な要望を取り出す必要があります。

ビジネスの芽となる要望を抽出するためには、データを任意条件のフィルターにかけるプロセスがあります。フィルターを設定するには下部で回っている事業サイクルを熟知し、何が業界の先端となるのかを判断するマーケティング・センスが求められます。「どんなフィルターが最適か」「その作業にはどんなAIを使うべきか」「解析・処理されたデータからどんな課題が見つかるか」を見極めるためです。

ここで見つけた課題や道筋を、建築物や事業のマーケティング、意表をつくイノベーションなどにつなげるまでが「データサイエンティスト」の仕事です。前々回で「ミッシングリンク」としていた期間でも世の中のニーズやシーズにフィルターをかけて課題抽出や分析を行い、プロジェクトとして可視化・具現化につなげる業務と言えます。

そのためにさまざまな情報をつなぎ合わせる、分かりやすくビジュアル化する、事業領域との掛け算ができる、などのビジネスインテリジェンスが求められる仕事でもあります。

データを統計学的に処理するだけでは何の役にも立ちません。得られたデータからテクニカルに次の戦略を示せる人財が「データサイエンティスト」と呼ばれます。しかし、そのスキルを持った人は圧倒的に少ないのが実情です。

建設業界も、この潮流を逃してはいけない

近年「データサイエンス」の重要性が注目されるようになったのは、2つ理由があります。1つはビッグデータを集める基盤が整い、安価に大量のデータをストレージできるようになったからです。以前なら多額の予算や人員が必要でしたが、スマートフォンなどの端末やアプリを使うことで手軽に収集が可能になりました。

もう1つは、プラットフォームビジネスやマッチングビジネスの隆盛により、ビッグデータを利用したビジネスが大きく成功する可能性が出てきたからです。UberやAirbnbのように着眼点次第ではデータが巨大ビジネスになり得る、そんな機運がここ数年で高まってチャレンジする人たちが増えました。

誰でもデータを上手にコントロールすれば新しいマーケティングやイノベーションにつながります。建設業界でもこの潮流を生かして、さらなるビジネスを展開すべきです。

私たちが今できる、データサイエンス領域への準備

建設業界で上記のようなスキルを持った「データサイエンティスト」がいれば、さまざまな課題解決が期待できます。例えば彼らの知見に沿ってビッグデータ利用を前提とした施設設計と建築を行い、運用データを直近のビジネスに反映できる仕組みを構築できれば、事業サイクルのどの期間でも変化に即した戦略を打ち出し続けることができます。

また、AIを介したビッグデータの解析が的確にできれば事業発意までのサイクルも短縮でき、ニーズへの精度を高められます。集めたデータはグラウドのような共有財産になり、そこから発想してさらに新しいアイデアを事業化できるでしょう。

市場での需要があるのに人財が少ない、建設業界ではまだ積極的に取り組む企業が少ない、という状況は、私たちに2通りのチャンスを与えてくれます。

1つは自分たちが「データサイエンティスト」のスキルを身につけ、ブルーオーシャンに乗り出すことです。一般社団法人日本ディープラーニング協会では「G検定」「E資格」を設け、スペシャリストの育成と市場への浸透を図っています。現段階で信頼をもって準拠できる基準の1つです。

もう1つは、「データサイエンティスト」のスキルを持った人財や企業と連携して、現在の建設プロジェクトから彼らの知見を積極的に取り入れる方法です。「データから戦略を見出せる人」と「お客さまの事業を熟知する人」は同一人物でなくても構いません。チームとして機能できるようにコンソーシアムを組めば同じ効果を得られるからです。当社では後者の連携を活用しています。これは地域を問わず皆さんに応用しやすい方法ではないでしょうか。

建設業界が長年抱えている課題は、個々の企業がそれぞれの役割だけを果たして終わってしまう、ある種の縄張り意識です。しかし今後はデータ類とそれを活用できる人財がどの局面でも不可欠となり、情報の共有利用や領域の混合がビジネススタイルの主流になります。早期に準備を始めた企業から未来に向けて抜きん出ていくでしょう。

基盤は今からでも作ることができます。データ化されていない関連書類があれば少なくともPDFに変換する。今後の「発注図書」や「竣工図書」は多くの人がアクセスできるデジタルデータで作成する。日々それを進めるだけでも将来への礎になります。前々回から続く話はコラムタイトルの如く「ブルーオーシャンだらけ」です。このチャンスをしっかり掴んで行きましょう。

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